フィアナ、友達の実家に遊びに行く
「エリンちゃんの家って、どこらへんにあるんですか?」
がったんごっとんと揺れる馬車に乗りながら、私はエリンちゃんに尋ねます。
「え~っと……、魔界にも近い辺境の地です」
「ふむふむ、それは結構距離がありますね……」
地図を指さしながら答えるエリンちゃん。
このペースだと、数日は移動に費やすことになりそうです。
王都から離れるにつれて道の整備が行き届いていないのか、長旅にはお世辞にも快適とは言えない乗り心地です。
(うう、お尻が痛い……、えいっ!)
ひっそりと魔法を発動する私。
(魔界? っていうのは、ルナミリアのある場所のことですよね。まったく……、いくら田舎だからって、「魔界」とは失礼しちゃいます!)
(そりゃあ、たしかにド田舎なので、ちょっぴりモンスターも多いですが……)
私はそんなことを考えつつも、同じく田舎出身のエリンちゃんに親近感を持ちます。
「この馬車、すごいですわね……」
一方、隣に座っていたセシリアさんが不思議そうに首を傾けました。
「どうしたんですか?」
「だって、これほどの長旅なのに、まったくお尻が痛くありません……。この馬車、本当にすごいですわよ!」
「あ、それはですね。あまりにも揺れがひどいので、魔法で少しだけ車体を浮かせてみたんです。これで長旅もバッチリです!」
そう元気よく答える私に、
「!? ちょっとその魔法、ワタクシにも教えて下さいませんか!?」
「わ、私も……!」
グイグイと勢いよく詰め寄ってくるセシリアさんとエリンちゃん。二人とも馬車移動での揺れには、随分と苦しめられていたようで、
「ええっとですね……。イメージするのは──」
急きょ、馬車の中で魔法の練習会が開かれるなんてトラブルもありつつ──私たちは、無事エリンちゃんの住む村に到着したのでした。
馬車も滅多に通らない人通りの少ない辺境の地。
そんな山沿いの空間に、ひっそりたたずむ小さな集落。昔懐かしい藁ぶき屋根の家が並ぶ、のどかで空気がおいしい村──それがエリンちゃんの故郷への第一印象でした。
(ルナミリアとも空気が近くて、なんとなく落ち着きますね)
悲しいかな。
私が王都になじむには、まだまだ時間がかかるようです。
「ええっと……、何もないところですが──」
エリンちゃんが、申し訳なさそうにそう言いますが、
「大丈夫です。私の故郷よりはるかに栄えてます!」
「空気が美味しくて良い場所だと思いますわ」
「そ、そうかな……?」
私たちの言葉を聞いて、ちょっぴり嬉しそうなエリンちゃん。
「でも空を見上げてモンスターが飛んでないのは、ちょっぴり減点ですね」
「ええ……!?」
空を見上げてそうつぶやく私に、セシリアさんが呆れた目を向けてきます。
ルナミリアでは、ナリアさんの張ったきらきら輝く結界越しに、ときどきワイバーンが飛び去るのが見られましたからね。
呑気な私たちをよそに、エリンちゃんは、どこかそわそわしながら、
「二人とも、こっち!」
そうテンション高く駆け出すのでした。
やがてエリンちゃんが立ち止まったのは、村中央の広場の一角。
風車が傍にある小さな小屋の前に立ち、
「エリンです。今帰りました!」
コンコンと扉をノック。
「あ、お姉が帰ってきた!」
「おかえり、エリン姉──って、わわわ!? お客さんも一緒だ!?」
すぐに勢いよく扉が開かれ、二人の子供が顔を覗かせます。
こちらを見て目を丸くしているワンパクそうな子供たち──さっきの言葉から推測すると、エリンちゃんの弟と妹でしょうか。
よく見れば目元に、薄っすらとエリンちゃんの面影がある気がします。
「お母さん~! エリン姉が帰ってきた!」
「お客さんもいるみたい~!」
「もう。リィもルルも、そんなに大事にしないでいいから!」
どたばた走り去っていく妹弟を見て、ため息をつくエリンちゃん。
「騒がしくてごめんね。滅多にお客さんなんて来ない村だから、二人とも興奮してるみたいで」
「いえ。ワタクシ、とても楽しいご家族だと思いますわ!」
「うん。とても楽しそうです!」
そんなことを話していると、エリンちゃん妹弟──リィちゃんとルルくん──に連れられ、恰幅のよいおばちゃんが現れました。
エリンちゃんのお母さんは、私たちを見て目を丸くしながら、
「あらまあ、エリン。予定より早かったのねえ──そちらが、一緒に来ると言ってた魔法学園のお友だちかい?」
「はい、フィアナです。お邪魔します!」
「セシリアですわ!」
気を取り直して、私たちはぺこりと頭を下げます。
「おやまあ、元気な子たちだね。何もないところだけど、ゆっくりしてお行き」
「はい、ありがとうございます!」
(優しそうで、良い人そうです!)
人懐っこい笑みを浮かべるエリンちゃんのお母さん。見ている人を安心させるような空気をまとっており、酔って指パッチンだけで山を噴火させていたエルシャお母さんにも見習ってほしいぐらいです。
そんなことを話していると、トコトコとリィちゃん──エリンちゃんの妹が私のところに駆け寄ってきて、
「あなたが、噂のフィアナさんなんですね。お噂はかねがね!」
じーっと私の顔を覗き込むように見上げてきました。
その瞳は好奇心に輝いており、
「……噂?」
「はい、手紙で!」
そう嬉しそうに言うリィちゃん。
「握手、握手してください!」
「べ、別に良いですけど……」
勢いに気圧され、そう頷くしかない私です。
リィちゃんは私の手を握り、ブンブンと嬉しそうに両手を上下させていました。まるで憧れの芸能人にあったかのような反応。
その大げさな反応に、薄っすら嫌な予感がした私は、
「えっと、手紙には何が書いて──」
「はい、活躍はかねがね! 手紙、いつもフィアナちゃんの話題でいっぱいで。私だけの勇者さま、とか! 学園では魔王と呼ばれて歩くだけで道ができるとか!」
「ちょっ、エリンちゃん!?」
(活躍っていうよりは黒歴史ッ!)
(家族に何を吹き込んでくれてるの~!?)
「た、たぶんエリンちゃんがなにかを勘違いしてるんだと思う!」
「いえ、れっきとした事実ですわね!」
「セシリアさんまで~!」
私が半泣きになっていると、
「リィばっかりずるいぞ! おいらも握手!」
「私の握手に、なんのご利益もないですからね!?」
そわそわ言い出したのは、ルルくん─エリンちゃんの弟です。
勢いで握手してしまいましたが、内心では誰か有名人と勘違いしているんでしょうか。
(あとエリンちゃんは、どうして羨ましい……、とか呟いてるんですかね!?)
そんなやり取りをニコニコと見ていたエリンちゃんのお母さんは、
「まあまあ、二人ともそれぐらいにしておききなさい。三人とも旅で疲れてるんだから──エリン、二人を部屋に案内してあげなさい」
「は~い!」
エリンちゃんは、ぱたぱたと家の中に入り、
「こっち!」
そう私たちの手を引き、走り出すのでした。





