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雨か......久しぶりだな。

 楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。


「ふん。絶望して抗う力もなくすか。こいつもあとで燃やしておけ。」


 男がつまらなそうに冷淡な声でそう告げる。兵士は俺からどき、後ろ手に両手を縛ろうとする。


 ポツリポツリと雨が降ってきた。突然の雨だ。人々は突然降ってきた雨に戸惑っている。


 否、そうではないのだろう。雨そのものを知らないのだ。民衆の目からしたら、水が空から降ってきているように見えているのだろう。なぜなら、この世界で雨が降ったことはほぼないからだ。


 一部の地域で降ることはある。しかし、それは生物による影響又は雪という形でしか降らない。ましてや近くに雪山などない人々からしたら、知るよしもない。


 雨は段々とその勢いを強め、土砂降りとまではいかないものの、傘を手放せない強さになった。同時に気温も寒いほど下がってくる。


 もちろん、雨を知らないのは目の前の男も同様であり、顔にかかる雨を鬱陶しそうに拭いていた。


 雨は落ち着く。あの地面に当たる音、たまに聞こえる雷。観衆のどよめきなどない、静かな空間でその音を聞いて眠りたい。


 少なくとも今はそういう気分だった。


 俺は突然の雨で動きが固まっている兵士をよそに、ゆっくりと立ち上がる。さっきまで押さえつけられていたせいか、所々体がしびれている。


 雨が俺の中の怒りの炎を鎮火しているようだった。怒りが飽和して逆に冷静になってしまっている自分がいる。いや、冷めてるのか。すべての事象に対して。


 さっきまでレサとロサがいたところを見て、心がスコップでえぐられるような痛みを覚える。何度夢だと思い、まばたきや頬を叩くなどしても、そこに残るのは燃え尽きたロープの灰だけだ。


 二人を燃やした張本人であろう目の前の男に目を向ける。


 男もその視線に気づいたのか、俺を見て嫌らしくニヤリと笑う。


「今更立ち上がったところで何もできないぞ?どうする?今なら見逃してやるが。」


 男は合図し、周辺にいた兵士たちがジリジリと距離を詰めてきているのを感じる。


 雨が降っているのなら僥倖だ。逆に使いやすくなった。


 俺は周囲の兵士たちを凍らせ、これ以上俺に近づけないようにした。


 兵士たちが突然氷の塊になってしまったことで、男はうろたえた。


「貴様、何をした!?それとも他に協力者でもいるのか!?」


 と、俺を警戒しつつ周囲をキョロキョロと見回す。しかし、他に協力者らしき人物が見当たらなかったのか、チッと舌打ちをし、俺に話しかけてくる。


「そうだ、お前も我が配下にならないか?今なら喜んで受け入れるぞ。」


 あまりにもお門違いな事を言い始めた。なんでそんなに上から言ってるんだ。意味がわからない。


 そこで、俺は男の足元、腕、首元を凍らせる。


 男は驚いたが、楽しそうに笑うのみで、これといった反応はなかった。


「この俺を氷漬けにして、冷やし殺そうという判断か。悪くないな。俺としても残念だが......」


 言いながら男はいつの間にか砕いていた氷を腕からパッパッと払い落としていた。


「お前とやり合うしかないなぁ!!」


 何のためかはわからないが、俺に殴りかかってきた。腕を振りかぶったまま俺の方へ突進してくる男を見て、俺は雨をそのまま利用し、目の前に水流を作る。その水に男の腕が入ると同時に、凍った腕が水の中で浮いた。


