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魔王城に近い町  作者: やまもと蜜香
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第14話 仲間がいない

 キビットが魔王からの呼び出しを受けたのは翌日のことだった。

 魔王が常に玉座の間に居るわけではないようで、案内されたのは少し広めの普通の部屋だった。部屋には魔王と姫、そして二人の側近が部屋の左右に立っていた。

 キビットに不審な素振りが見えたならすぐに斬り掛かる、左右の魔人からは、そんな無言の威圧がピリピリと伝わってきた。

 キビットは右手に控える魔人をちらりと見た。黒い革製の袖なし服から、筋肉隆々の褐色の腕が伸びている。このような平時であれば甲冑の類こそ纏ってはいないが、鉄の槍を床に突き立てるように握って立っている。

 ピリついた部下の気配を察した魔王が先に口を開く。


「儂と姫だけでハイブリッドであるお主と会うことに、まだ警戒する者もおってな。気を悪くせんでくれ」


「当然のことだと思います」


 そう言ってキビットは魔人に会釈した。

 そして、魔王に近づき過ぎぬよう、数歩手前で足を止めた。


「城には少しは慣れたかの?」


 魔王は、そんな雑談から話を始めた。魔王という名からは、もっと高圧的で余計な言葉を挟まない気難しい存在をイメージしていたが、先日から実際の魔王と話してみると、それが先入観からくる思い違いであることが分かった。むしろ、人を上手く使おうと、考えを巡らせているのを感じる。


「はい、丁寧に扱っていただきまして、おかげで身体の調子も戻りました」


 キビットの返事に魔王は「そうか」と優しく頷くと少し間をおき、単刀直入にキビットへと問うた。


「お主は儂に、ハイブリッドの進攻は再びあると言った。我々はそれを防げると思うか?」


「一度や二度の進攻であれば、守りきれるかも知れません。ただし、相手がどのような戦略を立ててくるかが分からないので、断言はできませんが……」


 たしかに高い城壁と深い堀を備えるこの魔王城に籠城すれば、ハイブリッドの進攻に堪えきれるかも知れない。ただ、敵がただ回数だけを重ねるような無駄な進攻を繰り返すわけがなく、毎回新たな戦略を携えて進攻してくるはずである。それを永遠に防ぎ続けることができると考えるほど、キビットは能天気ではない。


「では、質問の仕方を変えよう。お主がハイブリッドの参謀であれば、どのように動く?」


「そうですね、僕ならこの城を素通りして、さらに先に在る魔人の町や村を襲いますね。そうすれば、魔王城の価値を無効化できる」


「むぅ……やはりそう来るか…… 」


「次回の侵攻で、敵がそのように動いてくるかは分かりません。しかし、ハイブリッドの進攻に対して毎回この城で守って撃退するだけでは、遅かれ早かれこの策に気付かれて実行されるでしょう」


 戦わずして無力化するとはどういう事なのか。姫だけが二人の話しについてゆけず、思わず聞いてしまう。


「どういうこと?」


 そんな姫に微笑みながら、キビットがヒントを与える。


「前線の城が自分たちの身を守るために閉じ籠もって敵と戦わず、後方で暮らす魔人たちがそんな敵の襲撃を受けて命を奪われたなら、魔人領の人々は魔王城のことをどう思う?」


「えっ?」


 突然の問いかけに姫は言葉を詰まらせた。そんな姫の代わりに魔王が言葉をつなぐ。


「いざとなっても誰も守れない城など無用の長物。この城やここに居る人々は、仲間であるはずの魔人たちからの支持を失うだろう。そして、いざ我々が攻勢に出てハイブリッドと戦うとなっても、もはや誰も手助けなんぞしてくれなくなるな。悪くすれば、魔王の存在を民たちに否定されるであろう」


「そんな……」


 姫の理解が追いついたところで、魔王はキビットに話を切り出す。


「そこでじゃ、お主にやってもらいたい事がある」


「戦力集めですか?」


「ふん、分かっておるなら話は早い」


 現状の魔王城の戦力では、城を利用して戦い、そして敵を撃退する程度の防衛力しか保持していない。だが、ハイブリッドが攻めてくる度に防衛することを繰り返しても、やがて疲弊してゆき、いつかは滅ぼされるだろう。ならばこそ、守るだけではなく、逆激して敵を倒さねばならない。そのための攻める兵力が必要なのだ。

 とはいえ、現状の防衛力である魔王やその配下の者たちが長期間にわたって城を留守にし、各地を巡って人集めをするわけにはいかない。そこでキビットに白羽の矢が立てられたのである。


 こういう話が出てくることは、キビットの想像の中にも含まれていた。そこで、その場合にと想定していた話しで返す。


「お父さん、そのお願いを受けるにあたっては、僕の方からもお願いがあります。


「ん? 何かな」


「その旅には、姫を同行させてください」


 これには魔王よりも姫の方が驚いた。


「ちょっ!? あんた、何を勝手に言ってんのよ」


 姫が思わず抵抗したが、キビットは続けた。


「この任務は僕だけで動いても成功はしません。どこを訪ねても、胡散臭い奴が来たと門前払いされるだけでしょう。しかし、魔王の名代として姫がいれば、説得力が違います。この旅に魔王の威光は不可欠ですから」


「誰かを付けねばなるまいと思うてはいたが、そうか……姫か……。我々は先の戦いで多くの者を失った。いつ再び迫り来るやもしれぬ敵への備えとしては、できるだけ側近連中を割きたくはない。非戦闘員として扱っている姫の同行で何とかなるというのなら、こちらとしても都合は良いが……」


 キビットの言うことに理解は示すも決心が付かないのか、魔王が言葉を濁す。キビットは諦めない。


「じゃあこの際なので正直に言いますが、僕にはこれまで仲間などというものは誰一人いませんでした、ましてや僕を助けようとする者など何処にもいませんでした」


「お……おう、そうか……それは気の毒であったな……」


 いきなりキビットの残念な過去を聞かされ、魔王が引く。


「いえ、同情には及びません。僕が言いたいのは、そんな僕が見知らぬ土地へ赴いて仲間を探すなんて、無茶が過ぎると思いませんか?

 だからこそ姫なのです。魔王の親族が仲間を求めれば、少なくとも相手は損得を含めて、仲間になるかの考慮はするでしょう」


「……分かった。この役目は我らにとっても重要なものであるからの。姫の同行を許可しよう」


 魔王の内心では、キビット一人には任せず複数の人を派遣して、各地から兵を集めるつもりであった。場合によっては姫もその一人にと考えていたが、キビットと組ませた方が案外結果を出すかもしれないと感じた。こうして、姫の同行が決定した。

 しかし、魔王の話はここで終わらなかった。


「ときにキビットよ、お主は姫を妻にしたいと言うておったな」


 キビットが有耶無耶にされたと思っていた姫とのお付き合いの話を魔王の方から話し始めたのだ。


「お主がこの依頼を成功させ、見事ハイブリッドを滅ぼした暁には、儂としては姫との仲を認めようではないか」


 魔王のこの言葉は、キビットのモチベーションを上げるのに充分な効果があった。キビットの目的も一本化され、とにかくこの任務を全うすることに集中できる。


「ただし! それまでは絶対に姫に手を出すなよ。破れば魔王城全体を敵に回すと思え」


「は……はは……肝に銘じておきますよ……」


 そんな男二人のやりとりを、ムスッとした姫が見ていた。


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