フィアナ、星煌祭への意気込みを新たにする
ある日の朝。
授業前の教室には、いつも通りの気だるさが漂っていました。
そんな何の変哲もない朝のホームルームにて、
「今日はお知らせがあります」
ティア先生が、そう切り出しました。
「星煌祭についてです。再来週までに、星煌祭のクラス企画を提出する必要があります。今日の放課後、話し合いの場を設けるのでアイディアをまとめておくように」
(星煌祭?)
頭をハテナにする私でしたが、
「もうこの時期か!」
「勝負は、アイディア出しから始まっている!」
「今年は、どのクラスが一番ポイント集めるんだろう?」
クラスメイトたちは、そう歓声をあげていました。
「星煌祭って何なんです?」
ピンと来ず、私は隣に座るエリンちゃんに質問します。
「それはね──」
エリンちゃんは本を閉じ、今日も天使のような笑みを浮かべて答えてくれました。
(なるほど、なるほど。学園で、生徒たちが学んだことを披露するために、クラス全体で出し物を用意するお祭りのこと!)
(……ざっくり言えば前世の文化祭みたいな感じですね!)
思えば前世の文化祭は、縁もゆかりも無いものでした。クラスの皆で、何かを準備して出し物をする──想像するだけで、ワクワクする話ですね。
「それだけじゃなくてね。クラスの出し物では、お客さんからエリシュアンポイントを払ってもらうことができて──もっとも多くのエリシュアンポイントを集めたクラスは、学園から豪華商品が出されるんだよ。これが毎年すごくて!」
エリンちゃんが、キラキラした顔でそう補足してきます。それだけでなく、この文化祭で発表が有力者の目に留まれば、卒業後の進路が開けることもあるわけで、
「なるほど……、どのクラスも本気ってわけですね」
私は、なるほどと頷きます。
(エリシュアンポイントっていうのは、要は文化祭でだけ仕えるお金みたいなものですよね?)
(クラスごとに出し物を出して、多くのお金を出してもらったクラスが勝ち──なるほど、たしかに面白そうですね!)
生徒のやる気を引き出すために、優勝クラスには豪華景品が用意されているそうで、
(わあ、学食で大盛り食べ放題!)
(新メニュー提案チケットまで!? これは、すごいです!)
私も、密かに胸をときめかせ、
(なにか出し物のアイディア。う~ん、う~ん……)
そう頭を悩ませることになるのでした。
***
そうして、またたく間に午後になりました。
「それでは、星煌祭の出し物につついて、話し合いを始めたいと思いますわ!」
セシリアが、フサァッと壇上で髪をかきあげました。
星煌祭の出し物を決める時間になり、今はクラスのまとめ役として、セシリアが会議を取り仕切ることになっています。
テロ騒動の後、クラスの勢力図は一辺しました。
実質、一番の勢力だったルナシア派は、派閥の長が傀儡にされていたこともあり失脚。代わりに大きく信頼を集めたのは、事件解決に大きく貢献したセシリアでした。
(まあ、派閥のメンバー集めは上手く行ってないみたいですけどね!)
そんなことを私が考えていると、
「それでは早速、アイディアがある人は手を上げてほしいですわ!」
セシリアが、そう呼びかけました。
「ハイハイハイハイ! やっぱり魔法学園らしく、魔法研究の発表が相応しいと思います!」
「却下ですわ! 去年、お通夜みたいになったのを忘れたんですの?」
「観客全員が眠った伝説の出し物の話はそこまでだ!」
「なら王宮の歴史のまとめを──!」
「そのやる気のないクラスが、とりあえず実績作りのために出店しましたみたいな案は、どうにかなりませんの?」
次々と意見が出ては、却下されていきます。
「はいはい、お化け屋敷!」
「司会権限で、断固としてお断りですわ!!」
(セシリア、お化け苦手でしたね!)
クラスメイトたちは思い思いのアイディアを出しますが、なかなかこれだというアイディアが出てこない様子で、
「はいはい! 闘技大会! この学園で、一番の猛者を決めるのじゃ!」
ピンと手を上げて、リリスがそんなことを言い出しました。
(それ、面白いですね!)
(いろんな人と模擬戦ができるチャンスです!)
ワクワクする私ですが、
「学園を戦場に変えるつもりですの!? 却下、却下ですわ!」
「「むう……」」
「なんでフィアナまでガッカリするんですの?」
セシリアに速攻で断られ、あっさりとボツ案になってしまいます。
(う~ん、難しいですね……)
「やっぱり魔法の腕を示すのが一番!」
「いやいや、それじゃあまりにも普通で……」
「やっぱり時代は体験型。ついでに口コミも重視して──」
「とにかくポイントを集めるには、回転率が──」
喧々諤々と話し合うクラスメイトたちですが、なかなかまとまる様子はありません。
(そういえば、あれが話題に出ませんね!)
ふと思い出したのは、前世で読んだ小説の記憶です。
文化祭のお約束イベントと言えば……、
「はい! メイド喫茶とかどうでしょう!」
思い出すのは、ヒラヒラ可愛らしいメイド姿のキャラクターたち。
せっかくなら着てみたい──そんな自信の欲望も、ちゃっかりと混ぜながらの提案です。
「メイド……、喫茶、ですの?」
意気揚々と口を開いた私を見て、セシリアが怪訝そうに口を傾げます。
「え? ほら、えっと──メイド喫茶ですよ、メイド喫茶! ほら、みんなで美味しくな~れってオマジナイしたり、オムライスにケチャップで絵を描いたり!」
そう説明する私ですが、クラスメイトたちは訝しげな顔をするのみ。
ピンと来ないクラスメイトたちの様子を見て、
(あれ……。もしかしてこの世界、メイド喫茶という概念がない?)
考えてみれば、貴族という概念が当たり前のように存在する世界です。
その使用人であるメイドという存在もまた、当たり前のように存在しており、結果として出し物としてお披露目するような代物では当然なく……、
「な、なんで我々がそんなことを!」
「全くだ、なんで使用人の真似ごとなんか!」
次に上がるのは否定の声。
「いくら魔王の提案といっても、さすがにそれは──」
「うん。なんでメイド?」
「美味しくなる呪文なんて実在するのか!?」
私の説明を聞いたクラスメイトたちは、どうもノリ気ではない様子であり、
「そうですわね。ワタクシも、ちょっと難しいと思いますわ」
最終的に、やんわりとセシリアにも断られてしまいました。
「む~、良いと思ったんですけどね──」
しょんぼりする私。
「なるほど、面白そうだね!」
そう隣で手を打つエリンちゃんだけが、私の心の支えなのでした。
その後も、クラスメイトたちで話し合いを進めます。
しかし各々の趣味も異なり、なかなかこれだという出し物が決まりません。ついに、このままでは埒が明かないと判断したセシリアが、
「そうですわね……。いくつかのグループに分かれてアイディアを練って、改めて決選投票という形が良いと思いますわ!」
そう宣言し、後日、再び話し合いの場を設けるということになるのでした。





