フィアナ、忍び寄る影を迎え撃つ
ボス部屋に踏み入った私たちを迎えたのは、蒼い結晶に覆われた巨大なゴーレムでした。
天井近くまで伸びた巨体。結晶の隙間からは魔力が流れ出しており、脈打つように蒼白く光っています。
圧迫感のある存在感に、思わず息を呑みました。
「これが、ここのボス──」
「資料通り。蒼晶ゴーレム──圧倒的な防御性能を誇る難敵。討伐は困難だけど、だからこそそのコアは高値でやり取りされるって」
ついでに言うと、そのコアが申請書で提出した目的の素材だったりします。
「ふむ。なかなか手応えがありそうな奴ではないか」
「そうですね。どう攻めましょうか」
リリスが腕を組み、闘志を隠しもしない表情でゴーレムを見上げます。
それは、もちろん私も同じでした。
私は拳に魔力を込め、
「まずは様子見!」
思いっきり殴りかかった──その直後、
ドッカーン!
「あれぇ?」
小気味よい音とともに、ものすごい勢いで吹き飛ぶ蒼晶ゴーレム。
結晶片をまき散らしながら、壁際まで一直線。
(都合よく距離を取られた!?)
(いったい、何を企んで──)
予想外の事態に警戒する私。
何か特殊なカウンターか、それとも罠か。
警戒する私をよそに、壁にめり込んだまま手足をジタバタ動かすだけ。装甲のきしむ音が、やけに間抜けに響き渡り……、
私たちが固唾を飲んで見守る中、
プシュンッ!
最後にピクリと震えたあと、ゴーレムは完全に沈黙しました。流れていた魔力の光も、すうっと消えていきます。
「「「…………」」」
(あれぇ?)
なんとも言えない沈黙。
ボス部屋に、気まずい空気が漂います。
「──えっと」
「討伐……、完了?」
「壁にめり込んでますわね……。あれ、採取素材として使えますの?」
「た、多分……」
間抜けに壁にぶっ刺さるゴーレムを前に、誰も次の言葉を見つけられません。
「なんじゃ? ブラックドラゴン以上の大物は、どこにおったんじゃ!?」
「そんなもの、あちこちにいてはたまりませんわ~!」
セシリアの悲鳴が、洞窟に反響しました。
「む~、わらわは消化不良じゃぞ」
「ご、ごめんなさい……」
なんだか申し訳なくなって、思わず謝る私。
「仕方がない。フィアナ、もう一狩り付き合うのじゃ」
「せっかく、こんなところまで来ましたしね。なら次のボスはリリスに譲りますね」
リリスと私は、呑気にそう言葉を交わします。
「二人は、本当におつまみ感覚でダンジョンに潜るんですのね──」
「あ、フィアナちゃんが行くなら私も!」
「それじゃワタクシだけ残るじゃありませんの。ワタクシも、ワタクシ行きますわよ!」
苦戦を覚悟していたボスを倒し完全に気が緩んだ……、その瞬間でした。
──突如、鋭い殺気。
「フィアナだな。その命、もらい受ける!」
「……ッ!」
声と同時に、視界の端を走る魔力の軌跡。
迫りくる魔力弾から感じる魔力は、以前、星煌祭で魔力探知を行ったときと似た魔力反応を持っており……、
「まさか、そちらから来てくれるとは思いませんでした!」
私は、そう歓喜の声をあげるのでした。
「何を訳の分からないことを言ってやがる!!」
怒号と同時に、次の魔力弾が放たれます。
先ほどと同じく、死角からの攻撃──もっともこの程度の威力なら、回避する必要すらありませんね。
私は、迫りくる魔力弾に手をかざし、
「えいっ!」
そう気合いを入れ、魔力弾を打ち消します。
「なあっ!」
「そんな、中級モンスターすら屠った一撃だぞ!?」
驚愕と動揺の声が、隠れていたはずのあちこちから漏れ聞こえてきます。
隠密行動の最中に声を上げるなんて──、
(これがルナミリアでの模擬戦だったら、一週間はバカにされてますね)
上手い下手、以前の問題です。
「フィアナ、囲まれてますわ!」
セシリアの鋭い叫び声。
同時に私の感覚にも、複数の魔力反応が引っかかっていました。
「分かってます。エリンちゃん、防げますか?」
「うん、任せて!」
次の瞬間、エリンちゃんの光魔法が淡く広がりました。
薄い膜のような結界が背後を覆い、続けざまに飛んできた魔力弾をまとめて弾き返します。
「なっ、なに……!?」
「あいつら、フィアナだけのワンマンチームじゃなかったのか!?」
焦りの色が、はっきりと声に混じりました。
その隙を逃すほど、私はお人好しではありません──魔力弾が飛んできた方向へ、地面を蹴って駆け出します。
(隠蔽魔法、使ってはいるみたいですけど……)
魔力の揺らぎが、あまりにも分かりやすい。
私は足を止め、地面へ向けて魔力を叩き込みました。
──ドンッ
衝撃とともに、魔力の波紋が床を這うように広がります。
それだけで隠蔽魔法が乱れ、敵の位置が一瞬で露わになりました。
(あそこですね!)
敵の数は、ざっと数えて十人ほど。
「くそっ、なんでここに居ると分かった!?」
「バレバレでしたよ。おととい来やがれ、です!」
一瞬で敵の懐に飛び込んだ私は、そのまままっすぐに拳を叩き込みます。
死角からの不意討ちに特化していたのでしょう──こうして近づいた今、無力化するのにさしたる手間は必要ありませんでした。
「ぐっ……」
「な、何だこいつ……!」
「あり得ん……、よりすぐりの精鋭だぞ……!」
悔しそうなうめき声。
一人、また一人と影が崩れ落ちていきます。
──そして、あっさりと鎮圧に成功。
「…………」
洞窟内に残ったのは、床に転がる人影たちでした。
「これは、帝国の刺客ですの?」
「多分……。この前と同じような魔力反応でした」
「どうしてここが?」
突然、襲撃者に襲われた私たちですが、思いのほか冷静で。
(……いいえ、まだです!)
(だって、この人たちが帝国からの刺客なら──肝心の人に会えてない!)
私が気を引き締めるのと同時、





