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ぼくのだいすきな・・・ 後編


暗がりの中、のそりと腕を動かし涙をぬぐった。

夕日の中で書いた日記は、暗くてすでに読めなく。

ランプの明かりを灯してみようにも、やり方が解らなかった。

それもまあ、仕方ない。だって、アレイドはまだ5才だ。


自身が勇者だとさえ知らない────ただ、母親恋しいだけの子供なのだから。



「まま……」



そのアレイドが小さく呟いた。

夜にひとりぽっちなのは初めての経験。

寂しくて寂しくて……ママ、早く帰って来てと、ママお手製の網戸の掛かった窓、その向こう側をじっと見続ける。

少しでも目を離せば、なんだか、その隙にままが帰ってきて、そのまま、また何処かへ行ってしまうんじゃないか? そんな不安に駆られるからだ。


生まれて初めて経験するこの感覚。

胸が苦しくて仕方なかった。泣き叫んで助けを乞いたかった。

でも、助けを求める相手こそが、ママだった。

だって、アレイドの世界は小さくて、神さまなんて存在知らないし。

絶対の庇護者であるママこそが全ての世界。


でも、ママはいない。


アレイドは泣いた。

いっぱいいっぱい、泣いた。

もう、どれだけ泣いたか分からない。

なのに涙があふれて止まらなかった。


すん、と鼻をすすり、もう一度乱暴に腕で涙をぬぐった。



「ママが居ない時は、けして家から出たらダメよ。特に夕暮れ以降は絶対だからね」



厳しくそう躾けられていたアレイドだけど、体育座りに曲げていた足をグンと伸ばして立ち上がる。

もう我慢出来ない。ママを捜しに行くんだ! と、勢い外に飛び出した。


常夏の港街エフェス。

夕暮れがすぎ、夜の帳が落ち始め、人通りが消え失せるこの時間。

海風に湿った風が冷たくヒンヤリする。

いつもは昼の熱からの解放で、とても心地好い風だった。

なのに今日はその湿った風が、なんだかとても気持ちが悪い。

見慣れた筈の街並みも闇の中に没し、まるで知らない風景だ。

ただママがいないだけなのに、ここまで感じるモノが違うのか。


アレイドは、恐怖にヒュウヒュウ短く速く息を呑む。

足が自然と一歩、後ろに下がった。

怖気ついた。と理解するには幼すぎた。

ただ、そんな自分が情けなくアレイドは思った。


それでも────



(ままを捜しに行くんだっ!)



自覚は無く。またその力も未だ無い。

それでもやはり幼いなりに勇者なのだろう。

キッと街の闇を睨みつけ、怖気ついた足に拳を叩き込む。

ズンと太ももに響く鈍い痛みが、萎えた心に勇気の火を灯した。


もう大丈夫だ。


子供に似合わない深い笑みを浮かべるアレイド。

自然と湧き上がる力を拳に移し、グンと前に突き出した。


子供らしい決意の仕草で拳を突き出した先。

瞬きよりも僅かな刹那、パッと光が弾けて消えた。


光は一瞬。

しかし、日が落ち、暗闇が支配し始めた港町。

だからこそ、瞬きだというのに光は驚くほどの存在感。


闇の中の光だからだろうか? いいや、違う。

魔王の魔素に毒され始めたこの世界を救う、希望の力だからだ。


アレイドは、その光がなんなのかは知らなかった。

だけれども、その光こそが、不安に負けそうになる自分の背中を押してくれる頼もしい相棒なんだと本能が理解する。




────などということは一切ない。




「み゛っ!?」



思わず漏れ出た微かな悲鳴。

なけなしの勇気を振り絞った瞬間の出来事だ。

出足を挫かれたが如く、通常状態よりも大きくへこんだ。


突如光った自分の拳の先っちょが、なんだかとっても不気味ナイズ。

小さく灯った勇気の火なんざ、あっさり消火。

バッキバキに心が折れた。


しかも、どこからともなく、



ズリ ズリ ズリ ズリリ……



地を引き摺る何かの音まで聞こえてくるではないか。

しかも音の先は闇の向こう。

不気味な暗闇も相まって、ミモザねーちゃんから聞いた魔王の使者を思い出した。


生きとし生けるモノ全ての天敵、魔王。


この世界において魔王と言えば、リィアの前世な世界のナマハゲだ。

……いいや、んなもんよりも、もっと現実的に恐ろしい脅威である。


アレイドは恐怖に身体が硬直した。


怖い物見たさなのか?

