フィアナ、屋台巡りを楽しむ
地獄のような忙しさが落ち着きを見せたのは、昼を少し過ぎた頃でした。
予想を超えた大盛況に、マーガレットさんは、積み上がったエリシュアンポイントを見てホクホク顔です。
「これはトップ賞はいただきですね」
「フィアナさん、まだ油断は早いです! ここからはさらに単価を上げるべく、やっぱり魔王スペシャルセットの導入を──」
「やりませんからね?」
すっかり商人の顔になったマーガレットさんに突っ込みつつ、私はそっと額の汗を拭います。
さすがにお昼時のピークを越えたのでしょう。
教室の外に伸びていた列も、いつの間にか途切れ途切れになっていました。
「さすがに冗談です。今のお客さんは、ハチャメチャながらも妖精の森というコンセプトも楽しんでくださってます。それを壊すようなことはしませんわ」
「ならいいですけど──」
マーガレットさん、どこまで冗談か分からないから怖いんですよね──ただでさえ、セシリアも暴走するタイプの人ですし。
「フィアナさん、エリンさん、セシリアさまも。そろそろ休憩を取ったらいかがですか?」
「え? でもまだ忙しそうですし……」
「ピークは超えてますし、私たちだけでも回せます。三人とも最初から、ずっと立ちっぱなしだったじゃないですか」
うんうん、と頷くクラスメイトたち。
たしかに、そろそろ他のクラスの出し物も見て回りたいのは事実で……、
「それなら遠慮なく!」
そうして私たちは、リリスを連れて星煌祭を回りはじめるのでした。
──一応、大義名分は風紀委員の見回りヘルプ、ですけどね!
そうして繰り出した校内は、まさしくお祭り会場のようでした。
(これが前世では体験できなかった文化祭──最高です!)
あちこちから漂ってくる香ばしい匂いと、楽しそうな声。
それぞれのクラスがエリシュアンポイントをかき集めるために工夫を凝らしているのでしょう。
中でもやっぱり目立つのは、お菓子や食べ物の出し物でした。
あちらからも、こちらからも誘惑が飛んできます。
「フィアナちゃん、目が完全に食べ物のほうに向いてますよ?」
「フィアナ、よだれがたれてますわ」
「う、嘘っ!?」
慌てて口もとを確認し──、
「セシリア、騙しましたね!」
「ふふ、反応が分かりやすいですわ」
ぷくーっと膨れる私を見て、楽しそうにセシリアが笑います。
「……って、あれ? リリスが居ない!?」
「リリスさんなら、もう向こうに並んでますわよ」
「いつの間に!?」
ある意味、食に吊られるのは似たもの同士なのでしょう。
「まったく……、リリスったら──」
「ん? なんじゃ?」
戻ってきたリリスにじとーっとした眼差しを送る私ですが、リリスは口いっぱいにチョコバナナを頬張りキョトンとしています。
どうやら目を離した一瞬の隙に、列に並んでチョコバナナを入手していたようです──どうやらクレープに続くお気に入りを見つけた様子。
「次からは、一言声をかけてくださいね?」
「む? 並ぶのに許可が要るのか?」
「別に要りませんけど、はぐれたら困りますからね……」
リリスは首を傾げつつ、もぐもぐと咀嚼を続けています。
どこまでもマイペースです。
(う~ん、実に平和です)
(不審者の"ふ"の字もありませんね!)
う~んと伸びをしながら、時にはクラスの屋台でお菓子を買い、食べ歩く私たち。
「……人間とは、不思議な生き物じゃのう」
ポツリと、リリスが呟いたのは、そんな時でした。
チョコバナナを手にしたまま、クラスそれぞれの出し物を見渡しています。
「こんな下らないもののために、長い時間をかけて準備をして、当日はこの人混みに並んで──」
言葉だけなら辛辣です。
しかし口元には、さっき食べたチョコがくっついています。
「あ、リリス。お祭りでの屋台の串焼きは格別ですよ?」
「おお、どれじゃ!」
「あっちのお店なんか空いてて狙い目ですね!」
「よしっ! なにをモタモタしておるのじゃ、早くいくぞ!」
そう言って私の腕を掴み、ぐいぐいと引っ張っていきます。
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
「リリスちゃん、すごい食べっぷりだね」
「はいはい。串焼きは急がないでも、逃げませんわよ?」
呆れながらも、私たちはリリスの後を追います。
二人の眼差しは、出会った当初のような畏れはなく、むしろわんぱくな子供を見守る生暖かい眼差しになっており──、
「信じられませんわね。あれで本当は魔王の娘だなんて──」
「うん、こうして見てると普通の子みたい」
なんて言いながら、顔を見合わせて小さく笑っていました。
そんな視線にもまるで気が付かず、リリスは串焼きを受け取ると、
「……うむ、これも美味いな」
「でしょう?」
「ふむ。人間の食べ物、実に興味深い」
そう妙に偉そうに頷くのでした。
「三人とも、どうしたのじゃ? はよ、次のクラスに向かうぞ?」
「まだ食べるつもりですの──」
「もちろんじゃ!」
そう言い張る姿は、誰よりも星煌祭というお祭りを満喫しているようでした。





