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「お~い、そろそろ行くぞ」
「うんわかったレモン、今いく」
振り返るとマイヤーが拳くらいの黒い艶のある虫をつついていた。
「姉ちゃん、これは何だ?」
アイヤーは本能的に私の背中に隠れている。
私もそれを見たとたん「きゃ~」と悲鳴を上げてしまった。
そうソレは悲鳴を上げた私をあざ笑うかのように、羽を広げ向かってくる。
あのテカり具合、間違いなく全国の女性の敵のアイツだ。
ただ叫ぶだけで私は石像のように固まってしまった。
ヤツが来る。まるでスローモーションのように近づいてくるのがわかる。
私は視線をはずせずに悲鳴を上げるだけ。
アイツは口角をあげてニヤリと笑ったように見える。
黒い死神のあだ名をもつヤツはまっすぐ私の顔に向かって……「い~や~!」
ペキャ
私の眼前で鋼の鈍い光が黒い死神をまっぷたつにした。
「何だよ、たかがゴキブリくらいでうろたえるなよ」
ようやく金縛りが解けた私は、アイヤーと抱き合ってヘナヘナと座り込んでしまった。
「だってだってアイツは黒い死神だにゃ。世界中の女性の仇敵だにゃ。あ、レモンちゃんと剣洗ってにゃ」
「はいはい。行くぞ」
レモンは背中を向けて手をヒラヒラさせる。
「ま、待ってよレモン」
「今度は何だ? また黒い死神でも出たか?」
皮肉っぽく笑うレモン。
なんか悔しい。けどソレどころじゃない。
「こ、腰が抜けたにゃ……」
あまりの恐怖に腰が抜けて立ち上がれない。
「しょうがないな」
ヒョイと私をお姫様抱っこするレモン。
急に近くなるレモンの顔に胸がドキドキうるさいくらい高鳴った。
レモンに聞こえる~。
恥ずかしさのあまりレモンの顔を見れない。
「どうした、オレの顔に何かついてるか?」
レモンが甘くささやく。
「そんな……じゃないにゃ」
胸のドキドキが止まらない。自分でも顔から火が出そうなのがわかる。
「なら、こっちを向いてくれよ」
レモンの言葉は魔法の言葉。
コクンとうなずいて上目遣いでそっとレモンの顔を見る。
「で~ん!」
目の前のレモンの顔の前に黒い死神の顔が現れる。
「きゃ~きゃ~きゃ~」
思い切りレモンを突き飛ばす。
地面に打ち付けられてもそんなの気にしていられない。
這いずりながら後ずさる。
「ア~ハハハハ、姉ちゃんおもしれ~」
マイヤーだ。黒い死神の怖さを知らないマイヤーはアイツを素手で掴んで私の鼻先に突きつけたのだ。
「マイヤー!」
「ア~ハハハハ」
笑い転げるマイヤーに禁忌の幻術魔法をかける。
「うぎゃ~」
マイヤーの全身に黒い死神が這い上がる禁忌の幻術魔法。
「ゴメンナサ~イ、助けて~!」
流石のマイヤーも音を上げた。
これで黒い死神の怖さを思い知ったでしょう!
「おいミカン、ちょっとやり過ぎじゃないか?」
「だってレモン……」
ちょっと大人げなかったかな?
渋々魔法を解いた。
「うわ~気持ち悪~」
ドボンと池の中に飛び込むマイヤー。
これで懲りてくれたでしょ。
これも教育よ教育。うん、教育なんだから。
と、自分を納得させる。




