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ついにこの時がやってきた。
「閉店までにはまだ少し時間があるザマス」
「もう来ないも同然だろう」
「わからないザマスよ」
「なんだよ、お前まで奴らの肩を持つのか?」
「違うザマス、ただ約束の時間は守るザマス。それまで待つザマス」
店主とメイド長のやり取り。
そう、私の処遇を巡ってのやり取りだ。
「レモン早く来て」
今日の仕事を終えると店主に呼び出された。
あのヒラヒラの服を着ろ、と。そしてこんばんは予行演習があるからと。
その顔がいやらしいのなんの。
筆舌に尽くしがたいとはこういうことを言うんだね。
たまたまメイド長が通りかかって私をかばってくれている。
メイド長いい人だったんだ。
「そこまで言うなら待ってやるさ、あと一時間もないんだからな」
すでに外は真っ暗。かがり火が入口に焚いてある。
あの炎が消えれば私はヒラヒラの服を着ることになる。
いやだヤダヤダ……あんなの着たくない。
レモン早く来てよ。
心の中で強く願った。入口でうろうろする私。
それを見つめるメイド長に店主。
逃げ出さないようにって首輪されて繋がれている私。
犬じゃないよ。
「後三0分だな。覚悟はいいか?」
「覚悟なんて……レモンは必ず来るもん」
フンと頬を膨らませてそっぽを向く。
「来るわけない。あの額だ。逃げ出すに決まっているだろう」
「そんなことわかんないわよ。レモンならきっと何とかしてくれるんだから」
お願い早く来て。かがり火の炎がだんだん弱くなってくる。
ああ、消えないでお願い。なんだか私の運命の炎みたい。
「さ、そろそろ店じまいとするか。野郎ども片付けだ」
「そ、そんな。まだちょっと時間あるでしょ」
「わかってないな、俺が店じまいと言ったら店じまいなんだ」
「そ、そんな……」
身勝手すぎる。
「来たザマス」
「え? 本当?」
レモン、やっぱり来てくれたんだよね。
よく見ると夜の闇の中を走ってくる、一人の青年の姿が見える。
お願い、レモンであって。
手を握り締め、思わず祈る。
その姿はだんだんとはっきりしてきた。
見覚えのある黒くぼさぼさの髪をなびかせて、私の大好きな瞳を輝かせながらレモンはやってきた。
「レモン!」
よかった間に合った。
私は思わずレモンに抱き着いた。
「待たせたなミカン」
息を切らせながらレモンは私をやさしく抱いてくれた。
「まだ喜ぶのは早いぜ。銀貨二0万枚持ってきたんだろうな?」
店主が私の首につながる綱を引っ張った。痛いって。
「もちろんだ」
レモンが言い放つ。
「なら見せてもらおうか?」
「ああ、これだ」
ゴトゴトゴトっと、銀の塊を取り出した。
「時価で銀貨二0万枚以上の銀塊だ」
「どれどれ」
店主は手に取ってマジマジと眺め始めた。
……思わず息をのむ。偽物ってことはないと思うけど。
「確かに、間違いないな。ち、残念だぜ」
「やった~! レモンありがとう」
思わずレモンに飛びつこうとして、首を絞められた。
「どうだい? この銀塊とこの娘を交換するってのは?」
なによ、どういうことよ?
「断る、オレはミカンをとる。とっとと渡してもらおうか」
「あと一0万枚出す。それならどうだ?」
「いくら金を積まれても、お断りだ。オレはミカンをとる」
「そうかい、わかったよ。ほら」
そう言うと店主は手に持っていた縄をレモンに渡した。
「レモン、レモン、レモン……」
今までのさみしさや悲しさが一気に堰を切ったように涙があふれ出した。




