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その日はリカーとろくに話もできなかった。
リカーいったいどうしちゃったんだろう?
何があったのか想像もできない。
何か変な薬でも飲まされたのかな?
うん、きっとそうだ。
無理やり自分を納得させて私は眠りについた。
ついに運命の五日目の朝が来た。
今日レモンたちが現れなければ私はリカーと同じ道をたどる。
すでに日課になった井戸に向かうと、うつろな目をしたリカーがいた。
なんだか気まずくてついつい避けてしまう。
「ごきげんよう~」
リカーはすれ違うみんなにそんなことを言いながらルンルン気分で接客部屋に入っていく。
やっぱりリカーの変わり様は尋常じゃない。
でも聞き出す勇気もない。
所詮ちっぽけな正義感でしかなかったのだろうか?
自問自答しながら厨房に向かった。
厨房にはすでにウィスキーがいた。
「ねぇ、ウィスキー。リカーのことなんだけど……」
ウィスキーなら何か知ってるかもしれない。
そう思うと聞かずにはいられなかった。
「ああ、あの子ね。調教されたんだろ可哀想に」
「調教? 何するの? ウィスキー」
「ん? そうか、ミカンは知らなくて当たり前だね。簡単に言えば一日中ヤリまくるのさ」
「ヤリまくる?」
何を?
「本当何にも知らないんだねあんた。ヤリまくるっていえば男と寝るってことじゃないか」
「男の人と寝る……」
私の頭は固いもので殴打されたように衝撃を受けた。
男の人と寝るってことはつまり……客とりと同じってことだよね。
「相手はあのハガネだろ。あんな奴にヤラれりゃおかしくもなるさね」
可哀想にと、じゃがいもの皮むきを始めるウィスキー。
「そんな……リカー……」
無表情にじゃがいもの皮むきを始めるウィスキーをぼうっと眺めていた。
彼女も同じ目にあったのだろうか?
いや、私はどうなるのだろうか?
当たり前のように宿に泊まって、楽しんでいた村長さんやホイヤーさんたち。
彼らはこの現状を知っていたのだろうか?
そもそもこんなことが許されていいのだろうか?
ああ、考えれば考えるほど不条理に思えてくる。
「ミカン、お前今こんなことがあっていいかって思っていただろう?」
不意にウィスキーが私の思考を中断させる。
私は驚きながらもコクリと首を縦に振る。
「別にさ、あたいたちは好き好んでこの世界に足を踏み入れたわけじゃない。ただそれぞれの事情があってここにいる」
私もそうだよ。支払いのかたにここでこうしている。
「どんな事情にせよ、あたいらは自分の仕事に誇りを持っているんだ。だってそうだろ? 現実を変えることはできないんだから」
ウィスキーは何が言いたいんだろう?
「もしこの宿がなくなったらあたいたちは働く場所がなくなる。おまんまが食べれなくなっちまうんだ」
「あ……でもほかの仕事もあるよ。きっとその方がいいんじゃない?」
「優しいなあんたは。あたいはここでしか働いたことがない。客とりしか知らないんだ。きっとここがなくなれば別の宿で客とりをしてるだろう」
「ウィスキー……」
「あんたみたいにもともとほかの仕事していたわけじゃない。外の世界も知らない。ここで働くあたいらにはやっぱりここが必要なんだよ」
ウィスキーは次々とじゃがいもの皮をむいていく。
「そりゃ、辛いこともあるさ。でも、やっぱりここからは出られないのさ」
ウィスキーの表情は悲しく見えた。
「なぁミカン、冒険の話を聞かせてくれよ。あたいにはとてもできることじゃない。聞きたいんだ外の世界のことを」
「ウィスキー……うん、わかった」
こうしてジャガイモの皮むきをしながら私は今までの冒険譚を語り始めたのだ。
ここも必要な宿。
ウィスキーの言葉が胸に刺さる。
悪いこと、いやなこともあるけれど必要と言われれば必要なのかも知れない。




