フィアナ、うっかりクレーターを生み出す
フィアナ、風紀委員との対決を制する
「この方が、都合いいんでね!」
感心するような私の声に、レヴァンは獰猛な笑みを浮かべました。
レヴァンが生み出したのは、身長ほどはあろうかという巨大な大斧でした。禍々しいオーラを放つそれを、レヴァンは何事もないかのように片手で軽々と持ち上げました。
(か、かっこいいですね!)
思わず目を輝かせる私。
こうやって面白い技を見られるのが、模擬戦の良いところだと思います。
「おい、メイソン。はやく試合開始の合図をしやがれ!」
「くっ、レヴァン。なんだその口の聞き方は?」
「あ?」
レヴァン先輩の威圧を受け、ヒッと腰を抜かすメイソン先輩。
「かてえこと言うなよ、メイソン。これもお前が大好きな規律を守るためだろう」
「……クソッ、僕を誰だと思ってるんだ。これだからスラムあがりは──」
メイソン先輩はそう吐き捨て、不快そう眉をひそめるも、
「それでは試合開始!」
そうヤケクソのように宣言するのでした。
「一応、言っておこう。嬢ちゃん、降参するなら──」
「こんな楽しいこと途中でやめられるわけないじゃないですか。早くやりましょう!」
「言ってくれるじゃねえか」
私の笑みを受けて、レヴァン先輩は獰猛な笑みを浮かべると、
「それならお望み通りに──喰らいやがれ!!」
レヴァン先輩が使ったのは、身体強化の魔法です。
爆発的な瞬発力──その爆発的な推進力をそのままに、私に向かって斧を振り下ろします。
私は、凄まじい勢いで振り下ろされる斧を、
「なるほど、こうやって武器化したんですね!」
ガシリ、と受け止めました。
指一本で。
「なるほど、破壊力を持たせるために結構危ない魔法陣も組み込んでますね。すごいです──奇跡的なバランスの上に成り立ってますね、これ!」
「なっ! なっ、放せっ!」
「えいっ!」
私は左手で、斧を殴り飛ばしました。
大斧は、レヴァン先輩の手を離れ──
(あっ──)
「なっ!?」
戦いを見守っていたメイソン先輩の真横を通過していき、
ドガァァァアンッ!
訓練室の結界を貼るための魔法陣を、木っ端微塵に吹き飛ばしました。
(あぁぁぁああ、またやっちゃったあ!)
(こ、これもしかして弁償……、なんてことに!?)
魔法陣を守るための防御陣を貫き、深々と突き刺さった斧。
床には、巨大なクレーターができていました。
恐るべき斧の破壊力です。
(……い、いや? これ、私は悪くないはず!)
(元はといえば、あの斧が悪いはず! だから吹き飛ばしただけの私は無罪。多分!)
私は、生まれてしまったバカでかいクレーターから、そ~っと目を逸らし、
「え~っと、メイソン先輩……」
「ヒ、ヒィィィィッ! バケモノ!」
私がそっと視線を送ると、メイソン先輩は悲鳴をあげて座り込むではありませんか。
(バ、バケモノとは失礼な!)
ストレートな罵倒すぎます、それなら魔王の方がマシです!
どちらも嫌ですが……。
私は、ぽかんとしているレヴァン先輩に視線を戻すと、
「えーっと……、続けますか?」
「冗談。渾身の一撃を止められた上で、あの威力──降参だ」
「残念。また、やりましょうね」
そうして決闘は終わり、
「このクレーター、武器投げただけで生み出したのマジ?」
「魔王、王国騎士団の結界班が張った結界を、斧をぶん投げるだけで破壊する。写真撮ったか!? これは明日のトップニュースになるぞ!」
「こ、これが魔王の本気か──」
集まってきた観客からは、畏怖の表情を向けられてしまい、
(どうしてこうなったぁ!)
