フィアナ、新たなトラブルの予感に目を丸くする
フィアナ、魔王の娘の正体を明かす
そうして時は過ぎ、帰りの馬車の中。
(出発する前は、不安でいっぱいでした)
(それでも、こうしてアレシアナさんとも合流できて──)
──本当に、色々とあったなあと私はしみじみ思います。
「なに?」
向かいに座っていたアレシアナさんが、不思議そうに首を傾げます。
「あ、いえ。なんというか……上手くいってよかったなって」
そう言ういながら、私は照れ隠しのように笑いました。
私、セシリア、エリンちゃん、リリス──そしてアレシアナさんを加え。考えうる限り、最高の結果といえるのではないでしょうか。
「ねえ、さっきからずっと気になってるのだけど」
「なんですか?」
「……その子、何者なの?」
アレシアナが指を指したのは、「ふんふん~♪」と鼻歌を歌うリリスでした。
(そういえば……)
(アレシアナさんは、リリスとは初対面でしたもんね)
洞窟ではバタバタしていて、ちゃんと説明する暇もありませんでした。
(うん。ここまで来たら、もう隠す必要もないですよね!)
そんな訳で私は、軽く胸を張って宣言します。
「この子はリリス、私の幼なじみで──魔王の娘です!」
「はあっ!?」
アレシアナさんが、完全に言葉を失いました。
目をまんまるにして固まるその表情は、表情を殺すことに慣れ切った彼女らしくない素の驚きそのもの。
「なるほど──、あの時の……」
「……?」
アレシアナさんが、何やら一人で納得したように頷きます。
それからの馬車の中は、妙に静かでした。
誰も口を開かないのに、不思議と空気は重くなくて。ただ揺れる馬車の音だけが、心地よく耳に残ります。
「……見えてきましたね」
「ええ」
やがて窓の外に、見慣れた学園の門が現れました。
「まさか、またここに足を踏み入れることになるとはね」
アレシアナさんは、門を見つめながら複雑そうに呟きます。
その横顔を見て、私は何も言わずに頷くだけでした。
***
私たちが学園長室に通されたのは、完全に日が沈んでからでした。
エレナ学園長は、ソファに深く腰掛けたまま、私たちとアレシアナさんを見比べて、
「……まさか本当に連れてくるとはのう」
呆れ半分、面白がるような雰囲気半分といった声。
「まったく……、私は尋ね人でしょう。拘束とかしないでよいの?」
「アレシアナさんが逃げるとは思えませんから!」
ニコニコと笑う私を見て、アレシアナさんはそっとため息をつきました。
それから姿勢を正し、学園長を真っ直ぐに見据えます。
「それで……、私はどうなるんでしょうか? 王国では指名手配──覚悟はできてます」
「ふむ……、なんのことかな?」
エレナ学園長は、わざとらしく首を傾げます。
それから、にやりと悪い顔をして、
「まったく、テロ騒動を鎮めた立役者を指名手配など。誤報には困ったものじゃなあ?」
「ご、誤報!?」
「うむ。潜入任務、誠に大義であった」
「……なるほど」
アレシアナさんは、その言葉に納得したように頷くと、
「そう処理するんですね」
静かに呟きました。
「えっ!? えっ……、えぇええ!?」
「つまり……、どういうこと?」
ただただ混乱する私。
隣ではエリンちゃんが、こてんと首を傾げました。
「なるほど……、考えましたわね。つまりアレシアナさんを、王国で逆スパイとして雇ってしまおうと──そういうことですわね?」
「ああ、早い話がそうじゃ」
満足そうに、エレナ学園長は頷きます。
「二人とも、気をつけたほうがいいわ」
アレシアナさんが、何とも言えない顔で忠告しました。
「こう見えてこの人、かなりのクセモノよ」
「む、失敬な」
「事実でしょう?」
「……否定はせん」
エレナ学園長は、そう開き直ると、
「というわけで、アレシアナよ。これからはフィアナの傍に控え、王国のために働くのじゃ」
そう司令を出すのでした。
「──随分と思い切った決断をするのね。私が裏切るとは思わないの?」
「お主がフィアナを裏切るとは思えんでな。それに──」
そこでエレナ学園長は、ふっと表情を引き締めました。
「今は、人間同士で争ってる場合ではないでな」
「……?」
「近頃、魔族が妙な動きを見せておる。原因は──」
そう言って、視線を向けた先。
ソファの端で、ふわわわ~……、と大あくびをしているリリスの姿があり……、
「おまえじゃ」
「ほへ?」
口いっぱいにクッキーを詰めたまま。
──リリスは目をまんまるにするのでした。





