え、ちょっと待ってそれって......
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
それは、緑色の暗い輝きを放つ石のようなものだった。
アリサが暴走したときの石のようにも見えたが、微妙に違っていた。こっちの石は色が濁っているみたいな、様々な色が混ざった絵の具のような、パッとしない印象を受ける色だった。
見方によっては色褪せた緑色にも見える。本当にパッとしない、よくわかんない色だ。
だが、光はその輝きを強めたかと思うと、レイスにまとわりつき、レイスが苦しむように胸を押さえ、うずくまり始めた。
「ぐっ、うぅ......さすがは、古来より受け継がれる、力、だっ...うぅ......だがこれ、でっ、お前を倒すことがっ、できる!!」
全力で来るのかよ......と思ったと同時に、今使ったってことは、常に持ち歩いていたんだと、どうでもいいことに気がついた。
そして、光に包まれたレイスの姿が変形し、口元は牙がむき出しになり、腰は折れるのではないかと思うほどくびれがうまれ、逆に背中や肩、胸は張り裂けんばかりに膨張した。
更には腕や足が細くなり、手足の形も丸く変形した。ちょうどお尻の部分から長い尻尾が生え、レイスの顔もネコ科のそれになってしまった。
体は黒く、誰がどう見ても、黒豹だとわかる見た目へとレイスは変貌した。
その黒豹はガルル.....っと、低い唸り声をあげ、俺を睨んできた。前身を低くしているあたり、飛びかかろうとしてきているのだろう。
突然のレイスの変異に、観衆たちは悲鳴をあげる。それを気にしていると、どうしても気が散ってしまうので、目の前のレイスにのみ集中することにする。
ってか、このおっさん、猫科の動物に謝れよ。顔にちょび髭ついたままだぞ。そういう模様ならまだいいが、模様ではなく、付け髭のように、ちょび髭が浮いている。
「オギゥガ、ガァッ、ガゴギエグル......」
なぜかレイスが理由のわからない言葉を発した。本来、俺のスキルがあれば聞き取れるはずだが、どうやら、動物たちにも鳴き声と言葉にサイクルがあったようだ。俺は動物の言葉がわかるだけで、動物の言いたいことまではわかるわけじゃないからな。
たしかに、猫や犬の言葉がわかるという人の前で鳴き真似をすると、何を言っているかわからないから、動物たちからしたら気味悪いらしいよ。と言われたことがある。
真実を確かめる術はないが、今のレイスの謎の言葉を聞くと、その気持ちは少しわかる気がする。
こいつに猫じゃらしは効くのか?と、身をかがめて俺の首か喉かを狙う仕草のレイス(黒豹版・チョビ髭付き)を見やって、考えてみる。流石に効くとは思わない。
だが、もしもあの石に黒豹になるスキルを封じ込めていて、使っていたのだとしたら、黒豹の本能が刺激されてスキルに振り回されることもあるのではないだろうか。そう思ってしまう。
とりあえず、棒をしならせられるようにしてから、先端に石でも付けてみようかな。あっちは飛びつき、その隙に攻撃ができる。良い算段じゃないか。だがまあ、スキルにネコ科の本能が混じっているかは不明だが。
『それよりソータ、あやつはずっと何をしているのだ?身をかがめて固まっているが。』
確かに。そこまで俺を捉えるのにも時間はかからないはずだ。しかし、ずっと動かないということは、俺を捉えられてない......よく見たら、瞳孔も獲物を狙うにしては、めちゃめちゃ細いし。
待って、人間と違って、立体的に見える角度が狭いんじゃなかったっけ。肉食生物は。だから、距離感を測ることが難しいって聞いたことがある。しかも、捉えられる色の数もかなり減ってるはずだから、余計に俺が見えにくいんじゃなかろうか。
『たしかにな。不慣れな力を使うと、どこかしら異変は感じるわけだしの。お主のように、感情で制御できなくなる場合も考えられるが。』
いやいや、さっきは制御できてたでしょ。そりゃ、城に向けて雷を打ったのは事実だけど、外壁がちょっと崩れただけで被害は他になかったじゃん。
『結果だけ見れば、だがな。それに、妾が言いたいのはそこではない。今お主が降らせている......ええと、雨だったか?それのことを言いたいのじゃ。』
雨?えっ、急に降ってきたとかじゃないん?
