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フィアナ、友達の背中を後押しする

「俺、あれが聞きたい! スロベリア演習の伝説!」

「ああ、『このエリアから出なければいい』って、禁止エリアのモンスターを安全エリアから撃ち落としたあれ? どの魔法もすごくてね──」

「あの~、食い意地張ってただけなので忘れていただけると──」


 まるで武勇伝を語るかのようなエリンちゃんですが、内容はどちらかと言えば黒歴史。

 それでもリィちゃんとルルくんからは、キラキラした瞳が向けられました。


(うぅん、いたたまれない!)

(エリンちゃん、いったい何を吹き込んだんですか!)


 そろそろ止めてください……!

 私が、助けを求めてセシリアさんに視線を送ると、


「ワタクシは、やっぱりムカデ事件ですわね! スロベリア演習の日。ムカデのモンスターに襲われたワタクシたちは、まさしく絶体絶命のピンチ──死を覚悟したその刹那。颯爽とフィアナさんが現れて、私を抱きかかえて空を飛んだのですわ!」

「「「おお!」」」

「羨ましい……」

「セシリアさん、もうその辺に──」


 あとエリンちゃん?

 羨ましい、ってなんだ。羨ましいって!?


「ムカデモンスターをワンパンしたフィアナさんは、こう言ったんですわ。派閥には入りませんが、友達にならなりたいって──貸し借りをする関係は望まないって」

「「おぉおお、恰好いい!」」

(ヤメテ~!?)


 背後から刺された気分です。

 気まずさがカンストした私は、


「エリンちゃんは、すごく優しいんですよ。誰よりも努力家で毎日夜遅くまで魔法を練習してますし、私が授業中寝てるといつも優しく起こしてくれます。今回も補講に付き合ってくれて──」


 負けじとエリンちゃんの良さを語ってみます。

 ……途端に、エリンちゃんも恥ずかしそうな顔になりました。


(ふっふっふ、同じ気まずさを味うとよいんです!)


 そんなことをしていると、


「エリン、本当に良い友達ができたのね。王立魔法学園──正直言うと、大丈夫かなってずっと心配だったけど──」

「お母さん?」

「エリン、あなたがそんなに楽しそうな顔で学園のことを話してくれるようになるなんて。本当に良かった──フィアナちゃん、セシリアちゃん。これからもウチの子をよろしくね」

「いえいえいえいえ、こちらこそエリンちゃんがいなかったら即留年ですから。いつも助けられてばかりで──」


 ぺこりと頭を下げあう私と、エリンちゃんのお母さん。

 一方、当の本人は聞こえぬ振りをして黙々とご飯を口に運んでいました。しかし、ふと私の皿に視線を移すと、


「あ、フィアナちゃん! また野菜残してる!」

「あとで、あとで食べようと思ってただけですって!」

「そういって、いつも食べないよね?」


 そっと脇に野菜をよけていたのを、エリンちゃんは目ざとく見つけます。


(むむむむむむ……、え~い、ままよ!)


 目の前には、つやつやと輝く丸っこい野菜。

 前世でいうプチトマトのような形状でしょうか。

 私は、パクリと口に運び、


「あれ、おいしいです!」

「えへへ。これも、うちで採れたんですよ!」


 思わず声をあげる私に、うれしそうに微笑みかるエリンちゃん。

 そんな私たちにとっては、ある種いつものやり取りを見て、


「エリン、本当に良かったわねえ」


 エリンちゃんの母は、暖かな笑みを浮かべてそう呟くのでした。


***


 翌日の朝。


(一晩、お喋りしようとしてたのに、気がついたら朝でした!)

(一生の不覚です!)


 私は、クッションの中で身悶えていました。

 せっかくのお泊り会なのに、まさか真っ先に寝落ちするなんて──どこでも眠れる自分の体が恨めしいです。


(ま、まあ皆さん長旅で疲れてるでしょうし!)

(今日のところは、結果オーライですね!)


