フィアナ、順調に餌付けを進める
翌日の放課後。
私は、上機嫌のリリスを更に遊びに誘うことにします。この計画の最終目標は、リリスに人間の侵攻を諦めてもらうことです。
その一つ目の作戦は、
(名付けて、餌付け大作戦!)
「皆さん、今日はこのまま王都に遊びに行きましょう!」
「王都、なのじゃ?」
「はい! 美味しい食べ物が沢山! とっておきの場所に案内します!」
「もちろん行くのじゃ!」
私の言葉にリリスはにわかに目を輝かせ、ソワソワと立ち上がります。
食欲には忠実な子なのです。
そのあまりにも無邪気な表情を見て、
「なんだか嘘みたいですわね。この子が、人類の侵攻を目指してるなんて」
「うん。私、魔族なんて言ったら、もっと恐ろしいものだと思ってた」
セシリアさんとエリンちゃんも、そうしみじみと呟きます。
「フィアナ、早く向かうのじゃ!」
「まあまあ慌てずに。おやつは逃げませんから!」
慌ただしく私の手を引くリリス──そうして私たちは、王都に繰り出すのでした。
「ジャーン! ここが、とっておきのクレープ屋です!」
私たちがやって来たのは、これまで何度か訪れたクレープ屋です。
ここは、私が初めて王都にたどり着いた時に出会ったお店でした。今でも週一で通っている、王都イチオシのお店です。
「お姉さん、いつものやつ四つ!」
「まいどあり、いつもありがとね! そっちの子は初めてだけど、お友達?」
いつものお姉さんが店番をやっており、気さくに話しかけてくれました。
今では、すっかり顔なじみなのです。
「えーっと、リリスは幼馴染です。今日は、王都に来たお祝いに来たんです! 王都に来たなら、やっぱりまずはここかなって!」
「あらあら、嬉しいこと言ってくれちゃって!」
たっぷりとクリームが入ったクリームを、私たちに手渡してくるお姉さん。
「これは、なんなのじゃ?」
「クレープって言ってね、こうやってかぶりつくんです!」
最初は庶民のお菓子に戸惑っていたセシリアさんをも、一瞬で虜にした魔性のデザート──それがこのクレープなのです。
おっかなびっくりといった様子でクレープを見つめるリリスでしたが、やがては意を決したようにパクリとかぶりつき、
「なんじゃこれは! すごく美味いのじゃ!」
そう驚きの声を上げます。
それからはガツガツとクレープにかぶりつき、
「はふぅ……」
一瞬で平らげ、幸せそうな笑みを浮かべます。
「リリス、美味しい?」
「うむ!」
「人間が滅んだら、もうこれは食べられないですよ?」
「むぐっ!?」
私の言葉に、リリスはショックを受けたように固まりましたが、
「こんなものでわらわを懐柔しようとは。おのれ、卑怯な!」
「でも美味しいですよね?」
「ぐっ──それはそうとして、おかわりじゃ!」
(ちょ……、ちょろい!)
苦悩の末におかわりを所望するリリス。
口の周りにたっぷりと生クリームをつける様子を見て、私はしめしめと手応えを感じます。
「何度食べても絶品ですわね!」
「うん、美味しい!」
上機嫌なのは、リリスだけではありません。
エリンちゃんたちも、すっかりこのお店の常連なのです。
「リリスにもう一つとして……、二人も、もう一つもらってきますか?」
「うん。フィアナちゃんと同じやつ!」
「なら、ワタクシもいただきますわ!」
二人も、ぺろりと平らげおかわりを所望。
私は、呆れたように笑っているクレープ屋のお姉さんからクレープを受け取り、
「はい。リリス、エリンちゃん、セシリアさんも──」
「その……。ワタクシ、ひとつ気になりましたの」
私がクレープを配ったその時、セシリアさんが、おもむろに口を開きました。
「どうしたんですか、セシリアさん?」
「な・ん・で! ワタクシだけ、さんづけなんですの!」
セシリアさんはズズズッと身を乗り出し、そんなことを言い出しました!
「……へ?」
「だって、エリンさんはまだしも、そこのリリスさんまで! その……、ワタクシだけ仲間外れみたいで……、二人ともずるいですわ」
拗ねたようなセシリアさんの言葉に、
「ふふん、フィアナとの付き合いは一番長いからの!」
何故かリリスが、張り合うようなことを言い出します。
「な、長さよりも密度が大事だもん! 私なんてフィアナちゃんに来てもらって、もう家族への挨拶も済ませたもん!」
エリンちゃんまで対抗心をむき出し、そんなことを言い出しました。
「あの……? そもそもセシリアさんは貴族ですし、いくら学園では平等と言っても、私たちが呼び捨てたりするのは流石に──」
勢いに気圧されつつも、最近、学園で学んだ知識を絞り出した私に、
「本人が許可を出したのです。なにも問題ありませんわ! そう、ワタクシとフィアナさんは、その……、もう、お友達ですし!」
なおもグイグイと距離を詰めてくるセシリアさん。
それからセシリアさんは、期待に満ちた目でじーっと私を見てきて、
「セシリアさん。セシリアちゃん? セシリア……、セシリアさま?」
「なんでもっと距離が遠くなるんですの! ワタクシのことも、呼び捨てで。呼び捨てで、お願いしますわ!」
フンスと息を荒げるセシリアさん──改めセシリア。
「分かりました、セシリア。なら私のことも、フィアナと呼び捨てで」
「分かりましたわ。フィアナ!」
拗ねたような表情から一転。
セシリアは満面の笑みを浮かべるのでした。
「セシリアさま、私は?」
「エリンさん……、いえ、エリンも。もちろん、呼び捨てで構いませんわ──今さら、身分なんてものを、気にする間柄でもありませんわよね」
「うん。分かった、セシリア!」
エリンちゃんは、そう答えながらセシリアにずずずっと詰め寄ると、
「(むむむむ、油断も隙もありません。どさくさに紛れて、フィアナちゃんと呼び捨てあう関係になるなんて!)」
「(い、いきなりどうしましたの?)」
「(フィアナちゃんの最初のお友達は私です! 渡しませんからね!)」
何やら囁くエリンちゃんを前に、目を白黒させるセシリア。
そんな二人を不思議そうな顔で横目に見ながら、
「のう、フィアナ。この美味なクレープ、もう一つだけ、おかわりは──」
(こっちは、めちゃくちゃ虜になってるし!)
リリスはマイペースに、名残り惜しそうに私にそんなことを言います。
「これ以上は駄目です、他はまた今度!」
「ぐぬぬ……」
名残り惜しそうにケースに並んだクレープを見つめるリリスを引きずり、私たちはクレープ屋を後にするのでした。
(リリスは順調に、お菓子にドハマりしてますね──好調です!)
作戦成功の手応えを得つつ、今日の王都散策はお開きとなるのでした。





