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宮廷漫画家の王国再興-リナーシタ-  作者: 小松那智
第2章 大女優と脚本家
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7話 作戦会議

 王都アル・ノーラは広大だ。

 ひとつの街と呼ぶにはあまりに大きい。



「ふふ……ふふふふふ。ふはーはははは!」



 アイラから与えられた家。その寝室で、朝早くから、俺は奇声を上げた。



「さすが王都の服屋は仕事が早い!」

「いやいや、旦那のくれた図案に刺激を受けたもんで、つい他の仕事を後回しにして頑張っちまったんすよ。旦那の国には素敵な衣服がたくさんあるんすねぇ」

「そのうち、別のを頼むかもしれん。よろしく頼むぞ」



 悪代官と商人みたいにあくどい笑みを浮かべつつ、野望を誓いあった俺と服屋は、しばしの別れを告げる。


 彼から受け取った品を手にして、俺は家中に響き渡る声で叫んだ。



「ジルぅぅううっ!!」






     ◆






 あの後のことを少し語ろう。


 王都へ向かう途中の町で、奴隷商人とその用心棒たちを兵士たちに引き渡した俺たちは、そのまま馬車で一直線に王都へ到着した。


 はじめの数日は宿で過ごしたが、ナーシアが新居を手配してくれたので、ありがたく入居。これだけは譲れぬ、と主張しまくったら、ドン引きされつつも、ちゃんとお風呂が用意されていた。多くの人は大衆浴場に通うらしいので、マイ風呂を持っている人間は少ないそうだ。


 そんな家に住むのは、俺だけではない。

 メイドとして、ジルを雇用したのである。



「ご主人、これ……」

「うん、よく似合ってる」

「かわいいとは思う。けど」

「けど?」

「なんか、こう……ご主人の視線に、善意だけじゃない何かを感じる」

「気のせいだ」



 メイドとは言いつつも、漫画を描くためのアシスタントでもあり、モデルにもなってもらうつもりだ。が、とりえあずは、メイドとしての職務から仕込む予定である。

 そんなわけで、ナーシアにメイド服を支給してもらおうと思えば、この国で普及しているメイド服が、なんともまぁダサい。というわけで、地球由来のデザインを発注したわけである。



「大きすぎたり、小さすぎたりしないか?」

「それは、大丈夫」

「ふふふ……次はスク水だな」

「?」

「あ、いや、何でもない」



 たぶん、俺の国では一般的だと言えば、割となんでもやってくれる気がする。

 いずれジルには俺の眼福要因として頑張ってもらうことになるかもしれないが、とりあえず、当面の目標はメイド服を王宮にも普及させねばなるまい。

 まぁ、ナーシアも地球産メイド服を気に入ってくれたので、アイラ専属のメイドたちに関しては、すでに発注済である

 ジルのメイド服とはまた違ったデザインだけどね。


 なんて思ってたら、獣耳メイドなナーシアが、アイラとともにやってきた。


 応接間に上げてみるも、二人の服装はやはり軽装である。

 ナーシアの仕事着は何度か見たが、まだアイラのお姫様らしい服装は見ていない。



「なるほどね。庶民のふりをして旅、かぁ」

「この国の実情を知るには、それが最適と思ってのう。まぁ、一気に国中を回るわけではなく、時折ちゃんと王都にも戻ってくるから、そう寂しそうな顔をするでない」

「してないんだが」

「はっはっは。可愛いやつめ」

「寂しくないんだが」



 頭を撫でるな。



「でも、大丈夫なのか? 女の二人旅となると、変な男が言い寄ってきそうだけど」

「問題あるまい。ナーシアは並の男が百人束になっても敵わんからの」


 アイラの言葉に、ナーシアが頷く


「アイラ様のおっしゃる通りです。アイラ様を口説く輩は私が盾になって退けます」

「いや、俺はナーシアのことも心配してるんだぞ? いくらアイラのためでも、自分が犠牲になるとか、そういうことは考えないでくれ。俺にとっては、ナーシアだって大切なんだから」



 真面目にそう言うと、ナーシアは妙な反応を見せた。



「まぁ……そんな、嫌ですわ、レン様」

「はい?」

「そうおっしゃっていただけるのは有難いのですが、今はまだ、アイラ様に身を捧ぐと決めているので、男女の関係を持つわけには参りません。しかも、アイラ様の前でそんな情熱的なお言葉……いけませんわ、そういうのっていけないと思います」