 隣ではセシリアさんが、気持ちよさそうに寝息を立てていました。


(あれ、エリンちゃん朝早い……)


 起こさぬよう気を遣い、私はそろりと起き出します。

 そのまま静かに歩き食卓に向かいます。すでにテーブルにはエリンちゃんとそのお母さんがついており、何やら深刻そうな豊穣で話し合っていました。


「お母さん、そういえば例の結界どうなってる?」

「エリンは心配性だねえ。あいも変わらずピカピカ点滅してるよ」

「ピカピカ点滅は、そろそろまずいよ」


(結界?)

「何の話?」


 気になった私が、そう話しかけると、


「あ、ごめんよ。起こしてしまったかい?」

「いえ、ちょっと目が覚めてしまって──」

(あまりにも早く寝落ちしたせいですね!)


 申し訳なさそうな顔になるエリン母をよそに、エリンちゃんは、


「この村って、結界で守られてるんだけど──」

「うん」

「だいぶ前から魔力切れひどいみたいで。最近ではすっかり輝きを失ってて、そろそろ大型のモンスターが出てきたら、結界を食い破られそうで……」

「そんな状態なんですか!?」


 思わず驚きの声をあげる私。

 私たち田舎の住人にとって、結界はライフラインと言っても過言ではありません。基本的に結界により出没するモンスターを大きく減らすことで、村は平穏を保っています。

 もし結界が破られでもしたら、絶えずモンスターが襲ってくることになります。それは、この村のような小さな集落にとって、とてつもない負担になります。


(まあルナミリアの場合、ナリアさんが魔力注ぐの忘れて、ちょくちょくぶち破られてたけど──そのたびに、エルシャお母さんが機嫌悪くなって大変なんだよね)


 翌日、お酒を飲みながら「夜通しモンスターが襲ってきて肌に悪い」なんてぼやいていたエルシャお母さんを思い出し、私は思わず苦笑します。

 ルナミリアでは笑い話でしたが、戦える人が少ない村だと死活問題です。


「大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。エリンったら心配性なんだから」

「もう。お母さんったら、なんでそんなに呑気なの!」


 エリンちゃんの強い口調にも、エリン母はどこかのほほんとした様子でそう言います。


「お母さん、いっそ学園で誰かに依頼してみる?」

「それは無茶な話だよ。教会に依頼しようにも、そんなお金は、この村にはないからねえ」

「むう……。お布施、お布施ってそればっかり──」


 苦虫を噛み潰したような顔でうめき声をあげるエリンちゃん。


(なるほど……)


 だんだんと状況が掴めてきました。

 結界に魔力を注げるのは、限りある一握りの魔法使いだけです。基本的に結界が必要な街は、教会に依頼して結界に魔力を注いでもらうことになるそうです。

 しかし、この村の場合は王都からかけ離れた辺境にある分、どうしても優先順位が低くなりがちで、もう随分と長いこと放ったらかされているそうです。


(う~ん、厄介な問題ですね。結界に魔力を注げる人がいればいいんですが……)

(──いるじゃないですか、適任が!)


 私はポンと手をうち、


「エリンちゃん。魔力を注ぐぐらいなら、やれるんじゃないですか?」

「えぇ!?」


 私の言葉に、エリンちゃんは軽く驚きの悲鳴を上げます。


「いやいやいやいや、無理だよ。結界の修繕は、とびっきりの訓練を積んだ教会から認められた聖女さまにしかできないんだから」

「そうなんですか?」

(おかしいな。ナリアさんによれば、光魔法のマナさえ扱えるなら、結界にマナを注ぐぐらいなら簡単にできると言ってましたが……)


 そういえばナリアさんは、昔は聖女と呼ばれていたそうですね。たしかに難易度の基準にしてはいけないかもしれませんが、


「エリンちゃんは、もっと自信を持つべきです。学園での練習の成果──今こそ見せるまたとないチャンス。やりましょう!」


 それにこれは、学園で学んできた成果を見せるチャンスでもあるはずです。

 それでも故郷の人を安心させるためにも、挑戦するべきだと思います。


「……うん、分かった。フィアナちゃんがそう言うなら!」


 私の言葉に、エリンちゃんは力強くうなずくのでした。

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