フィアナ、魔王の娘を転入させる
そんなこんなで転入初日。
転入までの数日で、リリスはますますマナの制御に磨きをかけました。
セシリアさんたちもバッチリと太鼓判を押してくれたので、これでリリスが魔王の娘だということは完璧に隠しきれるはずです。
「転入生を紹介します!」
担任のティア先生が、朝のホームルームでそう切り出しました。
ちなみにティア先生も、エレナ学園長から事情を聞きリリスの正体を知っています。
いわく、問題児が一人だろうが二人だろうが変わらない、と諦観まじりにアッサリ受け入れたそうで──もうひとりの問題児って誰でしょうね?
「それではリリスさん、入ってきてください!」
「はい、なのじゃ!」
ティア先生の言葉と同時に、リリスが元気に教室に飛び込んできました。
最初こそ、学園を面倒くさがっていたリリスですが、今ではすっかりノリノリのようです。
(もともと魔界で一人ぼっちで過ごすのが寂しかったはずです)
(なにより、ここは楽しい場所ですからね!)
「あれは……、角?」
「ちっちゃくて可愛い〜!」
「緊張してるのかな?」
クラスメイトの好奇の視線を受けながら、
「わらわは、リリス! 魔王の娘であり……、そこにいるフィアナとは幼なじみじゃ!」
リリスは、そう大声で宣言してくれやがりました!
「え? 魔王の娘?」
「またまたぁ、なら故郷は──」
「わらわの故郷は、お主らが魔界と呼ぶ──」
「ストップ、ストップ、スト~~~~ップ!!!」
大慌てで飛び上がり、リリスの口を塞ぐ私。
私の幼なじみというのは、学園に通うにあたって考えたリリスの偽りの経歴です。
あながち、嘘でもありませんからね!
(ぐぬぬぬ……、迂闊でした)
(そういえば他の部分は、サッパリ打ち合わせませんでしたね……)
私は、内心ではグギギギと歯ぎしりしつつ、
「リリス、あなたは魔界育ちではなく、田舎の小さな街で生まれ育ったただの女の子。い・い・で・す・ね?」
「……? いや、お主も、わらわも、育ちは──」
「い・い・で・す・ね!」
私が釘を刺すと、リリスはコクコクと頷きました。
そうして無事? リリスは自分の席に移動し(ちなみに、私の目の前の席になりました)自己紹介タイムが終わるのでした。
これ以上下手なことを喋る前に口封じ──私と、担任のティア先生の巧みな連携技でした。
「はぁ……。もう、自己紹介だけでドッと疲れました」
「どうしたのじゃ? そんな疲れた顔をして──」
すっかり疲れて机に突っ伏す私を、リリスが不思議そうな顔で見てきました。
「まったく、リリスの常識の無さには困ったものですね」
「お主がそれを言うか!?」
「フィアナさんも大差ありませんでしたわよ」
「うん! むしろフィアナちゃんの方が、目立ってた!」
「そ、そんな馬鹿な!」
大変にショックです!
エリンちゃんたちと、そんなやり取りをしていると、
「リリスちゃん、どこから来たの?」
「魔界出身なんて、おもしろ~い!」
「得意な魔法は?」
ドッとクラスメイトたちが押し寄せてきました。
またたく間に人混みに囲まれるリリスを見て、
(……これはっ! 伝説の転入生への質問攻めイベント!)
(私のときは、発生しなかったのに……)
な、なんて羨ましい!
ちなみに私のときは、それはもう遠巻きにされましたからね。黒歴史です。
私が他人事ながら、ジーンとその光景を眺めていると(リリスの近くの私の席の周りにも、なんと、人だかりができています!)
「のう、フィアナ。鬱陶しいから、焼き払ってもいいか?」
「駄目に決まってます!」
速攻で釘をさす私。
「シュン……」
(いきなり物騒なっ!)
まった、油断も隙もありませんね。
「その角は本物なの?」
「本物じゃ」
「またまた~! あ、触っていい?」
「駄目じゃ! ──あ~っ、これ! ぺたぺたと触るでない!」
「魔王──フィアナとの関係は? 」
「魔王……? そうじゃな、一言で言えば宿敵、じゃな!」
「幼なじみと、なんだか熱い関係性!」
ときどき「えぇ!?」とか「嘘ォ!?」とか、そんなどよめきがあがります。
最初は面倒そうにしていたリリス。しかし、質問が続くにつれヒートアップしていき、やがては満更でもなさそうにペラペラ楽しそうに喋っており、
「あの魔王と戦いを!」
「さすがは自称・魔王の娘ッ!」
「わ、わらわは自称ではなく魔王の娘なのじゃ!」
(すごい。リリス、一瞬でクラスに馴染んでます!)
(というより私の呼び名は、なんで魔王で定着してるんですかね!?)
私の嘆きをよそに、教室にリリスの楽しそうな声が響き渡るのでした。