 すぐさま男は俺から距離を取り、「ぐぅぅ」と口から歯を食いしばっても漏れた声が発せられる。そして、それを隠そうとするように不敵な笑みを浮かべる。


「悪かった。お前を相当の実力者とみて、名を名乗ろう。」


 男は腕を押さえながら、堪えられなかったのか、苦痛に歪む顔で俺に名前を言ってきた。


「俺は『レイス・レザー・エンペリオ』この帝国の皇帝だ。こんな水の降る、わけのわからない状況だが、お手合わせ願おう。」


 あまりにも見当違いな発言に思わず悪態をつきそうになる。


「ふざけるな。何がお手合わせ願おうだ。そんなこと必要ない。お前はただ大人しく氷漬けにされろよ。」


 しかし、レイスは聞いてすらいないのか、腰に携えていた長剣と鞘から引き抜いていた。そして、俺へと切っ先を向け、俺を見据える。


「どうした?お前も抜かないのか?」


 いかにも自信満々という様子で、俺に剣を交えようと言ってくる。それに対し、横に首をふると、レイスはチッと悪態をついた。


「腑抜けが。来ないのならこっちからいかせてもらうぞ!!」


 腰を低くかがめ、車のごとく、かなりの速度で突進してきた。ナイフを手に取り、鞘のままその長剣を受け止める。


「ははっ!いいぞ!!俺の剣を受け止めた男は久方ぶりよ!!」


 そのままレイスは剣を振り切った。


 はぁ。俺も別に戦ったことはないけど、受け止めるぐらいはできるだろ。


 それでも切っ先が当たりそうだったので、一旦後ろへと跳ぶ。


 そして、俺がナイフを鞘から抜いていないことに気がついたのか、少しだけムッとした表情を浮かべた。お前みたいなやつのムッとした顔は誰得だよ。


 目つきが鋭く、筋肉質な引き締まった肉体に、くすんだ金髪を頭の後ろで結わえ、ちょび髭を生やしている。あまりにも何もかもがアンマッチすぎて、それぞれのパーツのパワーに、いつもなら顔面が筋肉痛になるところだ。


「おいお前。鞘のまま抜かないとは、いい度胸してんじゃねえか。早く抜けよ。抜くまで待ってやるから。」


 レイスはよほど剣の腕前に自信があるようだ。なので、剣を空間魔法で無理やり奪い取り、遥か遠くへ投げる。


 それを目で追ったレイスだが、突然の出来事に目を丸くしていた。


「ちょっ、あれ高かったのに......中々手に入らない貴重な素材を使っているんだぞ!?」


 俺に向けてなにか文句を言ってきた。正直言って、ブランドだろうとなんだろうと、興味ない。元々こいつ自体に興味はないんだけど。


 こいつはまだ何をしたか分かってない。こいつからしたらなんでもないだろうが、俺からしたらなんて言うまでもない。


 レイスは自分が文句を言っていることに恥じたのか、ゴホンと咳払いをした。いや、なかったことにならないからな?


「拳でやり合おうってか?いいじゃねえか。こいよ。」


 片腕を失っている状況でそんな事をいってくる。馬鹿なのだろうか。しかも、何を楽しそうにしている。面白くもなんともない。


 俺は不慣れながらも、電気を手元で作り出し、暴発寸前まで溜め、それを城に投げる。


 とてつもない閃光と轟音とともに、城の一部がガラガラと崩れる。その音に今まで俺達を黙ってみていた観衆たちは騒ぎ出し、そのほとんどが逃げていった。


 そして、レイスもその音にビクッと体を跳ねさせた。閃光に対して目をやられてしまっていないか、何度も目をパチパチさせていた。


 目の無事を確認すると、後ろを振り返り、城の悲惨になってしまった部分を見て、呆然とした。が、すぐに再起動し、俺を睨む。足が生まれたての子鹿のように震えていた。


「やはり、今降っている水もお前がやっているのか。あまつさえ、城を破壊するとは。やってくれるな。高ぶっていた気分も少々冷めてしまったわ。」


 お前の体も冷やしてやろうか。そう言いたかったところだが、すでに雨で冷えているため、特に言っても意味はないことに気がついた。更に、強がってる奴に対して言っていても何も手応えはない。


「城を壊されたぐらいでなんだ。城は直せるからまだいいが、二人はもう戻ってこない......その意味がわかるか?」


 しばらくずっと我慢していたが、気がつけば先程から溜まっていた怒りが頂点に達していたのか、そんな言葉が口をついていた。


「はっ、んなことたぁ興味ねぇ。確かに俺にも仲間はいるが、唯一人として欠けたことはないからな。俺が守っていたからな。だから、守れなかったお前が悪い。そもそも、あいつらから歯向かってきたんだ。ただただ返り討ちにしただけさ。」


 悪びれる様子もなく、ただただ俺たちを嘲笑うように言ってのける。それが俺の癪に障り、怒りが更にフツフツと湧いてきた。城全体を凍らせてそのまま破壊しようかと思ったが、ある人物によって止められた。


『ソータ!!落ち着けっ!!』


 モルだった。さっきまで全く聞こえていなかったモルの声が鮮明に聞こえる。


『やっと聞こえたのか。全く、心を閉ざしおってからに。』


 心を閉ざす?どういうことだ?


『お主、それ以上してしまうと人を殺めてしまうやもしれぬぞ。それでも良いのか?』


 たしかに城には外からは見えないけど、多くの人がいるはずだ。そこを崩してしまったら人が瓦礫に埋まる可能性があるわけか。


『いいか?確かにその怒りのまま破壊すれば落ち着くかもしれないが、目の前にいるこやつとおなじことをしているぞ。』


 俺はハッとなる。たしかに。返り討ちにしたと言っていたが、己の気分次第で人を殺したのだ。そうしてしまったなら、もう取り返しはつかない。


『それに、諦めるのが早すぎるのではないか?』


 モルにそう言われ、どういうことか疑問が生まれる。


『よう見てみい。あそこには|ロープが燃えた跡しかない《・・・・・・・・・・・・》じゃろ?』


 遠くを見て、今更ながらに気がつく。待って、ってことは......


