フィアナ、出来上がったメイド服に驚愕する
それから数日後。
私たちは、マーガレットさんに呼ばれて放課後の教室に集まっていました。
「準備、できましたわよ」
そう言って、マーガレットさんが布に包まれた衣装を取り出したのを見て、
「わあ……!」
思わず声が漏れました。
そこにあったのは、私の知っている伝統的なメイド服とはまるで違う衣装だったからです。
堅苦しさはなく、軽やかなレースをあしらったドレスのようなデザイン。
淡い色合いでまとめられていて、何より──
「羽が、ついてますわね……?」
セシリアが、まじまじと背中を見つめました。
それは一言でいうならば、ふわふわとした可愛らしい小さな羽であり、
「はい。あくまで出し物──これは“仮装”ですからね」
マーガレットさんは、よくぞ聞いてくれました──と言わんばかりの口調で、そう答えました。
そんな説明を軽く聞きながし、
「おおっ!」
そう声を上げたのは、リリスでした。
目を輝かせたまま、パタパタと駆け寄ると、背中についている羽を両手でつまみ上げ、
「おお、ちゃんと動くぞ! 面白い!」
「ちょっ、ちょっと! 引っ張らないで下さいまし! 取れてしまいますから!」
キャッキャと羽を引っ張るリリスを見て、マーガレットさんが目を三角にします。
そんな二人を横目に、セシリアはふむと頷きました。
「なるほど、考えましたねマーガレット。これなら、“使用人の格好をさせた”などという無粋なイチャモンもつきませんわ」
「ありがとうございます、セシリアさま。そうですねコンセプトは──妖精と戯れる、憩いのひととき、といったところでしょうか」
マーガレットも自信があったのか、どこか誇らしげな様子。
(実際、すごいです! 私だけでは思いつきませんでした!)
(これが、異世界メイド喫茶……!)
私が驚きで目を丸くしていると、
「どうですか、フィアナさん?」
「バッチリです! すごく良いと思います!」
思わず拳を握る私。
「衣装はバッチリですね! ここからダメ押しのアピールをするためには──」
「はい! やっぱりメイド喫茶には、おいしくなーれの呪文が外せないと思います!」
「フィアナのそのオムライスへのこだわりはなんなんですの?」
不思議そうにこちらを見てくるセシリアと、真面目な顔で何かをアピール内容をメモっていく様子のエリンちゃん。
「おいしくなーれの呪文──お客さんと一体になってのアトラクション、みたいなものかな?」
「た、多分そんな感じです!」
まるで参謀役のように意見をまとめていくエリンちゃん。
そうして私たちは、決選投票に向けてメイド喫茶のアピール準備を進めていくのでした。
そうしてついに迎えたクラスでの出し物決定の話し合い当日。
「フィアナ、準備はバッチリですの?」
「はい、バッチリです!」
私たちは、完成した衣装を身にまとって教室に入りました。
エリンちゃんを中心に、コンセプトの整理や役割分担、簡単な調理工程の確認まで、出来る範囲の準備はしてきたつもりです。
あとは、それを分かりやすく伝えるだけ。
「わあ!」
「可愛い!」
教室に入るなり、そんな歓声が上がります。
どうやらクラスメイトにとっても、妖精を模したメイド服はかなり新鮮だったようです。
ひそひそと話しながら、衣装にチラチラと視線が注がれます。
(掴みはバッチリです!)
そうして注目が集まる中、私は一歩前に出ました。
「私が提案する出し物は、メイド喫茶──喫茶店です!」
私はそう自信満々に宣言します。
「教室で簡単に調理できるものをお客さんにお出しします。この衣装と内装で、妖精と戯れるような非日常な空間を体験してもらう、そんなお店です!」
エリンちゃんと事前に練っていたおかげで、説明はスラスラと出てきます。
今度は、クラスメイトたちの頭にクエスチョンマークが浮かぶこともありません。
(手応え、ありますよ!)
クラスメイトたちの反応は上々。
「そういえば、前に言ってた料理が美味しくなるおまじないって?」
その時、一人のクラスメイトが、そんな質問をぶつけてきました。
「それはですね! オムライスに一緒にケチャップをかけて、美味しくな~れって唱えるんです!」
「……な、なんのために?」
「美味しくなります!」
たぶん!
「なんじゃそりゃ!?」
(ほんとうに、なんなんでしょうね!?)
自分で説明しておきながら、内心でツッコミを入れてしまいました。
それでもメイド喫茶たるもの、やっぱりおいしくなーれの呪文は欠かせないと思うのです。
「あ、えっとですね……、その──」
「お、お客さんも一緒に参加できる、体験型っていうのも肝なんです」
私が言葉に詰まっていると、横からエリンがそうフォローしてくれました。
「そう! これは妖精のイタズラ、という設定ですわ! 理屈よりも、雰囲気を楽しんでいただくのが第一なのですわ!」
「ふむ……?」
更にはセシリアが、勢いとノリでゴリ押そうとします。
「よく分からんが、楽しそうじゃな!」
ニコニコ無邪気に微笑むリリスの声は、不思議とよく響きました。
そうして、その声に反論が出ることもなく──
「客を巻きこむ体験型っていうのは、面白そうだな」
「妖精のイタズラ……、なるほど。そういうコンセプトなのね」
「おいしくなーれのおまじない。いっそのこと、本当にそういう魔法、開発してみる?」
「案外そういうノリでやったほうが、ポイントも集まりやすくなったりしてな」
戸惑いと感心が入り混じった好意的な反応。
それは最初と異なり、たしかに興味を惹けており……、
「──以上で、発表を終わります」
たしかな手応えとともに、私は次のグループに発表の場を譲るのでした。
「それでは、改めて多数決を取ります」
「気に入ったアイディアに、挙手をお願いします」
そうして、ついに決を採る時間が訪れました。
「説明、一番分かりやすかったしな」
「変わったことやらないと、他のクラスに埋もれそうだしなあ」
「あのキラキラした服、私も着れるんだよね!」
そして、厳正なる多数決の結果──
(やりました……!)
終わってみれば、ほぼ満場一致に近い形で。
クラスの出し物は、私たちのメイド喫茶──夢見の森に決定したのでした。





