フィアナ、星煌祭の直前準備を完了させる
それから私たちは、文化祭当日に向けて準備を進めました。
学園全体を通してのお祭りというのは伊達ではないらしく、どこの教室も気合が入った出し物を準備している様子。
各教室の前には出し物の看板が出ており、夜も魔法の灯りで照らされていてこれぞお祭りという高まりを感じます。
私たちのメイド喫茶《夢見の森》──も、順調に準備が進んでいました。
「い、いらっしゃいませ、ご主人さま?」
「おもてなしの心が足りません!」
ぎこちなく首を傾げるセシリアに、鋭い声が飛びます。
「おもてなしの心ってなんですの~!?」
「いいですか、おもてなしの心というのはですね──」
いつの間にか教室の中心に立っていたのは、平民として入学した一部の生徒や、高位貴族の使用人としてついてきていた生徒でした。
セシリアに対してもピシリと声を上げる姿からは、ちょっとした貫禄すら感じます。
「よい空気ですね」
「うん。まさか皆、こんな一生懸命になってくれるなんて」
私の言葉に、エリンちゃんが静かに頷きます。
考えられない光景でした。最初は、給仕役なんて御免だという声もありました。
それでもセシリアが興味津々で楽しそうにしているのを見て、気がついたらクラス全体が盛り上がっていたのです。
逆にここまで受け入れられてしまったからこそ、不安なこともあります。
「でもこれ……、使用人の格好をさせたどころか、使用人の仕事そのものをさせてることになるんですが……、大丈夫ですかね?」
「心配ありませんわ。所詮は学園でのお遊び、それに文句を言うような空気の読めない方はきっと居ないでしょうし──ワタクシたちを支えてくれてる人たちのことを理解するのも、きっと大切ですわ」
「はい、セシリアさまの言うとおりですわ」
私の言葉に、マーガレットとセシリアがそう頷くのでした。
「ところでフィアナさん、喫茶店の名前変更について、そろそろ考え直してくれましたか?」
「ゼッッッタイに嫌です!」
マーガレットの言葉に全力で首を横に振る私。
「良いじゃありませんの、魔王喫茶──メテオストライク! フィアナさんにピッタリですわ!」
「私も、魔王喫茶に仕えたいです!」
「エリンちゃんにセシリアまで! 癒やしの空間はどこに行ったんですか──」
紅茶を飲んでいたら突然隕石が降ってくる喫茶店、嫌すぎます。
あの決闘で、ついに学園新聞トップを飾ってしまった私の"魔王"という二つ名は、今や学園全体ですっかり定着になってしまったらしいのです。
お客さんを集めるためには、知名度をフル活用したほうがいいなんて、そんな正論に丸め込まれそうになりましたが……、
(駄目です、駄目です! 友だち作りのためにも魔王なんて二つ名は百害あって一利なし!)
(いずれは沈静化させるんです!)
もう手遅れな気もしますけど! きっと、気の所為!
「なんじゃ? なんの話をしているんじゃ?」
「あ、リリス。リリスからも言ってやってください。魔王なんて二つ名、簡単に使ってはいけないって!」
是非ともホンモノの魔王の娘として!
そんな願いを込めてリリスを見るも、リリスは嫌がる私を見て楽しそうにニヤッと笑うと、
「わらわは良いと思うぞ、魔王喫茶!」
「ちょっ、リリスまで!?」
「フィアナさん、ちなみにフィアナさん以外は満場一致で賛成のようです」
「…………」
どうしよう、セシリアとマーガレットさんの行動力がすごすぎます。
「リリス、クッキー一枚で反対票。どう?」
「もぐもぐ……、うむ。じゃが、わらわの一票じゃ多数決は覆らないと思うぞ?」
「ごもっともです……」
そんな四面楚歌な環境にもめげず、私は「コンセプトを守り抜くことが大切なんです!」「だいたい、せっかくの妖精服と相性悪すぎますよね!?」「そもそも魔王喫茶って何なんですか~!?」と必死の説得を繰り返し、どうにかメイド喫茶のコンセプトを死守するのでした。
***
一方で、風紀委員側でも準備は着々と進んでいました。
臨時参加だから、打ち合わせに来る必要はない──そう言われていました。それでも、当日協力する以上、顔を出さないわけにもいきません。
そんな訳で、風紀委員室に顔を出した私を見て、
「……き、君はっ!」
鉢合わせたメイソン先輩が、ぴたりと固まりました。
「大魔王フィアナ! な、な、な、な、なぜここに!?」
「なぜって風紀委員の打ち合わせですよね?」
「そ、それはそうだが──」
言葉に詰まりながら、じりじりと距離を取られます。
……なぜでしょう。私、何かしましたっけ?
打ち合わせ自体は、順調に進んでいきました。
要注意スポットの共有や、循環ルートの共有、緊急時の合図の方法や連絡用魔導器の配布まで──プロはやっぱりすごいなあ、なんて思いながらふむふむ頷く私です。
そんな私を見ながらメイソン先輩は、
「え~い、とにかく当日は余計なことはするなよ!」
そんなふうに釘を差してきました。
「余計なこと、とは?」
「クレーターを増やすとか!」
「しませんよ!?」
この人、私のことを何だと思ってるのでしょう。
「まあまあ、そんなに怯えてやるなって」
真顔になる私でしたが、そう脳天気な声が割り込んできました。
声の主は、学園ニュースに載る羽目になった元凶のレヴァン先輩でした。
「なっ! 怯えてなど──」
「姉御! 当日は頼りにしてますぜ!」
「だ、誰が姉御ですか!」
あの決闘以降、何故か私を姉御と呼ぶようになってしまったのです。
その変わり身の早さは、どこかエリンちゃんを助けるために、モヒカン集団と戦ったときを彷彿とさせ……、
(ううん、私あの人たち苦手なんですよね)
私は、舎弟ではなく友だちがほしいんです。
周囲の風紀委員たちは、そんなやり取りを遠巻きに見守っていました。
目が合うと、さっと逸らされました。
(……どうして私、ここでも怖がられてるんでしょう?)
「と、とにかく当日はよろしくお願いしますね!」
私は、逃げるようにその場を後にするのでした。
──そうして忙しく星煌祭の準備をしていく中で、光のように日々は過ぎていき
ついに星煌祭当日になるのでした。





