第1話:転生したのに得られたスキルは『ポップコーン』でした⁉︎ 後編
バクは辺りを見渡した上で何種類の獣に狙われているのかを確認していた。
「ライオンと狼のミックスみたいなのがいるな。あとは、目が血走ったモルモットみたいなやつか。遠くの方には麒麟みたいなのにえげつなく長い牙を持った獣か。まず一番厄介なのは」
バクが口に出して状況を整理している間も獣達にとっては関係がなく、肉食モルモットが数十匹の群れで一気に襲いかかる。
その瞬間、バクは地面に手のひらを向けた。
「出てこい。ありったけのポップコーン!」
獣たちから視界を奪うほどのポップコーンの山が一秒ほどで完成し、バクはそれを囮に獣たちの群れから抜け出していた。
「よっし。所詮は獣よ。人間様とは脳みその出来が違うんだな」
喜びつつも走る速度を上げていくバク。あっという間に肉食モルモットは撒くことができたようだ。だが、待っているのは次なる強敵。
「次はオオカミもどきだな。いや、ライオンもどき?」
ざっと見ただけでの数十匹はいて、モタモタしていると肉食モルモットの群れもやってきてしまう。
辺りは見晴らしの良い草原で逃げも隠れもできない。
バクに残されているのはポップコーンを生成し続ける道のみだった。
「うぉりゃぁああああ!」
ポンポンとものすごい勢いで弾け出すポップコーン。その波に足を奪われ、押し出されていく獣。
バクとの距離は離れていき一見うまくいっているかのようにも見えた。だが、この作戦には決定的な弱点があった。
「はあ、はあ。だめだ。もう、力入んないや」
魔力切れ。
レベルの数値がなければ魔力量の数値すらもない。自分が一つのポップコーンに対してどの程度の魔力を消費し、どのくらいの時間で魔力が回復するのかすらわからない状況。
唯一の救いといえば、遠くからこちらを狙っていた一番危険そうな麒麟みたいな獣が逃げ出してくれたことだろうか。
大量のポップコーンの波を見て危険だと判断したんだろうな。
だが、このポップコーンに触れた奴らは気づいている。攻撃力を持たないただの食糧であるということに。
一層のことポップコーンでも食べて腹を膨らませて欲しいと思いつつも、そんなささやかな願いが叶うはずもなく、獣は戻ってきた。
「畜生。やるだけやるか。いや、待て。俺はなんで抵抗してるんだ」
そんな疑問が浮かんできた。
そもそも一度死んだ身分でみっともなく生にしがみついて何になるというんだろうか。
しょうもなかった人生にようやく蹴りをつけられたというのに、なぜ今更抗おうとするのか。
異世界転生?
笑わせやがって。
俺はもう死にたいんだ。
バクはポップコーンを嗅ぎ分けてやってくる獣を前に両膝をついて抵抗をやめた。
獣達は警戒をしているものの少しずつ距離を詰めていき、一匹がバクの左肩に噛み付いた。
「うわぁああああああ!」
前世では意識を飛ばされるほどの衝撃で痛みなんて無かった。
でも、弱肉強食の世界で喰われるという事は、ただただ痛い。
「クソ、離れろ」
振り絞るような声も儚く、獣の牙はより深くに突き刺さっていく。
(ああ。これで、本当に終わりだ)
大量の出血から遠ざかっていく意識の中で、バクが瞼を閉じとかけた時少し離れたところから女性の声が聞こえてきた。
「水玉!」
誰の声かも分からず、目を開けると水が掛かった。
「は? なんだこれ」
視界も掠れている中で声がした方に目を向けると、そこにはスカイブルーの髪色をした少女がいた。
獣達の群れから少し離れた場所。岩の上からこちらに手のひらを向けている、ということは魔法か。
バクは諦めたような笑みを浮かべた。
「魔法ってこんなもんなの。じゃあ、死ぬ運命だったんじゃん」
バクには残された力もなく、口パクで『逃げろ』と女性に伝え続けた。
でも、彼女は瞳から光を消す事なく声を張りあげる。
「私が必ず助けます!」
そして、手と手を合わせてから先端をこちらに向ける。
「圧縮水弾」
先ほど放った魔法の上位互換のようだが牽制にもなり得ない。
威力も少し金額の張る水鉄砲くらいだろうか。とても、肉体に傷を入れるような殺傷能力はない。
バクは、最後の力を振り絞り大きく息を吸う。
そして全てを吐き出すように口を開いた。
「逃げろ!! お前も死ぬぞ!!!」
大声を上げたことに反応して獣が暴れ出し、牙が体内で動き回って再び激痛が襲いかかる。
そんな中でも決死に水鉄砲を飛ばしている彼女の必死な表情が脳に焼き付いて、意味がわからなくて困惑してしまう。
なんで、見ず知らずの人間のために命を張ろうとするんだ。
この世界の人間は皆そうやって生きているのか?
