第十一転調『記憶の欠片』
僕に課せられているトレーニングは至ってシンプル。
《○ぬ》という課題なんだけど、
無理無理無理!!
○ぬって、もうトレーニングじゃないじゃん。
「かなり恐ろしいことを言われているが、ヴェルはなんであの人に着いて行ったんだろ……」
何者なんだ……ん?
横を見た。
「私がどうしたって言うんだァ?」
見なかったことにした。
「オイ、見てはいけない奴みたいな扱いするなよ? ⚪︎すぞ?」
やっぱり、この人、僕を⚪︎す気かも……。
「まぁ、いい。お前ェになァ、試してもらうことがあんのよぉなァ、ゴラァァ? あぁァ?」
鬼の形相でメンチ切られながら言われる恐怖を、人生で体験することになるとは……。
でも、今日こそは言い返してやる!
怯えながらもガタガタの口を開いて言ってやった。
「め、めち、めメンチき、切りながらい、言って……も」
言える訳ないだろ!!
相手、鬼だぞ?
鬼に会話通じる気がしないんだけど?!
すると、ピックは僕の手を取り、素敵な笑顔で肉を捻った。
「イッテぇえぇ!!?」
これ、ゴリラより筋力あるんじゃ……。
やっぱり鬼か? 鬼なのか?
気が済んだのか、二時間程で辞めてくれた。
「本題入るぞ、お前ェの創力について何か参考になる方法があるか確認した……」
おお、調べてくれていたのか?!
「……が、お前の創力に参考になることはなかったぞ」
え? 参考すら無いの?
「だが、一つだけ似た創力を使っていた者が過去にいたとか、とある古代の文献に書いてはあったぞ」
なら、その人に聞けばわかるのかな?
「先に言っておくが、ソイツはもうこの世から去ってるがな」
どの道、詰んでるのでは?
「だから、前にも言ったが、一回○んで来い」
理由になってなくないか?
すると、僕はピックに崖から突き落とされた。
あれ?
この高さから落ちたら、確実に○んでしまう……。
いやだ、まだ死にたくないよ、死にたく無い!
僕はもっと強くなって眠り姫を見つけて、真実を知っていかなくちゃならない。
こんな所で○ぬのは御免だ。
「「生きて強くなりたい」」
「あ、高すぎたかァ?
流石にここで○なれたら困るんだが、おーい、返事しろォ!」
ピックは少し血の気が引いた。
「あ、あれ? これやり過ぎたか?」
「やり過ぎなんだよ! って、僕なんか生きてる!?」
あれ?
致命傷のレベルの高さから落ちて、生きているのか僕は?
って、落とされた本人より、落とした人がホッとしてるのムカつくわ……。
「おかげで、この世界からいなくなる所だったんですけど?」
「ワリィ、ワリィ、生きてしまうのだろうと見込んだ上で一思いに突き飛ばしたんだが、返事がなくて焦った、焦った!」
ムカつくんだけど殴ったら、それこそ、○されるんだよね。
「でも、強くなったと思うぞ。覇気が少しだけだが、お前ェの言うことを聞いているのが見てわかる」
確かにそうだ。
無駄に体力を使っていた感覚に近いが、無駄な要素が省かれた様な感じだ。
体、そのものがスッキリしている。
でも、一体何で突然強くなったんだ?
