第2話:終末の村 中編
「手慣れてるけど野営はよくやるのか?」
火を起こすまでの手順に一切迷いがないエルを見てバクが言った。
「野営はあまりしないけど、村でも火起こしするから」
「え、そうなの?」
(もしかして、文明レベルが低い世界なのかな?)
いつの間にか眠りについていたバクが目を覚ますと視界には爽快な青空が広がっていた。
「気持ちいい朝だな」
そう呟きながらも身体を起こすと痛みはすでになくなっており、獣に噛まれたはずの左肩の傷も塞がっていた。
寝たまま死んでしまう、なんて可能性すら覚悟していたバクにとってはかなりの朗報だったのか、未だ眠りについているエルの体をゆすり出した。
「おい、おい! 俺の肩治ってるんだけど!!!!」
エルは半目状態でバクの喜ぶ顔を見てから無表情のまま呟く。
「そりゃ、一晩も寝れば傷くらい塞がるでしょ」
「いや、塞がるわけねぇだろ!」
バクのやかましい声で完全に起こされてしまったエルは怪訝そうに首をポキポキと鳴らして、背伸びをした。
数秒空を眺めて、数回の深呼吸。
「じゃあ、行きますか」
「え、早くね。起きてすぐじゃん」
そんな反応をしたバクを見下すように冷ややかな声音で吐き捨てる。
「呑気なこと言ってるから獣に囲まれるんだよ」
(なんか冷たい。朝に弱いタイプなのかな)
エルの村に着くまでの道中も獣は現れた。
それでも群れに遭遇することはなく、命の危機を感じることもなかった。
バクは昨日の感覚を思い返しながらエルを助けた時の再現をしようとしていた。
相変わらず、魔力とか魔法とか詳しいことはわからないが自分の体に高熱を纏わせる方法は感覚的に出来るようになった。
血走った目をしたモルモットのような獣がバクに飛びかかり噛みつこうとするも、接触した牙から溶け始めて一瞬のうちに火だるまとなった。
その光景を見たエルが尋ねる。
「昨日も思ったんだけど、その魔法なんていうかね。スキルはポップ、ポップなんたらで、魔法の属性は?」
「多分、水」
「んー。それなのに獣が一瞬にして消し炭になるような火力って。本当に意味が分からない」
きっぱりと言い切られるとあははと笑って誤魔化すしかなかった。でも、一番知りたいのは当人だということだけは忘れないでもらいたい。
それから数十分ほど歩き続けると、大きな岩陰が見え始めた。
エルはその岩を指差して「あそこが入り口」と嘘みたいな事を言った。
岩に近づき触れてみると、その物質はプラスチックに近い手触りをしていて自然物でないこととエルがふざけていないということの二つを確信付けた。
エルは、岩のてっぺんに手のひらを乗せて目を瞑る。
草原を駆け抜けるような風が彼女の柔らかな髪を踊らせるように吹き荒れて、気がつくと森林の中にいた。
「え、ここどこ。あれ、草原は?」
「特定の人物が魔力を流すと転移させるアイテムだよ、って。結構常識なんだけどな。バクって何も知らないよね」
うん、まだこの世界に来てから一日も経ってないんです。なんて言えるはずもなく、あはははと笑ってやり過ごした。
それから村についたという割に何もない森林をエルと歩き、しばらくすると木々が伐採された広場に出る。
悪く言えば廃墟。よく言えば遺跡。
「おい、これが本当に村なのか?」
その時、背筋がピリつくような感覚に苛まれ振り返ると槍の先端が目の前にまで迫っていた。
(ヤバい、当たる)
バクは高熱を纏い、正面から槍を溶かした。
突き立てたはずの槍が消し炭になった状況が理解できないという困惑の顔を浮かべている男。
パンパンに肥大した筋肉と獣よりも鋭いその眼光にバクが一歩後退した。
「エル。これはどういう……」
バクが振り返るとそこにエルの姿はなく、その代わりと言わんばかりに広場に向かって屈強な男たちが集まり始めた。
(まさか、あいつ騙したのか)
すると、槍を溶かされた男が無表情のままに呟く。
「三日ぶりのメシだ」
こいつ、今俺を見て飯って言ったよな。絶対、喰う気だよね。
獣に喰われるならまだしも、人間に喰われるなんてごめんだ。
それに、生きたまま喰われる痛みなんて二度と味わいたくない。
バクは不恰好にも構え始め、自分よりも強そうな男たちとの戦闘を覚悟した。




