フィアナ、呼び出しを食らう
それからの日々は、一気に慌ただしいものとなりました。
私は、クラスの出し物──メイド喫茶・夢見の森──の提案者として、その監修を行うことになったのです。
とはいっても基本的に、私に専門的な知識はありません。まして今は、私が前世の記憶をもとにイメージしていたものとは大きく違うものであり、内装と衣装についてはマーガレットさんに一任することになりました。
結局、大変な部分を丸投げすることになっちゃったなと思う私でしたが、
「入学以来の大仕事──腕が鳴りますわ!」
そう当のマーガレットさん本人は張り切っており、ひとまず一安心です。
驚くことに翌日には、みっちり書き込まれた内装の計画書を用意してきました。
「フィアナさん、教室に設置する小道具はこんな感じで大丈夫ですか? 基本的には森をイメージした内装で統一したいと思っています。幻想的な空気を演出するために、裏舞台からは魔法で光の球を浮かべて幻想的な空気を演出したいと思っています!」
こちらが気圧されるような勢いで、内装のアイディアをまくし立てるマーガレットさん。
(お、恐るべきスピード感です!)
「は、はい! 完璧です!」
パタパタと走り去っていくマーガレットさんを見ながら、
「楽しそうですわね、マーガレット」
セシリアが、そう微笑むのでした。
「良いんですかね。ここまでしてもらって」
「クラスの内装を一任されるという、またとない大仕事の機会──むしろマーガレットは、フィアナに感謝してると思いますわ」
「それなら良かったです」
「それにマーガレットは、実家では大きな仕事を任せてもらえないと、いつも愚痴ってましたもの。今回の大舞台、ワクワクしてると思いますわ」
その呟くセシリアの声は暖かく、
(私も、負けてられませんね!)
私は改めて、そう気合を入れるのでした。
そんなある日の放課後。
「フィアナ、この後、学園長室に来るように」
突如、私はティア先生にそう告げられます。
まさかの呼び出しです。
「今度は、いったい何をやらかしたんですの?」
「むっ、失礼な……! 何もしてませんよ! して……、ませんよね?」
ちょっぴり不安になる私。
「ハッ、もしかしてリリス?」
何かしでかした? と視線を向けましたが、はて? と首を傾げられます。
毎日のようにクレープをねだっていたぐらいで、基本的にはリリスは上手くクラスメイトたちに順応していました。
大きな問題は起こしていないはずですが……、
「ま、まあ行けば分かりますね!」
呆れた視線を向けてくるセシリアと、ちょっぴり心配そうなエリンちゃんに見送られながら、私は学園長室に向かうのでした。
***
「失礼します!」
「うむ……、揃ったな」
学園長室に入った私を迎えたのは、エレナ学園長だけでなく見慣れない生徒も一緒でした。
制服の色から判断すると上級生のようです──なぜかその生徒は、鋭い目線をこちらに向けてきます。
(え、なにこの空気……)
なぜか敵意を向けられ、私は戸惑うことしかできません。
「いったい何の用ですか?」
「うむ。実はな……、来月に迫った星煌祭で、どうにもきな臭い動きがあってな──」
「は、はあ……」
想像の斜め上の切り出しに、思わず私は呆けた声をあげます。
「星煌祭の当日は、見回りを強化したいと思っておるのじゃ。そこで、以前テロ騒動解決の立役者となったフィアナにも、ぜひとも見回りに加わってもらおうと思っておってな」
「……へ?」
降って湧いてきた話に、思わず聞き返してしまう私ですが、
「僕は反対です!」
鋭く声を上げたのは、エレナ学園長の前に立つ生徒でした。
「見回りについては、我々、風紀委員だけで十分です!」
「メイソン。これは決定事項じゃ」
神経質そうなメガネの男子生徒──メイソンと呼ばれた生徒──は、苛立ちを隠そうともせず、エレナ学園長に噛みついています。
(これは……、メイソン先輩の言うとおりなのでは?)
そもそも私には、見回りの経験なんてありません。
見回りの強化で選ばれる人選としては、あまりにも不向きです。
(それに……、見回りなんてしてたら、せっかくの文化祭が!)
今もクラスでは夢見の森──メイド喫茶の準備が進んでいるのです。今回の星煌祭は、前世をあわせても初めての文化祭で、とても楽しみにしていました。
そんなわけで、是非ともメイソン先輩には頑張ってもらいたいところ。
「メイソン、前にも話したじゃろ。お主らの実力を疑っているわけではなく、これは本当に念のための保険じゃ」
「保険に転入生を巻き込もうという発想が理解できないんです。確かにこの間の騒動では、この新入生が手柄を建てたのは事実──それでも我々も、時間さえあれば確実にあの程度の事件なら解決できました!」
キッと敵意剥き出しで、こちらを睨んでくるメイソン先輩。
どうして、こうも一方的に敵視されているのでしょう。
「わ、私もメイソン先輩の言うとおりだと思います。見回りなんて素人の私が回っても──」
一応、ルミナリアでは、模擬戦の延長上で、隠れた罠を看破する練習をしたことはあります。それでも本格的なプロと比べれば、所詮は遊びの延長上にすぎません。
「素人のぅ……」
エレナ学園長は、疑わしげな顔でこちらを見てきました。
「無論、基本的には星煌祭を自由に見てもらって構わない。その上で何か怪しいものがあったら、念の為本部に連絡してくれれば十分じゃ」
エレナ学園長が、説得しようとように、そんなことを言いました。
「な、なるほど──」
それなら友だちと一緒に星煌祭を回ることはできそうです。
(というか、きな臭い動きってなんでしょう? なんだか厄介事に巻き込まれる予感が……)
ちょっとした嫌な予感に、私が迷っていると、
「あ~、ところでリリス嬢の受け入れは大変じゃったなあ」
エレナ学園長は、わざとらしく、そんなことを言い始めました。
「学園特例の申請のための各所への根回しに、日々の心労。それに何より情報の機密性が──」
「あ~、もう分かりましたよ!」
根負けした私は、ヤケクソのようにそう頷きます。
「当日、星煌祭を周るときに普段より少しだけ気を付けます。それで良いですね?」
「十分じゃ」
ニヤリと微笑むエレナ学園長。
(ぐぬぬぬ……、この人、意外と貸しを作ると面倒な人でした!)
そんなやり取りを見て、面白くなさそうな反応をしたのはメイソン先輩でした。
「学園長! 僕は、まだこの者を見回りに加えることに納得した訳では──」
「くどいぞ、メイソン。フィアナにも見回りに協力をお願いする──それが、この学園を守るのに必要というのが、わらわの判断じゃ。良いな?」
「くっ。学園長は、なぜこのような新参者を信用なさるのですか」
メイソン先輩は、忌々しそうな視線を向けてきました。
(……え? 私、この空気の中、風紀委員に加わるんですか?)
(学園長!? せめて説得を済ませてから話を持ってきてくれませんか!?)
私は内心で、面倒事を丸投げしてきたエレナ学園長への不満を叫ぶのでした。