音が聞こえてくる方から離せない。


暗がりの向こうから、更なる闇が見える。

その闇は、ままの頭一つ分大きな何かで、それが、ズリ、ズリと地面を引き摺って近づいてきた。



「……ぁっち、ぃけっ」



震え、掠れる涙声で、あっちいけ。

涙声でもそう言い切ったアレイドの勇気は流石の一言。

しかし、それが限界でもあった。



ズリ、ズリ、ズリ……



少しづつ、少しづつ。

違う。明らかに、速度が上がってた。


(ぼくを食べようと思ってるんだっ!?)


折れた心のアレイドは、いやいやと首を振る。

握ったままの拳の中が汗できもい。


もう嫌だ。そう思った瞬間、自分と頭二つ分くらい上の闇の主と目があった。

生ある者の目ではない。この世から逸脱したナニかだ。


これはミモザねーちゃんが話してくれた魔王の使者なんかじゃないと感じた。

もっと怖い。ずっと怖い。ままのお話に出てくるお化けか妖怪だ!


だとしたらダメだ。ぼくじゃ勝てっこない。

もちろんミモザねーちゃんなんかお呼びじゃない。

物語の勇者なんか話にもならない。


……自分こそが勇者のくせに、なんて言い草だ!?

もしも全てを見通せる者がいたら、こう思うに違いないことをサラリとアレイド。

だけども、アレイドにも言い分はある。


だって、お化けや妖怪に勝てるのは勇者じゃない。



「ま……ま゛ぁま゛ぁあああああああああっ!!」



幼き子供の母を呼ぶ悲痛な叫びが、けたたましく響く。

ぐわんぐわん、人通りが消えた街を通り抜け、夜の港町にエコーが掛かって反響しまくった。

ズリズリ地面を引き摺ってた何かは、それを聞いてピタリと足を止めた。



「アレイド?」



途端、恐怖に震えていたのが嘘みたい。

硬直していた身体から、くたっと力が抜け落ち、ぺたりと地面に尻もちをついた。


でも、アレイドにはママがどこにいるのか分からなかった。

ただ声の聞こえたのが、お化けと一緒だ。



(ママがお化けに食べられる!)



怖気づいた心が嘘のように、アレイドは勢いよく立ちあがる。

今の自分が出来る、精一杯のこと。それは……



「ままーっ! お化け―っ!!」



ママ、逃げて! と、くらい、くらい、夜の港街。

まるで闇を晴らすかのように響き渡るのでした。































「いづっ!?」



全身を貫く、あまりの痛みに意識が覚醒した。

息苦しさに身をよじれば、顔に土。

どうやら地面に突っ伏していたようですね。



(どうしてこんなことに……?)



苦痛に喘ぎながら記憶を辿れば、なんてことはない。

猪型の魔物から逃げる途中、つまづいて、すっ転んで、踏んづけられただけである。

痛みを感じているのだから、何とか生き延びはしたみたい。

と、私は唾を吐き出したい衝動に応えるため、背中の痛みに耐えながら、何とか顔を上げた。

過ぎ去った恐怖のせいか、震えが止まらない手を地面につけ、腕立て伏せの要領で上体を起こす。

啓く視界に周囲の状況を確認するよりも速く、衝動のまま顔を横に向けて、ぺっと唾を吐きだした。

血と土が入り混じった唾液が沫ぶくになって地面に落ちた。



「らめら、口の中がじゃりじゃりしゅる」



うがいしたい。

でも、当然だけれど水筒なんて持ってない。

口を濯ぎたければ川でも捜すしかないこの状況。

川の位置は(たぶん)解るけど、痛みで身体がビリビリして動けなかった。

何か最近忘れてたけど、これでも私は転生者(TS)です。

普通、転生者と言えば、冒険者になったり勇者になったり、果ては魔王や復讐者とまあ、戦闘方面で活躍しまくりのアバターだったはず。

なのに私ときたら……と思ったけれど。

よくよく考えてみたら、シングルマザーで子育てやってるとか、冒険者等の殺戮上等な荒廃した人生おくるよりずっと立派だと思うの。えへん。



……恐怖で怖気そうになるのを、おどけて何とか平静を保ちながら、横に向いた顔を、下を向いたまま殊更ゆっくり前に戻す。


胸が悪くなるのを感じる。

不快で、とても生臭い。

そしてどことなくする鉄の錆びたような臭い。


これは、そう、『血』の香り。


転んだ時に出来たのだろう、膝をすりむいた痛み。

魔物に踏んづけられたズキズキする背中の痛み。


吐き気がする血の臭いを発しているのは、果たしてどっちだろう?


