フィアナ、魔王の娘を説得する
そして平和に時は流れ、昼休み。
「ちょっと、あなた。転入生で、魔王の娘キャラ、なんて…………、ちょっと調子に乗ってるんじゃありませんこと?」
「はて……、お主は誰なのじゃ?」
平和な昼休みに、唐突な面倒事がやって来ました!
リリスに突っかかっているのは、何とかという有力貴族のクラスメイトです。
どうやら、クラスで目立っているリリスが気に食わないようです。
(うわぁ! これまた私の時は無かった前世でよく見た転入生お約束イベント!)
「誰ですって!? この、ド田舎ものが!」
リリスの我関せずな様子を見て、ますますヒートアップしていくクラスメイト。
「オルコット家の長女たる私に向かって良くも!」
「のう、フィアナ。このちんちくりんは、いったい何をいきり立っておるのじゃ?」
「ち、ちんちくりん~!?」
キョトンとしているリリス。
一方、オルコット家のなんとかさんは、怒りに顔を真っ赤にしており、
「のう、フィアナ。面倒じゃし、いっそ──」
「駄目です!」
「シュン……」
(しかし困りましたね。いったいどうすれば……)
なにせ私も、ずっと田舎暮らし。
残念なことに、こういう事態には疎いのです。
(いっそ全力で魔法を撃ち合えば、それで万事解決しませんかね!)
(うん。村でも困ったら模擬戦でだいたいのことは解決してましたし、やっぱり仲良くなるにはそれが一番です!)
私が、そんなことを考えていると、
「そこまでですわ!」
割って入ってきたのは、なんとセシリアさんでした。
「何の用ですの? あなたには関係がないことで──」
「関係大ありですわ! なにせ、そこのリリスさんは、ワタクシの庇護下にありますからね!」
「なっ!? つまりこの子は、セシリア派に入るという事ですの?」
「それは別問題ですわ! それに……、この子を敵に回すということは、ワタクシたちと、なによりフィアナさんを敵に回すということ。理解した方がよろしいですわね」
フサァッと髪をかきあげ、そう宣言するセシリアさん。
「ヒエェ……、あのフィアナさんを敵に!?」
「ええ、あのフィアナさんを敵に回す勇気があるというのであれば──」
「ええっと……?」
なぜ、そこで私の名前が出てくるのでしょう。
おまけにオルコット家の何とかさんは、ギョッとした顔で私に視線を移してきて(目が合ったので、とりあえずニコリと微笑みかけてみました)、
「失礼しましたわ〜!」
何故か、ものすごい勢いで走り去っていくのでした。
(なんで~!?)
ちょっぴりダメージを受ける私をよそに、
「まったく……、少し考えれば分かることでしょうに」
面倒事をサクリと片付けたセシリアさんは、呆れた口調でため息をつきます。
普段と変わらぬ様子でありながら、頼もしさは普段の三倍増し。
「セシリアさん、凄いです!」
「これぐらい朝飯前ですわ! フィアナさんも、困ったことがあれば、もっとワタクシに頼ってくれいいんですわよ!」
ドーンと胸を張るセシリアさん。
「人間とは、面妖な生き物じゃのう……」
一方、ピューンと逃げ去ったオルコット家のなんとかさんを見て、リリスが困惑したように呟くのでした。……あの人、名前、結局何だったんでしょうね?
そうして激動の初日が、あっという前に終わりました。
気づけば外はすっかり暗くなり、学園全体が夜の静けさに包まれています。
私、リリス、エリンちゃん、セシリアさんの四人は、寮の談話室に集まっていました。
「リリス、学園はどうでしたか?」
「楽しかったのじゃ!」
満面の笑みで、リリスはそう答えます。
どうなることかとハラハラしていた私ですが、リリスは思いのほか無難に一日を終えており、
(というか私よりも、クラスに溶け込むのが速いような!?)
私は、恐ろしい事実に行き当たります。
どうやらリリスは、習得したマナを隠す手法も味方したらしく、自称・魔王の娘なんていう面白いポジションを確立したようです。
幸い、セシリアさんが仲介してくれたトラブル以降、目立った面倒事もなく、
「セシリアさんも、エリンちゃんも、ナイスフォローでした!」
「当たり前のことをしただけですわ!」
「面倒事にならないで良かった」
二人はそう言っていますが、リリスはびっくりするぐらい厄介でした。
一言で言うなら好奇心旺盛。
移動教室ときには魔道具に興味を惹かれたのか、食い入るように魔導器を見ており、私たちが引っ張っていくなんて事がありました。
食堂では匂いに吸い寄せられ、フラフラと調理場に入り込もうとする始末。そのうち、取っておきのデザート屋に連れていくという約束で事なきを得ましたが、
(まったく、リリスったら──)
私たちの苦労を知ってか知らずか、
「はっはっはっ! フィアナ、お主……、クラスで魔王などと呼ばれておるんじゃな!」
「そのことは触れないで下さい! あれは些細なすれ違いがあって、ですね──」
リリスに爆笑され、私はむむむっと唇を尖らせます。
ついでに言えばクラスどころではなく、学園で割と広がりつつある呼び名なのですが(とっても、不本意です!)ちょっとした不幸な事故が原因なのです!
「力と畏怖の象徴──誇らしいことではないか! 胸を張って魔王を名乗るがよい!」
「絶対、嫌です! ……というかリリスは、それでいいんですか?」
魔族にとって、魔王は特別な存在なのでは? と私は、首を傾げます。
「強い者が魔王を名乗る。なにも、おかしなことはないのじゃ」
「おかしな事しかありませんよ……」
大真面目な顔で何を言い出すやら。
心底嫌な顔をする私を見て、リリスは不思議そうな顔をしています。
(魔族の価値観、やっぱり独特ですね)
「リリス、間違っても学園で派手な魔法を使っちゃ駄目ですからね。派手すぎると、ドン引きされちゃいますからね?」
「当たり前なのじゃ。いざ、ここぞ! という時が来るまで、力は隠し通すのじゃ!」
念を押す私の言葉に、リリスはそう気合いを入れて答えるのでした。





