フィアナ、ダンジョンの最奥へと進む
ダンジョンの攻略は、思っていたよりもずっと順調に進みました。
蒼晶洞窟の内部は、青白い結晶が淡く光り、常に薄明かりに包まれています。視界は悪くないもの光の反射で距離感が狂いやすく、油断すると足元をすくわれそうな場所でした。
自然と隊列は固まります。
私が前衛に立ち、エリンちゃんとセシリアが一歩後ろから全体を見渡す形。
自然と役割が固まり、スムーズな連携が取れるようになりました。
「フィアナ、右から来ますわ!」
「了解!」
セシリアの声を聞き、私はモンスターを殴り飛ばします。
飛び出してきた魔物は、抵抗らしい抵抗もできず、そのまま沈黙しました。
「……もう一体、左!」
「任せよ!」
次の瞬間、リリスが軽やかに前へ出ます。
そのまま衝撃波を撃ち出し、一瞬でモンスターを吹き飛ばします。
「相変わらず見事な腕前ですのね」
「ふふん、もっと褒めるがよい」
セシリアの感心したような声に、そう目を細めるリリス。
「そういえば、良いの? こんなにモンスターを倒して回って?」
ふと私は疑問を口にします。
「? どういう意味じゃ?」
「だってリリスって、魔王の娘──将来的には、魔族の長になるんですよね?」
「んなあっ!? このような知性の欠片もない獣と、我ら魔族を同一視するとは──お主、想像以上に失礼に失礼なことを言うんじゃな……」
私の言葉に、じとーっとした目を向けるリリス。
その瞳には微かな怒りがのぞいており、
「モンスターの特徴を一部受け継いでいる人間──一部ではモンスターと同一視されて、迫害を受けたこともあるって。……そうして最後には、魔界にまで追いやられた。フィアナちゃん、授業で習ったよね」
「今のは少し、無神経ですわよ?」
たしなめるような声のエリンちゃんと、セシリアの咎めるような口調。
「ご、ごめんなさい」
「な~に、わらわは生まれも育ちも魔界一筋。今となってはそんなこと、所詮はただの歴史の一幕に過ぎんがな!」
しゅんとする私に、リリスがそう言ってケラケラと流します。
一瞬重くなった空気は、リリスの笑い声とともにあっさり霧散するのでした。
その後も、ダンジョン攻略は順調でした。
モンスターを倒すだけでなく、素材の採取も忘れてはいけません。
ときおり足元に散らばる欠片を拾い上げ、素材としての価値をエリンちゃんが判断していきました。
「さすがエリンちゃん!」
「えへへ。でも、授業で習った通りに見てるだけだよ?」
「……。エリンちゃん、これからも頼りにしてます!」
少し困ったように微笑むエリンちゃん。
その後も、戦闘と採取は驚くほどスムーズに進みました。
危険度A−のダンジョンとはいえ、この四人で攻略しているからでしょうか──まるで詰まる場面がありませんでした。
「うん。これだけ集まれば、素材の加工を帝国でお願いするのも自然かも」
やがてパンパンになったリュックを見て、エリンちゃんがそう言いました。
「まずは第一関門突破ですわね!」
「どうします? せっかくなので、このまま踏破しちゃいますか?」
「賛成じゃ。まだまだ暴れたりぬぞ?」
私の質問に、仲間からは心強い答え。
やがて広めの空間に出たところで、一度休憩を取ることになります。
蒼晶の光が天井から降り注ぎ、淡い光に包まれた広場は、洞窟の奥とは思えないほど落ち着いた場所でした。
「ここまで、ほんとに順調ですね」
「油断は大敵ですわ。次はボス部屋──気を引き締めますわよ」
ダンジョンボス──思い出されるのは前回のブラックドラゴンです。
Cランクであれなら、A―と評されるここには何が現れるのでしょうか。
「ここのボス、どんなやつなんでしょう?」
「資料によると、蒼晶で形成されたゴーレムらしいね」
エリンちゃんがそう答えて、
「それって、前のやつより強いのかな?」
「前回のボスは、危機一髪だったもんね」
私とエリンちゃんは、思わず遠い目になります。
ブラックドラゴン──あれは難敵でした。今思い返しても、あれが難易度最下位のダンジョンだとは信じがたいレベルです。
「そういえばフィアナ、前回のダンジョンではブラックドラゴンと戦ったって言ってましたっけ?」
「うん。初級ダンジョンとは思えないぐらいに──普通に死ぬかと思いました」
「うん、ほんとにね」
エリンちゃんが深く頷くと、
「はっはっはー。フィアナよ、腕が鈍ったか? ブラックドラゴンごときに遅れを取るとはな!」
リリスが、そう楽しそうに笑い出しました。
「むっ! あれはちょっとした油断で!」
「……いやいやいやいや、そんなの絶対に大災厄レベルのイレギュラー。間違いなく初級ダンジョンで見かけるはずが──いいえ、何でもありませんわ」
セシリアは、引きつった笑みを浮かべます。
何はともあれ、いざボス戦へ!
「このメンバーなら何が来ても負ける気がしませんね。ブラックドラゴンの十や二十、どんと来いです!」
「お~!」
「縁起でもないこと言わないでほしいのですわ~!」
気の抜けた返事をするエリンちゃんと、セシリアさんの悲鳴。
私たちは、そうしてボス部屋に足を踏み入れるのでした。