森の奥での出血は致命的だ。

血の臭いを感じ取った獣が来たらと思うと、身体の震えが止まらなかった。

それに、例えそうでなくても。

この世界は、あの遠い記憶の彼方の理想郷『日本』ではない。

日本の医療保険制度は偉大です。

怪我をして病院に行っても、僅かな金銭を払うだけで治療してもらえるのだから。


でも此処は違う。

この世界は違う。


医療レベルが違う。

概念の法則が違う。

魔法なんて胡散臭い物が幅を利かせ。

いざ頼れば莫大な金銭を要求される。


まあ、技術に対しての報酬です。

真っ当と言えば真っ当なんですけれど……

だからと言って、子供を産んだばかりの夫どころか親兄弟さえもいない11才の少女から大金せしめるのはどうかと思うの。

おかげで予定よりも苦しい生活を送っている今日この頃。教会なんて嫌いです。


だからこそ、マズイ。

怪我をしても、うちにはもう治療費を払えるだけのお金がないのだ。

致命的ですね。ほんと。



ヒクリと盛大に頬を引き攣らせ、私は必死に平静を保ちながら血の匂いの原因を探った。


……膝ではないと思う。

多少痛むが、転んだ程度の痛みしか感じないからだ。

これで麻痺した感じがするならば、ひょっとして……ともなるのだろうけど、それもない。

ならばやっぱり魔物に踏んづけられた背中だろうか?

いや、それもないだろうと、すぐさま否定する。

踏んづけられてなら、背中が貫通してるってこと。

とりあえず、それはない。つか死ぬでしょ、それ。


なら……


と、その時。

フワリと一陣の風が吹いた。

下を向いたままの私の顔に、血の臭気が叩きつけられた。


吐き気がしそうになる臭い。

前世の自分なら吐いていただろう。

でも、今の私はそこそこ慣れてた。


とは言え、この場所でこの臭い。

危険があるにも程があった。


おそるおそる顔を上げる。

すると、目の前に黒い塊がドドーンと見えた。



「ひっ!?」



思わず仰け反り、漏れ出た悲鳴。

バクバクする心臓をどうにか宥め、私は身体を起こして近づいた。

黒い塊は、私を追いかけていた魔物の猪で、頭がカチ割れてた。

死んでからまだ時間がそれ程たっていないのだろう。

ドス黒い血がドクドクと流れて地面を濡らしていた。



「あれ……か、なぁ……」



掠れて途切れ途切れな声の私の視線の先は、大きく窪み、そのせいでへし折れそうになっている大木です。


この魔物は猪型。

猪突猛進を体で表し、私がすっ転んだあとも止まらず、そのまま大木に頭から激突したのでしょう。



「すごい……幸運ですね……」



茫然とそう呟く私。

思い返せば、ここまでの幸運って、ちょっと記憶にありません。

今までの不運のツケが返ってきたのでしょうか?


バクバク止まらない鼓動。

それを止めようと、私は膨らまない小さな胸の上から手で押さえ。

逸りそうな心と体、そして呼吸をゆっくりと、ゆっくりと。


この幸運。急がないと惨劇に変わる。

だってここは森の奥。

熊もいれば狼もいる。

もしかしたら、これ以外の魔物だっているかもしれない。

そいつらが血の臭いを辿って現れるかもしれないのだ。

というか、現れない方がおかしい。

だから、少しでも急いでこの場から離れないと……


だけれど、この幸運。

更なる幸運を呼び起こす事も出来るのです。



「……肉、ですよね、これも。ふ、ふふふふ」



ズキズキ痛むはずの背中が、大量に分泌され始めたアドレナリンのおかげで気にならなくなってくる。

私は急ぎ腰に吊るした袋から包丁を取り出すと、魔物の喉に突き刺した。

魔物の毛皮は硬かった。でも死んでるせいなのか、思ったよりもさっくりと刃が喰い込んだ。

返り血が私の小さな身体を汚してく。

それでも私は気にせずに、刃をズブリと深く、深く。

ある一定まで突き刺して、そのまま横に引いて喉をかっ切る簡単な血抜き。

次にお腹に包丁を突き刺し、刃を上から下へと滑らせ腹を開く。

最後に開いた腹に包丁を突っ込み、内臓を乱暴に掻きだした。


内臓はそのまポイっ。


少し勿体ない気もしたけれど、このままだったら腐るのが早まる。

それに、これで大分軽くなるはず。



速攻で魔物に襲われた不運。

その魔物が勝手に死んでくれた幸運。


不運と、幸運と。


果たしてこの後。どちらに私の運命の天秤が傾くのだろうか?


