第三転調『生まれ変わった世界』
僕が変えてしまったのか?
いやいや、流石にそれはないでしょう。
偶然、僕がそんなことするなんてありえない。
「……そうだよね、ありえないんだよ」
この世界の異変は、並外れた力でこんな事態になってしまったのは明らかだ。
しかし、
何故だろう……この世界に違和感を感じない。
どうしてそう思うのか、という疑問すらわからない。
理解ができないことが多すぎる。
頭を抱えながら、悩んでいると、
「キャァァァァァァッ!!」
女性の悲鳴が聞こえた。
今は深く考えている暇はないみたいだ。
僕は悲鳴の聞こえた方へと足を踏み出した……
はずだった。
はずだったのに、何故か踏み出した足が地面を掘り返すかのように抉っているのがわかる。
「んぇ?」
その瞬間、僕は光の速さを超えてしまった。
一方その頃、街の中心部では若い女の子が悪魔の翼を持った魔物に襲われていた。
「マジかよ……流石に硬すぎだろ!! コイツの翼、硬すぎるだろッ!?」
スライムの魔物だ。
普通のスライムなら、ナイフでも簡単に切れる。
しかし、コイツは漆黒の翼が生えている。
それも異常な防御力があるのだ。
「こりゃ、無理だ。アイツが到着するまで耐えるしか……いや、その前にこの子が、喰われる可能性がある」
スライムは獰猛に唸った。
「ムァァァァアアァァァ!!」
「助けれなくてごめんよ」
その瞬間、スライムは、あれほどまでに硬かった翼ごと貫かれ、消滅していた。
「は? いや……え? 何が起きたんだ?」
「いや、そんなことは後でいい! 少女の保護を!!」
――うん。おかしい、おかしいとしか言いようがない!!
足が速くなった! のレベルじゃない!
この前まで、足がナメクジのように遅かった自分は?
どこに行った? 置いて来てしまったのか?
絶対ダメ! 街中に風穴空いちゃってるし!
てか、僕あれだけの速度で壁とかぶつけてしまったけど、無傷なの?
怖いよ? ここまで来ると怖いよ?
ハァ!! 弁償、弁償だ。オワッ……タ、
「キミかい? この街ごとスライムをぶち抜いたのは!!」
「命に変えて、弁償しますので! どうか……って? え? スライム?」
弁償の申し立てに来たんじゃなかったのか?
「凄い速さだった。騎士団長の俺でも見えなかったよ! まさか、あのスライムの翼すら、貫いてしまうんだから、びっくりしたよ! (早口)」
「頑張って聞き取ろうとしたけど、スライムぐらいしか聞き取れなかった……」
というか、スライム?
スライムが街中にいたのか?
スライムは、草原に住むはずの魔物だ。
こんな街中に居るはずのない魔物……。
「スライムですか? 街に現れるのはおかしくないですか?」
その鎧を纏った男はこう言った。
「スライムが街に現れたのは、今回が初めてなんだ。
それに不可解な事があった。
そのスライムには、黒い翼が生えていた」
「スライムに翼?」
「それも、おかしい程頑丈だった。
俺の剣技を持っても傷一つ負わない程硬い翼だった」
「おじさんが、どれほど強いかは知りませんが、スライムに翼があるのは、不自然ですよね?」
「あのな、さっきも言ったんだが、俺は騎士団長なんだよ。少なくともこの街で一番の剣の使い手と呼ばれている」
呆れた。
この人、騎士団長だったんだ。
「自分で言いますか? そんな事。
大体、早口過ぎて聞き取れなかったんですよ」
騎士団長のおじさんは、頭を掻きながら、
「あぁ、申し訳ない。昔から気持ちが昂ると早口になってしまう性格でな……」
気持ちが昂っていただけか。
焦っていたと思ってた。
「ところで、キミ、騎士団に入るつもりはないかい? それも幹部として」
……「は?」
「いや、冗談キツいですよ! 自分なんか、弱いですし、幹部なんて尚更出来ません!
騎士団長さんにメリットなんてないです!」
「キミは明らかに強かったのだが? 俺の推察では、光を司る創力を持っているのだろう?」
「いや、光を司る創力なんて、持っていませんよ! っていうか、近い近い!」
「じゃあ、何の創力を使った!!?」
「いや、創力なんて、使ってません!! 離れてください!」
……って、あれ?
静まった?
あ、離れていく。
そして、天を見上げて何かを拝んでいた。
「あ、あの~……どうされまし」
「聖龍の使徒だ!! 創力を使わずともあれ程までの力を出せるのか!! 道理でこんな力を持っているのだな」
なんか、勝手に思い込んで、勝手に納得した。
なんだ? このおじさん。
ヤバい人と絡んでしまったのか?
僕は一体どうしたらいいんだ?
とりあえず、この場に居ることに嫌な予感しかしない。
とにかく、この場から離れよう!!
「なら、キミは俺の跡を継ぐべきだろう!
さぁ、俺と……ありゃ?」
かなり遠くまで来てしまったようだ。
僕は、砂漠地帯に居た。
しかし、改めて僕のこの力は、どうなっているんだ?
「普通に走れるなら、走りたいんだけど……」
ん?
何か体の感覚が、変わったような?
「それよりも、お腹が空いたし、いつもの行きつけの安さが売りのあの店に行くか」
その一歩を踏み出した途端。
足がいつものように遅く感じた。
戻ったのか?
いつも通り普通の速度になった。
「いや、今は急いで店に着きたいんだけど!!!」
その時、景色が変わって、気がつけば、目当ての店の前まで来ていた。
あれ?
さっきまで砂漠にいたよね?
もう、そんな事考えてる暇はない。
お腹空いて考えられない、早く注文しよう。
「食べた食べた! いつもより美味しかった!!」
「それは嬉しいわね!」
ここの店長の奥さんだ。
よく母さんと昔から通っていた行きつけの店。
貧乏な家系に、救いの手を差し伸べていた唯一の店だ。
食べ放題で、580ゼル。
普通なら、1890ゼルぐらいするはずだ。
家系的にも助かっているのだ。
むしろ、この店が心配なぐらいだった。
「会計12,890ゼルよ」
え?
「えぇ……と? 12,890ゼ、ゼル??」
「そうよ? 払えないの?」
「あれだけ安かった食べ放題も、流石に耐えれなくなってしまったのか……」
「ウチの店は昔からこうよ」
流石にマズイ、10,000ゼルなんて持った事ないよ!!
12,890ゼルなんて、足りない!
財布に800ゼルしかない!
「もし、12,090ゼルが財布にあれば足りたのに……」
ん?
少し財布が膨らんだ?
もしかするとと思い、財布の中身を出してみると。
大量の金貨が、その金額なんと、12,890ゼル!!
「おかしいな、僕の財布には800ゼルしか無かったはずなのに……」
「毎度あり~!」
不思議な事ばかりだ。
思った事がなんでも実現しているようだった。
いや、待てよ?
思った事が叶ってしまうのなら、母さんの息が止まったあの時、僕は、こう思ってしまった。
「もしも、自分が強かったら」
もしかして、僕は、強くなってしまったのか?
思った事が実現してしまう創力なのか?
だとしたら最強じゃん!
って、そうだ! 母さん!
母さんの事をすっかり忘れていた!!
早く探さないと!!
((この時の僕は知る由もなかった。
この創力の本当の意味を......)