『アホをぬかすな。たまたまお主が来たタイミングで、たまたまお主が落ち込んだ時に降ってきて、たまたまお主の怒りが強くなった時に勢いが強くなったとでもいうのか?ん?』
あ~、えーと、そんなことないですよね。でも自然じゃないんなら、モルが気を利かせて降らせたんじゃないの?
『気を利かすとはどういうことじゃ?』
ほら、雰囲気ぴったりじゃん。主人公が落ち込んだ時に降ってきて、心が晴れる時に止むみたいな演出。しかも、水魔法が使いやすいフィールドになるし。
『はぁ。そんなわけあるか。お主のその、ようわからん感性にいちいち付き合ってられんわ。なにか合図を出したわけでもあるまいに。』
あ、はい。そういうことですね。了解です。自分がやっぱり降らせてしまったと。
『じゃから、何度も言っておろう。いい加減に認めんか。』
え〜、雨を降らすって、普通できないでしょ。普段の俺なら確実にできないね。
『感情が作用してスキルが一時的に暴走したのじゃろう。いくら大きな力でも、使用者の精神が幼ければ災厄となる。それに大きな力を持っていても、扱えなければ意味がない。さっき城に落としたのも同じようなものじゃろ?』
確かに。結局は持っていても使い方次第でどうなるかは決まるってことか。良い力も悪い方向に使えば、悪い印象になってしまう。まぁ小さなもの一つを見て、全てそうだと決めつけるのが良くないんだけど。でも、身を守る手段としては、なんらおかしくない。
というか、さっきからセクは喋っていないけど、どうしたの?
『いや、先程の轟音と光に少し驚いてしまったようじゃ。今は失神しておる。』
え?それ大丈夫?心臓止まってない?雷のせいってことだよね?
『大丈夫じゃ。あくまでも今は肉体を持たぬ状態。お主が死なない限り、妾たちも「死」という概念はないのじゃ。』
無事ってことなら良いけど、最悪、そこでAED使うか。使い方はわかる。もしそれでダメなら仕方ないってことで。
一旦モルとの話を切り上げ、レイスに意識を向ける。俺が動かないからか、一切動こうとしていない。
仕方ないので、俺は少しだけ左右に移動したり、前後に移動したりを繰り返すことにする。
結果的にいうと、レイスも観衆もめちゃくちゃ困惑してた。そりゃそうだわ。ずっと突っ立ってたら急に変な動きしだすんだから。
しかし、困惑しつつもある程度距離感は測れたのか、ジリジリと俺に詰め寄ってくる。
なので、空間魔法を使って、手頃なサイズの石を手元に引き寄せ、持っていた木の棒をムチのようにしなるようにした。そして、それを先端に付け、取れないようにしたら、即席であるが、レイス用の痛い猫じゃらしの完成だ。
この猫じゃらしは、揺らし方で相手をおびき寄せるだけではなく、先端の少し尖った石で攻撃もできるという代物だ。効くかは知らん。
とりあえず、先端をレイスに向かって投げ、先端まで動くように大きく揺らしてみる。レイスは最初は鬱陶しそうな顔をしていたが、次第に目を丸くし、耳もイカミミだったのが、きれいな三角形になっていた。
興味を示したのだろう。理性的な部分とは裏腹に、本能的な部分の刺激があるなら、そちらへと引っ張られる可能性が高い。まだ寝たくないとは思っていても、限界を超えたら勝手に眠ってしまうのと同じだ。
だがまあ、この場合揺れている石というよりも、俺の動いている腕に視線が行っている気がする。じゃあダメじゃん。意味ねえや。
俺が結局ダメだったと、簡易猫じゃらしを引き上げると、レイスは俺に向かって飛びかかってきた。ように見えた。しかし、足の力が強すぎたのか、地面に顔面から突っ込んでいた。
うん。確かに大きな力でも制御できなければ意味ないね。
『そう言ってやるな。妾も最初にドラゴンの姿になったときは苦労したものよ。』
やっぱ難しいの?