 あの清楚で貞淑なナーシアが、わけのわからんことを口走りながら、きゃーっ、と頬を染めている。

 なんだこれ。



「……あの、ナーシアさん? 別に俺はナーシアを口説いてるわけじゃなくて、友人として心配してるだけだぞ」

「え? あ、はい……そうですよね。他の男に取られるなんて許せない、とか、そういうことではないのですよね……すみません、忘れてください」

「ナーシア? 君って、意外と……」

「わ・す・れ・て・く・だ・さ・い」

「はい」



 脳みそ桃色説がにわかに濃厚になったナーシアはともかく。

 やっぱり、不安は拭えない。



「気にするでない。ナーシアはたまにこうなる。忘れてやれ」

「善処する」



 慣れきっているあたり、アイラにとってはこれもナーシアの平常なのだろう。二人の付き合いの長さがうかがえる。

 だが――そんな二人が、これまでも二人で旅をしていたとはいえ、泊まるのは国の施設や高級な宿だったはずだ。

 だが、今回の旅の目的を考えれば、治安の悪い場所にあえて赴く必要もあるだろう。そうなると、これまでの旅の常識は通用しないかもしれない。



「そ、それはそうと!」



 二人の身を案じていると、ナーシアは必死に話題を転換したいようで、苦し紛れにある場所へ指を向ける。



「あちらの絵は、レン様が描かれたのですか?」

「ああ、そうだよ」



 壁にかかっている一枚の油彩画。

 そこに描かれているのは、俺の漫画の登場人物をリアル調にしたものだ。だから、ナーシアは、俺が描いたものと判断したのだろう。



「漫画以外の絵にも熟達されているのですね。素晴らしい技術です」

「まぁ、もともと、最初はこっちが専門だったんだ。それに、漫画を描く環境が整うまでは、一般的に普及してる画材しか使えないし、油彩画で食っていけるようにならないと」



 俺は美大の出身だ。

 あまりに就職先がないので、底辺IT企業に転がり込んだが、本来の得手は西洋絵画なのである。



「絵を描くのはよいがの。道楽でないことは、ゆめ忘れるでないぞ」

「わかってるさ」

「プロパガンダ……といったか。漫画を通して大衆の深層心理に働きかけ、わらわの改革について有利な風潮を作り上げるという、その方針はよいじゃろう。だが、現実的な問題もある」

「現実的な問題?」

「うむ」



 アイラが言いたいのは、流通の問題だった。

 漫画という媒体は、一か所に客を集めて披露するには向かない。各個人の手元に、漫画そのものが行き届く必要がある。

 紙はなんとでもなるだろう。だが、印刷技術というのは、そう簡単に整備できるものではない。

 今しばらくは、ごく近い間柄の人間に漫画を見せることしかできないだろう。



「流通の分野に長けた人間を、仲間に引き入れねばな」

「仲間……そうだな、仲間は重要だ。アイラとナーシアにも、旅の途中で、志をともにする仲間を集めてほしい。できるだけ、組織的に」

「仲間を増やすのは当然じゃが。何か、考えがありそうじゃの」

「まぁ、企んでることが、ひとつふたつ」



 具体的には、ギルドという奴を運営しようと考えている。

 異世界ファンタジーといえばギルドというくらい俺の中ではテンプレだったのに、この世界、大きな町には基本的に国の軍隊が衛兵所を作っており、町人――とくに武闘派が組織的な活動をする風潮がないのだ。


 もちろん、思い付きだけでギルドを設立したいわけでなく、ちゃんとした思惑もある。


 国が腐敗すれば、当然、自治の風潮は強くなるが、自治組織が力をもつと国からにらまれる危険性も高まる。治世に不満があると言っているも同然だからだ。

 その点、傭兵組織に近い性質であるギルドは、そもそも国の体制に相反するものでなく、武力などを食い扶持としているだけなので、反乱分子という扱いは受け難い。まぁ、もちろん、うまくやれば――だが。


 つまるところ、俺がやりたいのは、アイラが国を変えていくための力を、蓄える隠れ蓑を作ることなのだ。アイラが主導しなくても勝手に生まれるであろう世直しの気風を、先手を打ってコントロールし、なおかつ、腐敗の元凶たちが気づかないように一大勢力として成立させる。

 そして、いざという局面では、各町・各村に配置されたギルドの支部が、アイラの手駒として動き出す。


 ちなみにというか、すでに基盤は整えつつあって、ゲームめいたステータス評価方法について、俺なりにまとめているところである。

 あくまで草案に過ぎないが、運動・知能・魔法といった項目をABCで評価したり、個人のもつ技能を、スキルとしてリスト化したり。

 そうすることで人員を管理しやすくなるだろう。



「まぁ、そのギルドとやらは、ある程度の形ができるまで、お主に一任することにするが……本業が宮廷画家であることは忘れるでないぞ」

「ああ。でも、宮廷画家って、宮廷って言うくらいだし、やっぱ王宮に出勤した方がいいのか?」

「難しいところじゃの。宮廷画家というのは、王族が個人単位で雇うものじゃから、わらわが強制せぬ限り、別に自宅で活動しようとかまわん。じゃが、王宮に顔見知りを作っておいた方が何かと便利なのも確かじゃ。仕事場を用意させるから、十日に一度はそちらに足を向けよ」

「了解」



 じゃが、とアイラは続ける。

 彼女が危惧しているのは、俺のストーリー構成能力の低さであるようだった。やっぱり見抜かれていたらしい。

 ただでさえ画力特化の俺が、プロパガンダという目的に縛られる中、しっかり物語を練り上げることは難しい。週刊誌もない世界なので、短編として簡潔にストーリーを構成する必要もあるだろう。



「そのために、じゃ。ある男を仲間に引き入れるべく動け。わらわとナーシアが旅に出ておる間にの」

「ある男?」

「うむ。王立劇場で、近年評判を集めておる脚本家――メルク・ブリューゲル。まぁ、わらわも兄上……第2王子であるフランクから話を聞いただけで、面識はないのだがな」

「実力のある脚本家と手を組むことで、弱点を補うってことか」



 今後の方針は、大まかにまとまった。

 その後、いくつかの事柄を話し合ってから、俺はアイラとナーシアの旅立ちを見送った。

Twitter→https://twitter.com/komatsuna_novel

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