ただ、ここでの不運は死に直結する。

……怖い。気を抜けば、逃げ出したくなる。

でも、目蓋の裏に浮かぶアレイドの顔が、私にそれを許さなかった。


母として。

いや、それよりも。


僅かに残ってた前世の男の部分。

それが私を掻き立てる。



「アレイド。いま、帰るからね。お肉、いっぱいとれたんだよ。楽しみにしててね」



魔物の前足を肩で担ぎ、上体を背負う。

私の背よりも大きい魔物です。

猪頭が私の頭頂部にポスンと乗っかり。

当然下半身の部分は地面に付いたままです。

私はそれをずりずり、ずりずりと、引き摺った。


こんな重い物を持つのは生まれて初めてですね。


息を切らしながら、熊や狼の恐怖を紛らわせようと引き攣った頬でクスリと笑った。



ずりずり、ずりずり


ずりずり、ずりずり



熊に狼。どちらも魔物の臭いを恐れて近づかない。

でも無知な私はそれに気づかずに、発狂しそうになる恐怖だけを感じていた。


はやく。はやく帰りたい。

帰ってアレイドをいっぱい抱きしめ、いっぱいお肉を食べさせてあげるのだ。


ついでに魔物退治のお話をしよう。どんなお話にしよう?


そうだ、前世で読んだ、RPGゲームを原作にした漫画を元にして……










大地を打ち砕く地砕斬


風を切り裂く風裂斬


不可視を穿ち断つ断空斬



この3つを極めし者だけが辿りつける奥義、キアルクラッシュ。


でも残念!


不可視を感じ取れないママは断空斬を極められない。

だからキアルクラッシュは使えない。

でも不完全な物なら使えたの。

そんな不完全なキアルクラッシュ。

だけど、


ばしーん! ががーん!!


逆手に持ったナイフからでた衝撃波。

吸いこまれる様に魔物の頭に直撃したわ。

すると、まるで雷が落ちたみたいにドドーンと轟音が鳴り響き、直後っ!


ずがしゃっ!


鈍い音と同時に、凶暴な魔物の頭が砕けたの。


それは凄まじい威力だったわ。

でもね、もしもこの奥義が完成されてたら……どれぐらい凄い威力を出せたんだろうね?






───とかどうだろう?


男の子だもん。


「まま、つよーいっ!」


って感じに楽しんでくれるだろう。



千里の道も一歩から。

気づけば森の外に出て街道を歩いていた私。

ようやく心からの笑みでクスリと笑えた。


に、しても。ふ、ふふふ……


妄想してると速いですね。

時間や距離がワープした気がします。


時刻は昼から夕暮れに。

そしてその夕暮れも静々と沈み、生温かった風がヒンヤリと冷たくなった。

こんな時間まで、アレイドを一人にしたことがなかった私は、自然と足が速くなる。

このままでは母親失格である。肉を獲りに行ってたとか言い訳にもなんないし。


ずりずり ずりずり

ずりずり ずりずり


疲労で足が痛む。

魔物に踏まれた背中もズキズキする。

頭から被ってる血は生乾き、汗と混じってネットリした。

今日食べる分だけ切り取って、残りの部分をポイして帰ろうか? と何度となく考える。


でもダメでしょうと私は思った。


皮は丈夫で、口から飛び出してる2本の牙も硬く鋭い。

ミモザちゃんに頼めば、きっと高く売れるだろう。

ゲーム的な感覚だけど、たぶん大丈夫。売れるはず。


肉も今日明日では食べきれないだろうけど、干したりすれば日持ちもする。

その他の骨だって、出汁取る分には十分過ぎた。

これで小魚のスープとはしばらくお別れである。ばんざいっ!


