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「はぁ~、今日もくたびれた」

 仕事が終わって部屋に戻ると先に戻ってきていた先輩かたがたが寝る準備をしていた。


「あ、お風呂行こ」

 何だかその景色を見たくない気持ちに駆られて、お風呂場に向かった。

 もちろんお風呂場にも先客はいるわけで、一〇人くらいがひしめき合っていた。


「大分目立ってきたね」

「どうしようまたアレやらされる」

 脱衣場で服を脱いでいるとそんな声が聞こえてきた。

 振り返るとぽっこりおなかが膨れている人が嘆いている。


 さっさと服を脱いでその人の所に行くと「わぁ、赤ちゃんですか? ちょっと触ってもいいですか?」といって手を当てる。


「あんた見ない顔だね。新入りかい?」

「はい、ミカンです。あ、動いた」

 微かにだけど確かに膨らんだおなかの中で動いた気がした。


「やめとくれよ。縁起でもない」

 え? いまなんて……?


「この分だと明日辺りにはアレだわ」

「アレって何?」

 気になったので聞いてみた。

 あ、また動いた。


「新入りは未だ知らないか。無理矢理降ろすんだよ。無理な姿勢とかアソコに棒つっこんだりしてね」

 さも当たり前のように言い放つ彼女の言葉に違和感を覚える。


「うそ、だって動いてるんだよ。生きているんだよ」

「だから何さ。子供なんてできなきゃよかったのさ。アレのつらさを知らないからそんなこと言えるんだよ」

 なんだか彼女が遠くに思える。


 現実身がない話のように……。


「そんな、それでいいの?」


「良いも悪いもないさ。あたしたちは客取りだ。

 客が取れなきゃおまんま食えないのさ。

 覚えとくんだね」

「そんな……」

 私の生まれた村では子供が出来たら村ぐるみでお祝いする。

 歳が近ければ兄弟のように育てられる。

 なのにここでは邪魔者扱い?


 そんなのってないよ。


 せっかくできた子供なのに……。


「何でなの?」

「なんだよ新入り。これがわたしたちの現実だよ。覚えときな」

 彼女は面倒くさそうにその場を離れていった。


 これが現実?


 サウナの効果でいつの間にか全身汗でベタベタになっていた。


「お、ミカンじゃん。おまえも風呂か」

 半ば放心状態で振り返る。


 そこにはリカーの姿があった。


「何だよ。しけた顔して」

 バシャっと持っていた桶の水をかけてきた。


「冷たい」

 サウナで温まった体に井戸の水は冷たすぎた。


「水も滴るいい女ってな。未だ昼間のこと気にしてるのか?」

 リカーは明るく話しかけてくる。

 彼女は知っているのだろうか?


 さっきのアレのことを。


「リカー、あの……」

「ストップ。その話はもう終わったんだ。蒸し返すなよ。昼にも言ったけどミカンは自分のことだけ考えていればいい。それがここで生き残る術さ」

 リカーの人差し指が私の唇に押し当てられた。


「それもう一杯」

「冷たいリカー、お返しよ」

 半ば水の掛け合いになって騒いでいた。


 リカーは強いな。



 翌朝、なかなか寝付けなかった私は眠い目をこすりながら冷たい水を求めて、井戸へと向かった。


 すると先客がいた。


 ヒラヒラの服を着て顔を洗っている一人の女性。


 彼女も……。


 昨日のお風呂場でのことを思い出す。


「お、ミカンじゃん」

 ぼんやりその女性を眺めていると、彼女は振り返り笑顔を向けてきた。


「リカー」

「ヘヘヘ、どうだ、似合うか?」

 はにかむような笑顔でスカート(とも呼べないくらいの短さだけど)の先を摘んでお辞儀をする。


「キレイ……」

 冗談抜きにそう思えた。

 キラキラ光る前髪の滴。


 ピンクの薄い布が朝日を浴びて体のラインを際だたせていた。


「ありがとう、ミカン。先に行くな」

 そう言うとリカーは屋敷に向かってあるいていった。


 しばらく見とれていたけど遠くでメイド長の声が聞こえて我に返る。


「急がなくっちゃ」

 冷たい水で顔を洗った。

 眠気をとると屋敷の方に向かって駆けだした。


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