すると、
息を切らしたライズの若者が走ってこちらに向かって来た。
「大変だぁ……モンスター達が突然大きな動きを見せ始めたぞ!!」
遂に動き出したか……。
「今までのトレーニングで鍛えた事を活かして戦えよ。そして、本当の意味で○ぬな」
この話は一旦中断だね。
モンスター達の大群は前より少なくなっている気がする。
というか、半数のモンスターがいないのだ。
「族長の仕業だな。この量を葬るのは、あの人しか出来ない芸当だ」
ムキムキのライズの老人兵士がそう言うのだから、きっとその通りだとは思う。
だけど、このモンスター達は並のモンスターではない。
今だからわかる。
このモンスター達は異常だ。
「お前ェラァ! 気合いだせぇ!! ここでくたばるんじゃねェぞォ!!」
ピックは凄い気迫で仲間達を導いている。
しかし、モンスター達も強者だ。
そこらの野生の生物とはまた違う強さがある。
野生での戦いは、狩るか、狩られるかの二択だ。
選択肢を持つのはいつだって強者の特権だ。
この前の僕には、そんな力はなかった。
でも、今は違う。
この数ヶ月の間、強くなろうと努力した。
負けたくないんだ。
「必ずこのモンスターには負けない!」
ピックは、頷いた。
「あぁ、負ける訳にはいかねェよなァ!!」
その一瞬の出来事だった。
合図がしたその時には、決着が付いていた。
「おい、俺何にもしてないんだが……もしかしてピック! お前が?!」
ライズの男達は、ピックが倒したと思った。
だが、違和感がある。
ピックにそんな力があるのに、今まで使わない理由がない。
倒したのはピックなのか?
いや、違う……。
倒したんじゃない。
誰かがこの一瞬で、あのモンスター達を……。
「眠らせたんだ」
……嘘だろ?
「族長! 生きていらしゃったんですね!
それなら声をかけ……」
この感じ、本能的に覚えている。
「待って! ……あれは多分、族長じゃない」
ライズ大陸を収めていた族長の力は、常軌を逸している。
もし、族長なら、ここまでの殺気をこちらに向けてこないだろう。
仲間想いの口の悪い族長しか、僕は会ってないから。
「族長じゃない……?? 本当に族長じゃないのか?」
「どう見たって族長の力を感じるが」
「そうだねぇ、バリスくん、良い着眼点だねぇ。私が誰かわかっているみたいだね……改めて、名を名乗るよっ! 私は眠り姫、深い眠りから覚めし者よ」
やっぱり、眠り姫だったか。
何故こんな所に……。
「私は今、この人間の体を利用しているだけだよぉ。気絶していたから、その眠りに入り込んで利用してるって訳!」
つまり、乗っ取っているというのか……。
しかし、状況も相手も悪い。
最悪の展開に加え、眠り姫が割り込んでいる……それも族長を利用して。
ただでさえ強い族長が、これ以上暴れたら、この大陸自体が崩壊する可能性があるかもしれない。
ましてや、族長はこの大陸の人にとって大切な仲間であり、尊敬する人だった。
その人を簡単に殴ろうとは思えないのだろう。
手が震えている人もいる。
こういう時にカイザー呼べたら良いんだけど、あの人、重要な任務があるから、この半年程助けに行けないと、言っていたし……。
「一旦、状況がマズイから退散するべきだと思うが、多分アイツからは逃げれない。
戦うしかないよ、ピック!!」
ピックは誰よりもショックを受けていた。
「ピック!! おい! 大丈夫か!」
「人の心配する余裕無いと思うよ?」
もう僕の背後には、族長、いや、眠り姫が横になっていた。
「あっ、戦場で寝ちゃったらダメだよね!
起きるね!」
眠り姫は、起き上がる勢いで、僕を突き飛ばした。
「あれ、触れてないんだけどなぁ、風圧かな?」
眠り姫は次のターゲットに目をつけた。
ピックを次のターゲットにしたが、ピック自身、ショックで動けなかった。
「あれ? 逃げないの?」
眠り姫は族長の体の使い方に慣れて来たのか、後ろ足を下げると、腰を使い遠心力で、音速の拳を繰り出した。
誰もが立ち止まって、やられるのを見ることしかできなかった。
一人の男を除いては。
「あなたが眠り姫ですね。バリスから聞いてますが、族長の体まで乗っ取って、ピックを悲しませた上に、拳を振ろうとしましたね?」
眠り姫は不気味な笑みを浮かべながら尋ねた。
「私に勝てるとでもぉ?」
確信を持って返した。
「あなたの拳は音がした。
音は私のテリトリーです」
「ヴェルトン・ソ・ナチュ、私はこれまで以上に腹が立っています。
大切な仲間を傷つけた貴方に……!」
「……ヴェ、ルトン」
――あの少女の声がした。
第十一転調をここまで読んでくださってありがとうございます!!
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では、次の転調で会いましょう!!!