ようするに、捨てる場所なんてどこにもないのです。

最初に捨てた内臓だって、もう少し余裕があれば絶対に持って帰ってきたものを。口惜しや!




ずりずり ずりずり


ようやく我が家が見えてきた。

明かりはついてない。

アレイドには、ランプの明かりの灯し方なんて教えてない。

暗がりの中、きっと怖がってるはずだ。


自然と足の動きが更に速く、速く。


ずりずりずりずり


アレイドが、家の前に立っているのが見えた。

暗い家の中でひとり待つのは辛かったのだろう。



「ま……ま゛ぁま゛ぁあああああああああっ!!」



切羽詰まったアレイドの絶叫。

ここまで我慢させてしまったのね。

ごめんねアレイド。

私は一旦魔物を捨て置き、急いでアレイドの下に行こうとするも、



「ままお化け―っ!!」


「ママ、お化けじゃないもんっ!?」




いや、確かに帰るの遅かったよ。でもお化けはないと思うの。


生まれて初めて息子に悪口を言われたショックは凄まじい。

これが反抗期かと私はちょっと茫然。

だから魔物の重さに負けてベシャリと地面に押し潰れたのも仕方ないのです。



「ままがお化けに食べられたーっ!?」



でも、ぎゃーん! と大泣きするアレイドを見て、すぐに勘違いだと気づいた私でした☆
























魔物のお肉は、凄まじく獣臭い上に、筋張っててとても固い。

けして美味しい物ではありませんでした。


けれどアレイドは、



「まま! おいしいよ!」



と、喜んで食べてくれて。

私は、とても罪悪感に苛まれました。


これではいけない。

そう思った私は細かく筋を切り、金槌で何度も叩いてみた。

臭みを取る為、ミモザちゃんのお土産の果物の残り……皮や種といった物に浸けてもみた。


ある程度は効果が出たものの、やっぱりお世辞にも美味しいとは言い難く。


でも諦めるわけにはいきません。

私は工夫に工夫を重ね続け。


この日より3日目のこと、遂に完成したのが肉団子。


半日煮込んだ肉を刻み。

森で採取した山芋モドキを繋ぎに使い団子にした。

ついでに、適度な歯ごたえを出すのに軟骨を織り交ぜる。

するとコリコリとした触感がアレイドにはとても好評。


調子にのった私は、更にソースを自作した。

果物に塩と胡椒にニンニク、最後にいくつかの香草を用いて作ったソースだ。

甘酸っぱくもそれなりにコクのある、そこそこ美味しいソースとなった。

当然だけど、前世の日本で使ったことのあるソースとは比べ物にはならない。

それどころか、貴族時代に食べた物にだってかなわない。


でも、いちから作ったにしては、中々良い出来だと私は思った。

特製肉団子にたっぷりそのソースをかけると、肉汁が程良く混じり、獣臭さが消えてとてもいい匂い。

お腹がくぅ~っと鳴った。

少しだけソースを味見すると……うん、肉の旨味に甘酸っぱいソースの組み合わせは堪らない味わいだ。

口の中にじゅわっと唾が溜まる。べりーないすです。

なので、私は早速アレイドに味見して貰うことにした。



「すんごくおいしいっ!」



って言ってくれて、とっても喜んでくれた。



「まま、これなんていうの?」



そういうアレイドに、私はこう答える。



「うんとね、ミートボールよ」



私の知ってるミートボールとは似ても似つかない紛い物。

だけれど、咄嗟に出たのがこれだった。



「ミートボール?」


「そうよ」


「ぼくね、ミートボールだいすきっ!」



久しぶりに見た、アレイドの本当の、本当の、本当の、満面の笑み。

良かった……と胸を撫で下ろしながら思うのです。


少しは、母親らしくできたかなぁ……


魔物に踏まれてズキズキする背中の痛みもぶっとんで、私は嬉しくて、ちょっとだけ泣きました。



最後に。


魔物の皮と牙はとても高く売れました。

生活費に換算すると、数カ月は軽く贅沢が出来そうなぐらいです。

そう、私はこうしてとある青年(ロリコン風味)と出会うまでの数ヶ月間を稼ぐことに成功し、春を売る商売に手を出すことなく……






次回、

ぼくのだいすきな・・・ エピローグ


この小話、もうちょっとだけ続くんじゃよ。



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[一言] いつなったらエピローグが見れるんじゃ。
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