『ああ。二本足で立たなければならないのは同じじゃが、尻尾と頭のバランスがどうにも取りにくくての、足の体幹を鍛えねば、歩くことは愚か、立ち上がることさえ難しいのじゃ。』
想像通りのドラゴンなら、確かに難しそう。四足歩行の動物の体勢で、二本足で歩くわけでしょ?確かにムズいわ。胴体の真ん中に足が付いてるわけだしな。
『バランスを取るのがどうしても難しいのじゃ。じゃから、慣れないうちはやつのようなこともあろうて。顔面から地面に突っ込むのは流石に見たことがなかったが。』
ねえ、絶対それ言いたくて擁護するフリしてたよね。
『別にっ、くくっ......そういうわけではっ、ないっと思うが?』
ダメだ。声が笑っている。確信犯じゃねえか。時々笑いをこらえてるのか、言葉が詰まってるし。というか若干吹き出してる。
はあ。仕方ねえ。レイスになにか言うか。
「そこのちょび髭パンサーさんは、顔面から地面に突っ込んだけど大丈夫?自滅するとかやめてね。後味悪いから。聞こえてるかはわからんけど。何言ってるのかもわからないし。」
思ったことを口にすると、ガバっと、レイスは起き上がり、こんな事を言い始めた。
「グルルガッ、ウガッゴッ、シャアァァ!!」
わかんね。とりあえずブチギレてることはわかる。なにか怒らせるようなことは言ってないんだが......あっ、俺が心配してあげたのが気に食わなかったのね。
『お主もかなりわざとやっているだろう。これは。』
さあね〜。何のことかわかんないわ。(裏声)
......きっつ。自分でやって思ったけど、このノリは無駄にエネルギー消費するだけだ。心的負担も大きい気がする。自らやっているという点ではかなり抑えられてるけど。
のっそりと起き上がったレイスは、俺に再び飛びかかろうと、動いたが、先程のことを思い出したのか、迂闊に動いてはいない。グダグダじゃねえか。
降ってくる雨を見て、レイスの表面の毛を見てみる。あれは、毛の表面が雨を弾いて、奥まで染み込んでないのね。だから、レイスのところだけを大雨にして、ビッチャビチャにすれば、レイスはかなり動きにくくなると思う。
ってなわけで、雨雲を少し操って一点に集め、レイスの真上で止める。レイスはかかりたくないのか、しばらく身を捩ったり、歩きまわったりして逃げていたが、ずぶ濡れになって諦めたのか、そのまま座り込んでいた。
どうせなら、人間の姿に戻ればいいのに、もしかしたら、時間制限があるのかもな。もしくは、もう元の姿には戻れないのか。
全身ずぶ濡れになったところで、雨雲を霧散させ、レイスに話しかける。
「観衆みんな見てるけど、そんな無様な姿をさらしても大丈夫?全員面白がってきてるけど。そろそろ本気見せてよ。」
あえて本気な姿勢で行くことにする。相手が感情的になれば、仮に戦うことになっても、単調な動きになりやすいからな。逆に怒りで頭が冴えわたるタイプもいるけど。
レイスは、一度鼻で大きく息を吐いた。多分ため息みたいな感じだと思う。
そして、身体をブルブルッと震わせ、体についた水分を飛ばす。うわっ、こっちまで飛んできたし。なんかいやだわぁ。
立ち上がって、何度かピョンピョンっと、体の様子を確かめるような動きをすると、俺を睨んできた。
再び前身を下げ、俺の首のあたりを狙っているようだ。
レイスに見えないように、空間魔法で全身を覆い、攻撃が俺に通らないようにしておく。万が一、あの爪が刺さったら、多分回復粉を使う間もないからな。
後ろ足で床を蹴って、ある程度距離を開けていた俺に大きく近づく。
その勢いのままレイスは少し飛び上がり、俺に向けて爪を振りかぶる。
ガッと、鈍い音が目の前でしたかと思うと、眼前5センチぐらいの距離まで、鉄すら引き裂きそうな大きく、鋭い爪が迫っていた。
すぐに大きく距離を取り、身体を覆っている空間魔法の破けたところを修復する。危なかったもう少し薄くしていたら、顔に刺さっているところだった。
距離を取りつつ、レイスの様子を見ていると、なんで俺に爪が入らなかったのか、不思議そうにしていた。まあ見えない壁に阻まれたみたいな感じだからな。
しかし、レイスは俺を見て、馬鹿にするように鼻を鳴らす。どうやら、自分のほうが強いと考えているようだ。
実際はどちらが強いのかなんてのはわからん。しかし、相手の気分を良くしてしまったことで、感情的な部分での有利性は失われてしまったと言える。
いかがでしたでしょうか?今回は、レイスが黒豹へと変化していましたね。果たして、蒼汰はレイスに勝てるのでしょうか?
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
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それでは、また次回お会いしましょう。




