フィアナ、メイド喫茶のコンセプトに悩む
その後は、いくつかのグループに分かれて案出しを行うことになりました。
次の話し合いでグループごとに出し物を提案し、一番、多くの票を集めたグループの出し物が採用されるという形です。
そんなわけで、私たちはいつものメンバー──私・エリンちゃん、リリス──それに、セシリア派のメンバーで集まっていました。
「フィアナ、メイド喫茶って本気ですの?」
首を傾げながら、セシリアがそう口を開きます。
「うん! ……駄目ですか?」
「うっ……、駄目ってことはないですが、どうにもピンと来ませんの」
このクラスにいる大半は、有力貴族の子息です。
メイドという存在には日頃から関わりがあり、だからこそメイド姿で接客をするという感覚は何が楽しいか理解できないようで、
「だいたい……、そんな格好をしているところを見られたら品がないって……、両親に怒られてしまいます」
「ごめんなさい、私も同感です」
そう遠慮がちに口を開いたのは、セシリア派のマーガレットさんたちでした。
「楽しそうではあるんですけどね……」
「でも面倒事になるのは、目に見えてますもの」
セシリアとマーガレットさんが、そう困ったように視線を交わします。
「どうじゃ? やはり今からでも、血肉湧き踊る闘技大会の開催を──」
「絶対に、却下ですわ!」
リリスが突拍子もないことを言い出し、セシリアが力強く否定します。
(う~ん、難しいですね──)
そんなやり取りを聞き流しながら、私は考えます。
ここに通う生徒の多くは、仕えられるのが当たり前の立場の人間です。使用人に扮して接客をさせるとは何事だ! という反対の声もありそうということで……、
(メイド喫茶、出し物としては悪くはないと思うんですけどね)
決して、可愛いメイド服を着てみたい! という理由だけではありません。
普段ならあり得ない非日常な空間──そこには文化祭のお約束になるほどの魅力が詰め込まれていると思うのです。
そんなことを考えていると、隣から思わぬ形で援護射撃が繰り出されました。
「私もメイド喫茶。良いと思うな」
声の主は、エリンちゃんです。
「ちょっとエリンまで……。正気ですの?」
「うん。フィアナちゃんが言ってた出し物は、ちょっと普通とは違うと思うから」
「オマジナイにお絵描き……、そういえばおかしなことを言ってましたわね」
エリンちゃんの言葉に、セシリアも思い出したように首を傾げます。
「それに……、あの服、可愛いし──」
また、密かにメイド服に憧れがあったらしいエリンちゃん。
「それは、少しは分かりますが──」
「でしょ!」
「でも、それとこれとは話が──」
ぐいぐいと前のめりに言うエリンちゃんに対して、どうにも及び腰のセシリア。抵抗があるのは、やっぱり使用人の格好でお客さんに奉仕することになるという部分のようです。
しばらく考え込んでいたセシリアでしたが、
「フィアナ! この際、メイド喫茶とやらをもっと詳しく教えて下さいまし!」
そう私に言いました。
「えっと、店員がメイドとして接客するらしいです。それで、ですね──」
私は前世の記憶をたどり、メイド喫茶について説明します。
「美味しくな~れっ、美味しくな~れって本当に、それでオムライスが美味しくなるんですの?」
「た、たぶん……?」
「なるほど! この世の中には、まだ知られていない不思議な魔法があるんですわね」
妙なところで感心されてしまいました!
「……なるほど、ふざけたコンセプトのように見せてガードを下げて、魔法の腕前を見せつける。面白い試みですわね」
(なんか違う方向に進んでる!?)
断片的な情報を聞いて、着々とセシリアの中でメイド喫茶への誤解が進んでいきます。セシリアは、なにやら妙な形で合点がいった様子。
(ま、まあ良いですかね。徐々に訂正していけば!)
私は、そっとセシリアから目を背けました。
「そうと決まれば、次の会議に向かって早速準備していきましょう!」
セシリアは、パンと手をたたき気合を入れます。
「デモンストレーションとして、メイド喫茶のおもてなしというのを、次回の話し合いでワタクシたちでするのがスマートですわね。そうとなれば、来週までにメイド服の用意も必要になりますわね」
「今日の放課後、王都に買いに行きますか?」
善は急げと口にした私に、
「せっかくの晴れ舞台! ぜひとも、我が商会で、オーダーメイドさせていただけませんか?」
そんなことを言い出したのは、マーガレットさんでした。
「オーダーメイドなんて出来るのんですか?」
「あら、フィアナは知らなかったんでしたっけ。マーガレットのご実家は、王都でも有数の服飾屋を経営していますのよ」
あんぐり口を開けるのは私だけ。
どうやらエリンちゃんたちは、みんな知っていたようです。
「でも、良いんですか?」
「これはチャンスです、ありあわせの衣装でなんて勿体ない! 貴族向けのデザイン重視のメイド服! これは協力すれば、新しいトレンドを切り開けますわ!」
遠慮がちに聞く私でしたが、マーガレットさんはそう自信満々に言い放つと、
「そうですね。早速、オーダーを──フィアナさんがお望みならば、オリジナルのデザインを用意することもできますよ」
「本格的ですね! えっと、それなら!」
マーガレットさんからそんな提案を受け、私は前世の記憶をたどろうとします。
(この世界のメイド服よりも、もうちょっとラフな感じで──)
(どんな形をしてましたっけ……?)
どうにも記憶が曖昧です。
私は記憶を頼りに筆を走らせますが、
「それは……、お化け?」
「いいえ、違いますわ。これは──ムカデのモンスター!」
出来上がったものに対する反応は、散々なものでした。
「違います、人です!」
(失礼ですね!)
私は諦めて、そっと筆を起きます。
「イメージだけでも聞かせて下さい。モチーフはどんな感じで?」
「えーっと……、普通のメイド服みたいに堅苦しくなく、非日常が楽しくて、この世のものとは思えない素敵な空間って感じで──」
「それは……、このお化けみたいなデザインってことでしょうか?」
「それは、もう忘れていただけると──」
私のたどたどしい説明を聞き、マーガレットさんは、しばらくは困ったような顔をしていましたが、やがて何か合点がいったようにポンと手を叩くと、
「なるほど、そういうことですか! ビビッと来ました、お任せください!」
最後にはそう言い残し、上機嫌に教室を走り去っていくのでした。
「あれはスイッチが入りましたわね。完成が楽しみですわ」
見送るセシリアの、そんな言葉が印象的でした。





