フィアナ、暴走する魔獣を一瞬で鎮圧する
「ふふ。次はフィアナですわね、お手並み拝見ですわ」
私は銃を受け取り、少しだけ考え込みました。
「……魔法を使ってもいいんですよね?」
「もちろんだ。さっきは油断したが、次はこうは行かねえ!」
妨害役の生徒も、気合十分です。
「それなら……、こんなのはどうでしょう!」
私は弾丸に、即席の魔法陣を刻み込みました。正直、場の思いつき──撃ち出された瞬間に弾が分散するように、かなり無茶をした構成です。
私が引き金を引くと、
──ドン
間の抜けた音とともに弾丸は空中で分かれ、
「は?」
「ぇえ……」
次の瞬間、すべての的が一斉に弾き飛ばされました。
「うっそぉ……」
「「「……」」」
教室の中に沈黙が広がりました。
「な、なんですの今のは!?」
「えーっと、弾を十発使ったら勝てないので、つい……」
私の答えを聞いて、セシリアはぽかーんと口を開けていましたが、
「相変わらず、とんでもないやり方ですわね──」
そう呆れたように呟くのでした。
「わ、わらわもやりたいぞ!」
遊びに混ざりたくて仕方がない、といった様子のリリスがそう言います。
「要は、魔法で的をすべて壊せば良いんじゃな? わらわも、わらわもできるぞ!」
「リリスは、とりあえずその魔力しまってね!」
あくまで射的には、射的にあった魔法があるのです。
リリスがここまで魔法を解き放ったら、それこそ大事件になりかねません。
「む~、でもわらわもやりたいぞ?」
「リリスちゃん! そうだ、私と一緒にクレープ買いに行こう?」
「クレープ! 分かったのじゃ!」
(エリンちゃん、ナイスフォローです!)
不満そうにしていたリリスですが、クレープの言葉を聞いてケロリと機嫌を直しました。
そうしてリリスは、あっさりエリンちゃんに連れられていき、
(……良かった。射的が惨事になるところでした!)
そう胸を撫で下ろしながら、私は銃を返却するのでした。
***
その後、私たちはクレープ屋に向かうことにします。
クレープ♪ クレープ♪ と、テンション高く歩いていたリリスですが、
「ふむ、妙じゃのう」
突如、訝しげな声で、そう首をかしげました。
「リリス?」
「どうしましたの?」
私とセシリアが声をかけても、リリスは返事をせず、じっと宙を睨んでいました。
「この気配は、やはり──」
そう呟いた次の瞬間──
「ちょっ、リリス!?」
「リリスさん!?」
リリスはいきなり走り出しました。
勢いよく窓へ向かい、そのまま躊躇なく飛び降ります。
「き、緊急事態ですわ!」
「リリスちゃん、いったいどうしたんだろう」
呆然としている暇は、ありません。
「追いかけましょう」
とはいえ、流石に窓から飛び降りるわけにもいきません。
私たちは全力で階段へ向かいました。
「おまえらどこにいくんだ!?」
「すぐに戻れ、一階でモンスターが暴れてるぞ!」
途中、大慌てで何かから逃げようとしている生徒たちと出くわします。
彼らは顔を青ざめさせ、肩で息をしながら、口々に何かを叫んでいました。
「落ち着いてくださいまし。何が起きたんですの?」
「実は──」
──展示モンスターが、いきなり暴れ出したんです。
口を開いた生徒の言葉は、にわかには信じられないものでした。
(モンスターの暴走!?)
(た、大変なことになりました!)
私は走りながら、風紀委員用の魔導器を取り出しました。
「こちらフィアナです。星煌祭の一階で、モンスターが暴走したとの報告あり。現在、現場に向かっています!」
返ってきた通信は、想像以上に慌ただしいものでした。
『なにっ!? 今どこだ!』
『落ち着けメイソン』
『これが落ち着いていられるか。くそっ、僕が委員長をやってる中、なんでそんな面倒事が──』
通話の向こうで、メイソン先輩が完全にパニックになっています。
(というかこの期に及んで面倒ごとって!)
「現場に到着次第、状況報告しますね!」
『おいっ、勝手な行動は──』
「忙しいので切りますね!」
私はぷつりと通信を切り、そのまま階段を駆け下りるのでした。
現場はすぐに分かりました。
『平和記念館:テイムモンスターふれあい体験会!』
気合の入ったデフォルメされたモンスターの描かれた看板。
(こ、これは大変なことになってますね……)
教室の周辺は荒れ放題。
展示用の柵は見事にひしゃげ、中からは焦げたような異臭が漂ってきます。
そんな教室の目の前では、数人の風紀委員が必死に簡易バリケードを張っていました。
「近づかないでください!」
「中でモンスターが暴れてます!」
必死の表情で叫んでいた風紀委員たちでしたが、私たちの顔を見るや、わずかに安堵したような表情に変わります。
「あ……、フィアナさん」
「かなりの興奮状態です。刺激すると危ないかもしれません!」
声は荒く、額には汗。
それだけ切迫した状況だということが、ひしひしと伝わってきました。
「テイムされてたはず……。いったいどうして?」
エリンちゃんが、不安そうにそう呟きます。
たしかにテイムされているモンスターが、こうして暴れ出すなど普通では考えられません──しかし、悠長に考え込んでいる暇はなさそうでした。
教室の中から、ズシン、と重たい足音が聞こえてきます。次の瞬間、姿を現したのは──瘴気をまとい、目を赤くしたイノシシ型モンスターでした
「来るぞ!」
「下がって!」
風紀委員たちが、盾代わりの魔導器を構えます。
(このままだと、まずいですね)
バリケードのサイズに対して、あまりにも人数が足りません。
押し切られれば、外にいる生徒たちにも被害が出ます。
「手伝います!」
(相手はテイムモンスター)
(なるべく穏便に、慎重に──)
「ていやっ!」
掛け声と同時に、私は、その鼻っ面に軽い蹴りを叩き込みます。
イノシシモンスターは、ぐるるると唸り声をあげ、大きくよろめいた後、くるりと進路を変えました。
──向かった先には、小柄な少女の姿。
「……って、リリス!?」





