第二十三転調「刹那の怒り」
黒いフードを被っていた者の正体は眠り姫だった。
「長い長い眠りだったわ、もう終わりにしましょ」
この気配と、目では見えないが、眠り姫ではない気配も感じる。
恐らく本物だ。
もし眠り姫がその気になれば、この大陸は滅ぶだろう。
「アーサーを殺したのか?
もし殺したのなら、あなたを赦さない。
いや、殺してやる」
アーサーについては答えてくれない。
赦せない。赦せる訳がない。
そんな感情が僕を支配する。
この日、僕は僕じゃない僕を生み出してしまった。
「バリスくんは、ほんとっ.......面白いよ、殺せるものなら殺してみれば?」
眠り姫の殺気に付近にいた市民は倒れてしまった。
「流石だね、バリスくん、それに、リザードも、そこの緑の人も.......そうだね、そう簡単に捕まるわけにはいかないなぁ」
この場で気絶しなかったのは僕を含めても四人だけだった。
「眠り姫、世界の脅威と謳われるだけあるが、少しやりすぎなんじゃないのか?」
リザード団長はそう言って構えを取った。
「リザード団長、少し待ってください。
彼らは何故あれだけの殺気を喰らっていたのにも関わらず、ピンピンしてるんでしょうか?」
副団長に目をつけられたのは気を失わなかった僕と、ヴェルだった。
「この石板が重要な物だと知っている?
この化け物と面識があるのか?」
当たり前だが、向こうからすれば
怪しい奴は僕もだろう。
「バリス、どうしちゃったの?
まるで知っていたかの様だったけど......」
ヴェルは僕に問いかける。
ヴェルが声をかけたのは、バリスではない彼だった。
「バリスくん、いつでもかかってきていいよ?」
眠り姫は挑発した。
「黙れ、お前が殺したんだ。アーサーを
殺したんだ。ならお前が命を持って償う番だ」
全ての殺気は一人の少女へと向けられた。
ヴェルは息を呑んだ。
気絶したピックを抱えながら、その場で悟った。
バリスだけどバリスじゃない。
アレはバリスだ。
でもバリスじゃない。
この矛盾は何?
でも僕の知ってるバリスはあんな口調では怒らない。
「.......怒り??」
「団長、どう思いますか?止めた方がいいですか?」
鑑定師団の二人は分析をしていた。
止めるべきか、止めないべきか。
それは眠り姫が相手だからだ。
「まず、眠り姫は団長である私すら凌ぐ悪魔の様な強さを持っている」
「その上に聖龍王の加護を受けている可能性があるのか、そんな相手にあのバリスと呼ばれていた青年は挑むのか?
やはり止めた方がいいのでは?」
副団長の判断は常識的に考えれば間違っていなかった。
しかし、常識という箱庭の中であの二人を括るのは不可能である。
「恐らくだが、彼の様子が変わった。
彼のもう一人の人格が生まれたのだろうが
それは常識内の考え方だろう.......」
その非常識な考え方が彼らには適切なのである。
「バリスくん、違うか?もう一つのバリスくん!」
眠り姫は彼の一撃を右手で受け止めたが、眠り姫の右手は捻じ曲がっていた。
「やるねぇ、次は私の番だね!」
次の瞬間眠り姫は姿を消した。
「お前の番など来ない、お前が迎えるのはのは絶望と死だけだ」
「マズイな、彼はもう人間の範疇を越えかけている.......止めるしかない」
団長はバリスを危険視した。
「団長、その前に奴の仲間と思われる人物がそこにいるのではないですか?」
副団長にヴェルとピックは目をつけられた。
「そこにいる彼からは少しだけですが、覇気を感じられます」
ヴェルの実力は鑑定師団の手にかかれば、容易くわかってしまう。
しかし、その鑑定師団の力を持って尚、測れない者がいる。
「奴はもう人間を捨てた、殺せるなら殺せ。このまま市民に被害が出るだけでは済まない」
ーー暴走したバリスは鑑定師団最強の二人による処刑が執行される事になってしまった。
「......バリスもバリス」
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