フィアナ、演習課題のダンジョンに潜る
そして、あっという間に演習課題のための遠征に向かう日がやってきました。
向かう場所は、帝国近くのダンジョン。
地図の上では一本の線でしかなかった国境も、実際に近づいてみると、なんとなく空気が違う──そんな気がしてしまいます。
とりあえずいても立ってもいられず、こうしてこんな所まで来てしまいましたが……、
(こうして近くに来たからって、アレシアナさんに必ず会えるってわけではないよね)
胸の奥に、小さな不安がよぎりました。
ちらりと横を見ると、セシリアはすでに書類の最終確認をしていて、エリンちゃんは地図と装備を照らし合わせています。リリスはというと、
「~♪」
まるで旅行にでも出ているように、鼻歌まじりに馬車から景色を眺めていました。
普段通りの皆の様子を見て、
(……ううん、弱気になってる場合じゃないですよね)
(せっかく、皆がここまで段取りを整えてくれたんですし)
そう自分に言い聞かせて、私は前を向きました。
車窓の外には、ゆっくりと流れていく景色。徐々に街並みが減り、代わりに森が増え、道は少しずつ荒れていきます。
向かうは国境沿いの辺境。
馬車の中で、私は小さく拳を握りしめ決意を新たにするのでした。
数日後。
私たちは、帝国近くのダンジョン──蒼晶洞窟にたどり着きました。
王国の生徒が訪れるのは珍しい場所であるらしく、道中で合流した冒険者の視線が、やたらとこちらに集まります。
「学生さん? ここに?」
「……正気か?」
そんなひそひそ声が、普通に聞こえてくるのも気になるところです。
よほどの用事がないと訪れない冒険者にとっても辺境の高難易度ダンジョン──それが、この蒼晶洞窟でした。
「ここが蒼晶洞窟ですのね」
セシリアが、感心したように洞窟の入り口を見上げます。
岩肌には、うっすらと青白い結晶が混じり、光を受けて淡く輝いていました。
「帝国のすぐ近くだって、忘れそうなぐらい普通の場所だね」
エリンちゃんが、拍子抜けしたように言います。
たしかに、もっと物々しい光景を想像していました。
関所があったり、見張りがいたり、空気が張り詰めていたり──そんなイメージは、ここにはありません。
すぐにセシリアが釘を刺します。
「うん。分かってます」
ダンジョンとしての危険度はAー。
以前、エリンちゃんと攻略した初心者用ダンジョンは危険度Cだったので、ランクとしては三つ上です。
(前回は、ボス相手にギリギリでしたからね)
(改めて気合をいれないと!)
私が、そう気持ちを引き締めていると、
「ところでフィアナ」
セシリアが、念押しするように声をかけてきました。
「今後の計画は頭に入ってますわよね?」
「えっと、まずはこのダンジョンに潜って素材を採集。『それを素早く加工する必要がある』って理由で、一時的に帝国領に入る──でしたよね?」
ちなみにそれは冒険者の特例として、しごく当たり前の権利らしいです──調べてくれたのはエリンちゃん。
「ええ、その通りですわ。あくまで必要なのは大義名分。そこから先は──」
「当たって砕けろ、ですね!」
勢いよく答えると、セシリアは目を閉じ小さくため息をつきました。
「……楽観的にもほどがありますわ」
「私、決めたんです。ここまで来たなら、もううじうじ悩むのはやめようって──帝国に入りさえすれば、きっとどうにかなりますよ!」
ずいぶん都合のいい考えではあります。
それでも、アレシアナさんなら、きっとどこかで私のことに気づいてくれる。
そんな根拠のない確信を、私は信じようと思いました。
──なお実際には、今この瞬間にもアレシアナ率いる討伐部隊が差し向けられていたりするのだが、それをフィアナが知ることはなかった。
「それでは皆さん、準備は大丈夫ですか?」
私は一度、深呼吸をしてから仲間たちを見回します。
「いつでも行けるよ」
「問題ありませんわ!」
「任せるのじゃ!」
そんな頼もしい声。
こうして私たちは、蒼晶静洞の中へと足を踏み入れました。





