フィアナ、メイド喫茶「夢見の森」を開店する
そしてついに、星煌祭本番です。
朝の学園には、どこか浮ついた雰囲気が漂っていました。
廊下を歩く生徒たちの中には、用もないのにソワソワと意味もなく同じ場所を行き来している者もいます──まさしく、お祭り直前の空気といったところでしょう。
お祭りを盛り上げているのは、なんといっても学園が用意する豪華景品です。
エリシュアンポイントと呼ばれる星煌祭専用のコインを最も多く集めたクラスは、学園が用意する豪華景品を手に入れられるほか、将来の進路も有利になる──そんな特典が、より生徒たちのやる気を引き出しています。
「ついにこの日が来たんですね」
私は小さく呟きながら、校舎を進みます。
待ちに待った文化祭──今日のために、たくさん準備してきました。私が教室の前まで来ると、中からはすでに騒がしい声が聞こえてきました。
(……あれ? まだ開店一時間前ですよね?)
扉を開けると、すでにそこにはクラスメイトの大半が勢揃いしていました。
机の配置、装飾、備品。全部そろっていて、あとはお客さんを待つだけといった様子。
「あ、フィアナさん。見てください! これが昨日話していた魔王印の肖像画で!」
私に気づいたマーガレットさんが、そう声をかけてきました。
掲げられたのは一枚の絵。
「うん、フィアナちゃんによく似てる!」
「だ・か・ら、妖精の森に、魔王は要りませんって!」
名残惜しそうな反応をしていますが、断固としてNGです!
それにしても、私の肖像画はともかく……、
「さすがはマーガレットですね。うちの内装の完成度、全校でもダントツですわ!」
「お褒めに預かり光栄ですわ!」
セシリアの言葉に、嬉しそうに微笑むマーガレット。
私は、改めて内装に視線を送ります──天井から吊るされた淡い光を放つ魔力珠が、木漏れ日のように揺れています。壁際には、蔦と花を模した装飾が施されていました。そのこだわり一つ一つが、幻想的な雰囲気を形作っています。
まさしくセシリアの言うとおり、マーガレットの監修したクラスの内装は、学園での圧倒的なレベルの仕上がりになっていました。
「これで学園賞はもらったな!」
「ここからは料理と接客が重要だな」
「さっそく復習だな!」
お~! っと燃え上がるクラスメイトたち。
妖精をモチーフにしたメイド服も、全員がきちんと着こなしていました。
今日のために準備してきたのが、ひと目でわかります。
「フィアナちゃん」
「ん?」
「えへへ……。いらっしゃいませ、ご主人さま!」
エリンちゃんが、ちょこんと膝を揃えてお辞儀をしました。
メイド服がよく似合っていて、思わず頬が緩みます。
「おお、エリンちゃんよく似合いますね!」
「ワタクシも! いらっしゃいませ、ですわ~!」
ワクワクとした様子で、セシリアが胸を張ります。
「セシリアも、すごく可愛いです!」
「これが、おもてなしの、心、ですわ!」
セシリアは、そう誇らしげに胸に手を当てます。
今日という日に向けて、たしかな準備と自信を漲らせた表情。
もちろん、それは私も同じで──、
「いらっしゃいませ、ご主人さま!」
私は衣装に着替えると、そう挨拶を披露するのでした。
***
そうこうしているうちに、ついに星煌祭スタートの時間になりました。
校内に、人の波が一気に流れ込んできます。
(誰も来なかったらどうしよう……)
(いいや、これだけ準備したんだしきっと!)
そんな弱気な想像は、すぐに吹き飛びました。
「大変ですわ! 人が、人が押し寄せてきて──!」
「列を作れ! 捌け、捌け~!」
(……めっちゃ人、来るんですけど!?)
嬉しい悲鳴といったところでしょうか。ものすごい勢いでお客さんが入り始め、迎え入れる私たちはてんてこ舞いです。
「街で商会相手に、大々的に宣伝した甲斐がありましたわね!」
「宣伝?」
「はい! 衣装のデザインから興味持たれまして、星煌祭でお披露目するから是非にと!」
活き活きとした顔のマーガレット。
「学園新聞でも、ガッツリ宣伝しましたしね!」
「記事を寄稿した甲斐がありました!」
さらにはクラスメイトからは、そんな満足気な声まで。
(……って、ちょっと待って!? 今、学園新聞のライター居ましたよね!?)
(宣伝はありがたいですが、 学園新聞にはちょ~~っとばっかり複雑な思いが!)
魔王としての知名度を確固たるものにした学園新聞──まるで背中から撃たれた気持ちです。
そんな中、聞き覚えのある声がしました。
「おお、ここが姉御のクラスか! なんだか姉御にしては、随分おとなしい喫茶店だな」
「気を付けろ。足を踏み入れたらそこは死地、目を合わせたら二度と生きては帰れんぞ?」
「……レヴァンに、メイソン先輩。こんなところで何してるんですか?」
あとメイソン先輩は、ウチの客に対して何を吹き込んでくれやがってるんですかね!
姿を表したのは、風紀委員の面々──メイソン先輩とレヴァン先輩──でした。
「おお、姉御!」
「姉御じゃありませんって!」
「ヒッ──」
「メイソン先輩も、怯えてないで注文をどうぞ」
最初は少しショックでしたが、いい加減、顔を見られただけで怯えられるのにも慣れたものです。
私はため息をつきながら、注文を取ります。
「なら僕は、このフェアリーセットを──おまじないつきって何だ?」
「なら俺もそれで!」
ちなみに迷わず二人が選んだフェアリーセットは、このクラスで一番高いセットメニューです。
「二人とも、それでよいんですか?」
「「あ、ああ」」
「毎度あり!」
私はサッとカウンターに戻り、注文を伝えます。
そうして、私とエリンちゃんでオムライスとドリンクを盛り付けていくと、
「はい、おいしくなーれ!」
「…………???」
「駄目ですよ! おまじないは一緒にかけないと!」
「ああ。……なんだこれ?」
「姉御! それが姉御の強さの秘訣なのか?」
「まったくもって関係ありませんね!」
怪訝な顔をされながらも、おまじないを一緒に唱えます。
ズバリ、ケチャップを一緒にかけるあれです。
「お、おいしくなーれ♪」
「おいしくなーれ……」
エリンちゃんは、ちょっぴり恥ずかしそう。
仏頂面のまま、表情が無になったメイソン先輩が印象的でした。
「おいしくな~れ、ですわ!」
「ちょ~っ、かけすぎかけすぎ~!!?」
「はっはっは、真っ赤っ赤なのじゃ~」
一方、向こうではセシリアさんが、オムライスに山盛りのケチャップをふりかけ、その様子を見たリリスは爆笑しており──なんともにカオス。
「なんだかんだで大盛況ですね!」
幻想的とは程遠い雰囲気の店内ですが。
それでも確かな笑顔が、クラスの中には溢れており、
「フィアナちゃん、次は二名様のお客さま!」
「三名様がお待ちです!」
「列が、列が一向に捌けていきません!!」
──やがては戦場と化すのでした。