私は内心で悲鳴をあげるのでした。
***
翌日のこと。
教室に入った私は、いつもと違う空気に迎え入れられることになりました。
視線、ひそひそ声──ところどころで「魔王」という言葉が聞こえてくることになり、私は顔を引きつらせます。
「おはようございます……?」
首をかしげる私に、
「フィアナ、またやらかしたんですわね」
セシリアが、じとーっとした目でこちらを見てきました。
「な、なんのことですか!?」
ギクリとする私。
「まあ……、まずは話を聞きましょう。昨日、学園長室に呼び出されてから、いったい、どこで何をしてたんですの?」
「え、え~っと……」
(あれは私が悪いのではなく、いわば不可抗力というものでしてね!)
なんて言い訳を心の中でしていると、
「ねえ、フィアナちゃん! これ、ほんとうにやったの?」
「な、なんのことですか?」
「決闘!」
エリンちゃんが、キラキラした目でそう身を乗り出します。またしても、クラスメイトからの視線が、ちらちらっとこちらに集まってきており、
(ん……? あれは、なんでしょう?)
よく見ると、教室に端っこに何やら紙が張られていました。
人が集まっていたそこには、よくよく見れば私がデカデカと映されており……、
『【速報】異能の新人フィアナ、次は風紀委員と模擬戦。訓練場に巨大クレーター発生!』
『結界の専門家「訓練室の結界が破壊されるなど前代未聞! その威力はまさしく戦術兵器にも引けを取らないと予想されており(恍惚とした表情)」』
『一般筋肉愛好家「やはり筋肉! 健康な肉体は、すべてを解決する!!」』
「う、うわぁぁぁ!?」
私は、大慌てで紙面をビリビリに引き裂くのでした。あと一般筋肉愛好家──もといマティ先生は、いったいどこに向かってるんですかね!?
「クレーターって、なにしたの!?」
う……、エリンちゃんの純真無垢な瞳がつらい!
一方、セシリアはツカツカとこちらに歩いてきて、
「おかしいですわね。昨日、ワタクシたちは学園長室に呼び出されたフィアナを、心配しながら見送ったはずで──」
「はい……」
「なのに翌日の学園新聞で、風紀委員との決闘からのクレーターですの? 何があったのか、説明してくださいまし!」
淡々と、そんなことを聞いてきます。
その瞳は笑ったおらず、私が言葉に詰まっていると……、
「……セシリアさま、昨日ずっとフィアナさんのこと気にしてましたもの」
「マーガレット、今は茶化さないでくださいまし! フィアナ、勝手に面倒事を抱えてるなら許しませんわよ!」
星煌祭の準備で忙しくしていたはずのマーガレットさんが、そうフォローを入れてくれました。
セシリアの瞳は、話をちゃんと聞くまでは逃さないと言っており、
「えっと、学園長の頼みで、星煌祭で風紀委員の見回りに同行することになってしまって」
「……ええ!?」
「なんやかんやあって、風紀委員の方と模擬戦をすることになってしまいました!」
「どうして、そうなるんですの!?」
本当にどうしてそうなったんでしょうね!?
私が状況を説明していくと、
「それじゃあ、フィアナちゃんは風紀委員として学園を見回るの? 風紀委員、自由に文化祭を楽しむ暇もないぐらい忙しいって聞いたけど……」
「そんな……。じゃあ、一緒に回ることはできませんのね」
セシリアとエリンちゃんが、そう悲しそうな声で尋ねてきました。
「大丈夫です! 星煌祭当日は、自由に過ごしてオッケー。そう許可を取りました!」
「……まさか決闘で?」
「そういうことです」
私がドヤッと頷くと、セシリアはハァとため息。
「それで、この大立ち回りなんですのね──本当にフィアナらしいというか」
「さすがフィアナちゃん!」
「ニュースに何が書かれてたのか、見るのが怖いんですが!?」
そんな大騒ぎする私たちに、クラスメイトたちからは、いつものように生暖かい眼差しが注がれるのでした。