「俺は。もう死にたいんだよ」
バクがそっと呟くと、遠くから援護射撃を続けていた彼女が血相を変えて再び声を張り上げる。
「あなたが死にたいのなら。もし、本当に死にたいのなら。何故、魔物はあなたを噛み切れない! 魔物が喰い切れていないのはあなたが命を諦めてない証ではないだろうか!」
うるせぇんだよ。
見ず知らずのやつに分かった風な口聞かれんのが一番ムカつくんだ。
お前に俺の何が分かるんだ。
俺はもう、人生なんてどうでも良かったんだ。
苛立ちを含んだ眼光を向けたその時、彼女の背後に迫り来る獣が見えた。
(ヤバい)
「おい、うし……ろ」
噛まれているのは左肩のはずだが喉が焼き切れたように痛みだし声にならない。
でも、彼女は背後の獣に気がついていない。それだけ必死でただ一人の男を救おうとしている。
クソ。なんだよ。なんなんだよ。あのクソ神擬きも、あのクソAI擬きも、偽善者ぶった見知らぬ女も。全部がムカつく。そんで
俺は、俺自身に一番ムカついている。
もう残された力も、時間もない。
持っているスキルはゴミみたいな理由でつけられたポップコーンというスキル。
適正魔法は水。だが、魔法の使い方なんてわからねぇ。
待てよ。そもそも、俺はどうやって大量のポップコーンを生成した?
生成した後に来た疲労感から魔力とやらを消費したのは間違いない。となると、魔力という力の源自体は俺の身体から流れでいるはずだ。
あの女は、俺が命を諦めていないと言っていた。それも確信を持って言っていたんだ。
思い返せば俺に噛み付いてきた獣はこいつだけで、他は未だに様子を見ている。というよりも俺の息が絶えるのを待っているかのようだ。
こいつらは俺の何かに怯えている。
この世界の奴らに見えていて俺に見えてないものがある。
バクは目を瞑り、小さく呼吸を整え始めた。
集中状態の中で微かに見える光の渦のような力の根源。
これが魔力だとして、次はどうすればいい。
そもそも魔力ってなんなんだ。
バクが目を瞑っている最中で彼女の悲鳴が草原一帯に響いた。
その声に反応して目を開けると、彼女は獣に背後から噛まれており純白の衣類が赤く染まり出していた。
「やめろ、やめろ」
目の前で自分のためなんかに死ぬ人間がいてたまるか。
バクはよろよろになっていた足の筋肉に力を入れ直した。
バクの身体は次第に赤みがかり蒸気を発し始める。
その瞬間、ボンッという爆発音が地面を砕き、目でも追えぬほどの速さで彼女に噛み付く獣の額を鷲掴みしていた。
「おい、離せよ」
バクから向けられた決死の眼光、殺意に満ちた雰囲気に獣は怯え出す。けれど、逃げる間もなく毛が燃え上がり消し炭となった。
「はあ、はあ」
乱れる呼吸を整えながら、振り返ると自分に噛みついていた獣の焼き消された後からこの地点までのポップコーンも黒く焼け焦げていた。
バクと彼女を囲むようにしていた獣の群れも、圧倒的な力の差を前にして逃げ出していく。
その光景を見届け、安心したバクからは蒸気が消え意識を失った。