『ああ、二人は抜け出したのか、最初から偽物だったのかは知らぬが、ちゃんと二人は生きているということじゃ。矛先を目の前の男に向けるのは構わんが、あまり関係のない人々まで矛を向けてみろ。非難され、迫害されることになるのがオチじゃ。しかし、周りの声もしっかりと聞いてみい。』


 レイスに少し意識を割きつつ、耳を澄ませる。その声には、レイスに対して悪態ついているものや逆にレイスを応援するもの、俺に頑張れと声援を送る声もあった。


『まあこの通り、このレイスとか言う男はあまり好かれとらんらしいの。ちょうどいいわ。今のうちに打ちのめせばよかろうて。他の兵士たちが来ようとしないのも違和感があるじゃろ?』


 確かに。じゃあ、遠慮なくこいつを倒せばいいってことね。


「さて、しばらく黙っているが、そろそろオネムの時間かな?帰っておねんねでもしてきてもいいぞ。」


 ニヤニヤと嫌味ったらしく言ってくるレイスに、もう思うことはなにもない。さっきまで言動にいちいち苛ついていたが、二人が無事っていうのなら別だ。苛つくまでもなくこいつを無力化してしまえばいい。


「逆に訊いておくけど、この雨で眠くならないか?さっきの雷怖くない?ん?腕をもがれてさっきから動けずにいて?実力では敵わないって分かったから、人のことを馬鹿にすることしかできない?はっ、何が一国の皇帝だ。そんな器でよく国が成り立ってるな。あ、そうか、何もできないから何もしないんだね。赤ちゃんでもハイハイは自力でできますよ〜?」


 やばい。この短時間だけど、レイスに対して俺のヘイトがかなり溜まってたっぽい。今までに吐いたこともない言葉を吐いてしまった。


 そして、俺の声がしっかりと聞こえていたのか、観衆からも、兵士の方からも一部、爆笑が巻き起こった。別に面白いこと言ったつもりはないんだけど、やっぱ自分の国のトップがこんな性格じゃみんな気に食わんよな。普段の様子なんて知らんけど。


 観衆の方から、そうだそうだ〜!と、同意する声が聞こえる。ちらりと視線を向けると、あからさまに高級そうな服を着ていて、おそらく貴族かなにかだということを連想させる。


 当のレイスはというと、体をワナワナと震えさせ、顔を真っ赤にしていた。大した煽りじゃないのに、ここまでなるって......煽り耐性低いのな。


「き、貴様、この帝国(くに)の皇帝である俺に歯向かってもいいのか?」


「だからなんだよ。さっきも言ったけど、国がまわっているのはお前以外の奴らのおかげじゃん?どうせ、玉座でふんぞり返って座ってるだけだろ。何も怖くはないけど......何を以て脅そうと思ったの?あ、俺が長剣を取り上げたから、持つものはないか。って、しょうもな。」


 自分で突っ込んでしまった。雨のせいだろうか。体が少し震えた。雨の勢いもだいぶ収まってきた。ポツリポツリと水滴が垂れるような静かな雨になった。結局、こういう雨が傘ささなくていいし、音も落ち着いた感じで好きなんだよな。


 レイスは意外と図星だったのか、そのまま何も言い返せず黙り込んでしまった。別に確証があって言ったわけじゃなかったんだけどね。


「え、人には散々言って、逆になにか言われるっていう、想定外の事が起きたら否定も肯定もできずに、黙る?皇帝の座から退いたほうがいいんじゃない?俺より器として向いてないよ。」


 皇帝(レイス)がやっと顔を上げた。


「俺を馬鹿にするのも大概にしろよ!!何をもってそんなことを言ってんだ?!」


「え、さっきからのあなたとここにいる人たちの態度ですけど。」


 速攻で答えると、またまた黙り込んでしまった。やっぱり誰かから何かを言われるってことに慣れてないようだ。


「もういい。絶対にお前も殺してやる。」


 そう言って、レイスはポケットから何かを取り出した......



 いかがでしたでしょうか?今回は、帝国の皇帝が蒼汰に対して、色々言ってきていましたね。蒼汰は蒼汰でとんでもないことをやらかしていたようですが。そして、レサとロサはどうなっているのでしょうね?お楽しみに。


 次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。


 面白いと感じたら、ブックマークや評価をぜひ、よろしく願いします!モチベーションや、物語の流れにもにつながるので!


 それでは、また次回お会いしましょう。


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