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料理をする私はジャガイモの皮むきにもなれている。
ナイフを操って次々に皮をむいていくんだけど、隣のリカーは私よりも早い。
なんて言うか目にもとまらぬ早さってヤツ?
対抗して私も向くけどかなわない。
「ねえ、リカー。リカーはここでどれくらい働いてるの?」
もちろん期間のこと。
こんなに早く皮むきが出来るんだもん。
結構ながい間働いてるんだよねきっと。
「五日よ」
素っ気ない答えが返ってくる。
もちろん手は止めていない。
「五日? うそ」
たった五日でそんなに早くジャガイモの皮むきが出来るなんて。
「あんたは?」
またまた素っ気ない質問が。
「ふ、2日」
手を休めることなく会話をする私とリカー。
たった数日差なのにもうあんなにジャガイモの皮をむき終わっている。
リカーはジャガイモマスターだ。
「2日か、いいな」
ジャガイモマスターリカーが手を休めて遠くを見る。
よし今のうちに少しでも追いつくぞ。
必死でジャガイモの皮を剥く。
「あたいは明日からホール勤務だよ」
ホール勤務?
「ホール勤務って?」
何だろ?
「何だい知らないのかい?」
「うん」
一瞬リカーの顔が悲しく見えた。
「あんたも買われたんだろ?」
買われた?
「いや違うよ。支払いの持ち合わせがなかったからそれを取りに行ってる間の人質? かな?」
「おめでたいね。あんた。よっぽど裕福なんだね」
「まさか~。依頼の途中で立ち寄っただけだよ。ホイヤーさんは必要経費って言ってたよ」
そんなにお金持ってないって。
「依頼?」
「冒険者なんだ。この村の村長さんに届け物」
今日辺りには支払いできる手はずだもん。
「あの頑固オヤジにか?」
「頑固オヤジ?」
「イヤなんでもない」
「イヤイヤすご~く気になるんだけど」
レモンたち交渉に手間取ったりしないよね。
「女好きでどケチで頑固モノってだけだ。ここの宿も村長の趣味でたてられたって話さ」
え? 村長さんの趣味?
一体どんな趣味なのよ。
「そう言えばリカー、さっきホールがどうのって言ってたけど……」
ホールって何?
「あのヒラヒラ女をやるんだよ。ここの宿は五日間下働き、その後ホールで客取りなんだ」
つまり接客。
あの服で……。
「はい、あ~ん。美味しい?」
「でへでへ美味しい」
「いや~」
「どうしたのよ?」
目の前には心配そうな顔をしたリカーがいた。
は、いけない妄想をしちゃった。
「大丈夫、リカー。それよりもリカーは明日からヒラヒラ着るの?」
リカーはスタイルいいから似合うと思う……ていっても嬉しくないか。
「仕方ないさ。あたいは買われてきたんだからね。もう普通の生活には戻れないさ」
どこか遠くを見るように目を細めるリカー。
気のせいかその表情は寂しそうだ。
当たり前か、好きでもない人に甘えたり触られたり……。
考えただけでもぞっとするもん。
「リカーはそれでいいの?」
「仕方ないだろ。買われたんだから」
リカーはナイフをぐさりとジャガイモに突き立てた。
そうだよね。いい訳ないよね。
リカーはその怒りをジャガイモの皮むきに向けるかのように作業を始めた。
そうだよね。好き好んでこんなところで働く人なんていないよね。
私だけ逃れてもいいのかな?
目の前のジャガイモから厨房に目を向けると、みんな忙しそうに動いていた。
料理を運ぶフリフリの服。
オーダーを伝えるヒラヒラ女。
シェフは父の敵と言わんばかりにフライパンを振り回す。
出入り口からはひっきりなしにフリフリ女とヒラヒラ女が入れ替わり立ち替わり出入りしている。
その光景がひどくくたびれたように感じるのは私だけ?
今日くらいにはレモンが迎えに来てくれる私と、この先いつまで続くかわからないリカーのような女の子たち。
「いいのかな?」
私だけここから居なくなることに少し罪悪感を覚える。
いっそリカーも……。
「ちょっと、いつまで感傷に浸っているのさ。ジャガイモの皮むきまだまだたくさんあるんだから手を動かしな」
リカーの言葉で我に返る。
「ごめ……」
「情けなんかいらないさ。あんたは自分のことだけ考えな。あんたには帰る場所があるんだろ?」
リカーはニコッと笑ってみせる。
「う、うん」
まるでリカーに心の中を覗かれた気がした。




