フィアナ、射的に挑む
美味しそうな屋台の匂いに釣られるがままに、校内をぶらぶら見回っていた私たちですが、
「へへっ、せっかくの祭りだろ? 少しぐらいアルコールを提供したって──」
「お客さま、困ります! 学園の規則でお酒は提供できないんです」
「あぁん? テメェ、俺さまのリクエストが聞けねえっていうのか?」
そんな揉め事が視界に入り、思わず足を止めます。
どうやら、招かれざる客のようです。
「仕方ないですねえ、少し行ってきます」
「なんじゃ? 揉め事か?」
「フィアナちゃん、頑張って!」
私は、つかつかと招かれざる客の背後に声をかけると、
「お客さま。さきほどの説明のとおり、星煌祭の規定でアルコールの提供はお断りさせていただいております。あまり羽目を外すようなら──」
「あぁん? なんだ、お前は?」
ガラの悪いクレーマーが、そう凄んできました。
(うっわ、酒臭っ!?)
(昼間から、もう出来上がってるみたいですね……)
周囲の人たちも困り顔。
せっかくの楽しいお祭りなのに台無しです。
(これも見回りの仕事ですかね。風紀委員室まで、しょっ引きますか──)
私がそんなことを考えていると、
「こいつはいったい何の騒ぎだ?」
酔っ払い男の知り合いらしき男が、姿を表しました。
(……あれ、どこかで見たことがあるような──)
特徴的なモヒカン──猛烈な既視感。
私が、新たな面倒事の予感にため息をついていると、
「だってアニキ。この店、アルコールの提供してねえなんて言うし──身の程知らずのガキが突っかかってくるから」
「馬鹿野郎! 百パー、おまえが悪いじゃねえか!」
モヒカン男が、そう酔っ払いを叱り飛ばし、こちらに視線を移し……、
「って姉御ォ!」
「姉御じゃないですから!!」
見覚えがあるわけです。
それは昔、ギルドで絡まれ、返り討ちにしたモヒカンたちのリーダーでした。
あれ以来、何を言っても姉御呼びをやめてくれず、それどころか無駄に尊敬の眼差しを向けてくるとても迷惑な奴です。
「おいバカ、おまえ何を姉御に迷惑かけてるんだ。姉御ォ、本当にすみません。こいつ、新参なんですよ──」
「うん。気にしてないので、まずは土下座をやめてくださいね!」
笑顔で圧をかける私ですが──モヒカンさんは、華麗に無視!
モヒカンリーダーは、酔っ払い男の頭を押さえつけ、強引に土下座させてきました──もちろん私に対して。
「すげぇ、さすがはエリシュアンの魔王。一瞬で厄介客を締め上げおった」
「有名な冒険者だよな、あれ。舎弟にしてるってマジ?」
「フィアナちゃん、かっこいい!」
(う、うわああああ。また余計な噂が広がっちゃう!)
(あぁぁあああ、やめて。人前で跪かないで。跪かないで~!)
こういうところが苦手で、そっと距離を取っていたのに!
あとエリンちゃんは、変なところに憧れないでよろしい。
「わ、分かりましたから! 誰でも羽目を外すことはありますよね──静かにそこの酔っ払いを回収してくれたら十分です」
「この観察不行届き! なんとお詫びすれば良いか──かくなる上は、この指を切断して捧げ物とすることで許しを」
「い・り・ま・せ・ん!」
(……モヒカンさん、こんな人でしたっけ!?)
真顔でとんでもないことを言い出したのを見て、私は引きつった笑みを浮かべます。
「ハハァ、さすがは姉御。なんと、お優しいお言葉!」
「大変、申し訳ありませんでした!」
最終的には、そんな言葉を残し去っていく酔っ払い男たち。
──ドッと疲れました。
そんな騒動が解決し、私はその場で小さく伸びをしました。
「もう大丈夫なんじゃな?」
「ええ、一件落着です」
退屈そうにしていたリリスが、そう声をかけてきます。
「硬いこと言わずにアルコールの一つや二つ、出してやれば良いのにのぅ」
「あんな人たちが増えたら大事ですからね」
来訪客が全員モヒカンさんになる世紀末を想像し、私はぶんぶんと首を振って、嫌な想像を頭から追い払います。
できれば酔っ払いは、入口でシャットアウトしてほしかったですね!
「邪魔なら八つ裂きにするまでじゃ」
「気軽に祭りを惨劇にしないでください……」
さすがは魔王の娘。
こういうところは、あまりに物騒です。
それから私たちは、次に向かう場所を探します。
視界に入ったのは、色とりどりの的が並ぶ出し物をアピールするクラス──前世で例えるなら射的といったところでしょうか。
ずらりと並んだ景品。
生徒たちが、クラスの中で銃を構えています。やがては魔法が放たれ、パンと軽い音が鳴るたびに歓声が上がっていました。
「あれなんかどうでしょう?」
「良いですわね!」
「ふむ、あれを撃ち落とす遊びか?」
私が指差すと、セシリアはどこか楽しそうに目を細め、リリスは興味津々といった様子で的を眺めていました。
「フィアナ、久しぶりにひと勝負どうですか?」
「いいですね、負けませんよ!」
スロベリア演習の後、セシリアは良い意味で肩の力が抜けたようでした。
以前のような張り詰めた対抗心はなく、こうして純粋に遊びとして勝負を持ちかけてくる──それは、私にとっても良い刺激になっていました。
私たちは屋台のお兄さんに声をかけ、銃を受け取ります。
「お一人、十発までです」
「では、先攻はワタクシですわね!」
セシリアはそう言って、優雅に銃を構えました。
この世界の射的は、前世のそれとは勝手が違います。
私たち狙撃手は、魔法で弾丸を強化し、店主は風や幻惑で妨害してくる──まさに何でもありの真剣勝負なのです。
セシリアが背筋をピンと伸ばし、静かに引き金を引きます。
パンッ! パンッ!
同時に店主が風を起こして弾道を逸らそうとしますが、魔力で強化されたセシリアの銃弾はそれをものともせず突き進み、
「見ましたか! これがワタクシの実力ですわ!」
次々と的を叩き落していきます。
十発すべてが命中。
「さすがはセシリア、やりますね」





