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小説 「 p 」 - 死刑囚、2080年から1582年へ  作者: /WoKoERu ( wokoeru )
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第5~6話 森の奥、暴行、連行 - 未来都市

/WoKoERu From Japan


*リンク先一覧 / list of links


https://lit.link/wokoeru


@wokoeru




第5話 森の奥



俺は母と娘を連れて、街道からさらに深い森の奥へと進んだ。


木々が密集し、陽光がほとんど届かない場所まで来ると、俺は足を止めた。

水場のそばに、倒木が横たわっている。


俺は荷物を下ろし、女に声をかけた。


「ここで休もう。足を冷やせ」


女は疲れた笑みを浮かべ、娘の手を引いて座った。


娘はまだ俺を怖がっているようだったが、母親が「優しいおじさんだよ」と囁くと、少しだけ肩の力を抜いた。




俺は懐から小瓶を取り出した。


2080年から持ち込んだ、透明な液体が入った眠り薬だ。



俺は水筒に数滴垂らし、女と娘に差し出した。

「喉が渇いただろう。飲め」


女は礼を言い、娘にも飲ませた。

俺は無言でその様子を見ていた。



10分ほどで、二人の目が虚ろになり始めた。女が「なんだか……眠くて」と呟き、娘が母親の胸に寄りかかった。



やがて二人はぐったりと倒木に凭れ、意識を失った。



俺はゆっくりと近づいた。




ここからが、俺の時間だ。



俺はまず娘を抱き上げ、母親から少し離れた場所に寝かせた。



幼い体は軽かった。俺は短刀を抜き、娘の小さな胸にゆっくりと刃を押し当てた。



俺は娘の喉に左手をかけ、息を止めながら短刀を一気に突き刺した。


刃が肉を裂き、細い骨を砕く感触が手に伝わる。


娘の体がびくんと跳ね、目が大きく見開かれた。



声は出なかった。俺は短刀をゆっくりと横に引き、胸を抉った。


温かい血が俺の手を伝い、地面に落ちる。

娘の小さな手が俺の腕を掻いたが、すぐに力なく落ちた。


俺は娘の死体を地面に横たえ、血に濡れた手を眺めた。




その瞬間、頭の中に古い記憶が浮かび上がった。







2080年。V-17が世界を静かに、しかし確実に蝕んでいた頃。



人類はそれまでにも、何度も人工ウイルスによる攻撃を受けてきた。



2030年代初頭、最初の人工パンデミックが起きた。

CRISPRと初期のAIを組み合わせた低致死率・高感染率のウイルスだった。

症状は軽い発熱と極度の倦怠感だけ。

だが感染力は異常で、社会全体を麻痺させた。

これの目的は人口削減ではなく、社会・経済の混乱だった。

国と国が互いを疑い、都市が静かに崩れていった。



2040年代には、

神経系を直接標的にした第二波が来た。

感染者は幻覚と激しい肉体的苦痛に襲われ、脳内チップを通じて他人の絶望を共有しながら、数週間から数ヶ月かけて精神を崩壊させていった。

患者は自ら命を絶つか、ただ虚空を見つめて朽ちていくしかなかった。



2050年代。

遺伝子ターゲット型が登場した。

特定の民族やJunkDNA覚醒の度合いによって重症度が変わる、

精密な設計ウイルス。

闇企業や国家が関与しているという噂が絶えなかったが、真相は永遠に闇に葬られた。




そして2070年代後半、V-17が現れた。



それはこれまでの集大成だった。


神経系をゆっくり溶かし、激しい痛みと幻覚を与えながら、患者の肉体を内側から腐らせる。

死に至るまで数ヶ月。

街は完全に静かになった。

人々は言葉を発さず、ただ脳内チップで互いの苦痛を共有しながら、崩れ落ちていった。


病院の前には死体が山積みになり、焼却炉の煙が空を覆っていた。



俺はその全てを、毎日のように見てきた。



ある夜、崩れゆく街角で、俺はV-17の末期症状の女が地面に倒れているのを見た。

体中から血と膿を流しながら痙攣し、隣で幼い子供が泣き叫んでいた。



その光景を見た瞬間、俺は強く勃起した。


不思議な充足感だった。



世界が人工のウイルスによって静かに腐っていく様子、人々が無力に苦しみながら死んでいく姿。



それが俺の胸の奥を熱く満たした。


他の人間が絶望に沈む中、俺だけは違う反応を示していた。




V-17も、それ以前の人工ウイルスも、多くの人間を殺したが、俺にとってはただの「刺激」だった。

俺はあの光景に興奮し、満足し、生きている実感を得ていた。





回想が消え、俺は再び目の前の現実に戻った。



俺は今、娘の死体から立ち上がり、母親の元へ戻った。


女はまだ浅い意識のまま、うっすらと目を開けていた。


俺の血まみれの手を見て、彼女の瞳に恐怖が広がる。

俺は女の口を左手で塞ぎ、短刀を腹に深く突き刺した。


俺は刃をゆっくりと横に引き、臓物を抉り出した。

女の体が激しく痙攣する。

俺はさらに短刀を胸に刺し、心臓の辺りを何度も抉った。血が噴き出し、俺の顔と胸を濡らす。


女の目が俺を凝視したまま、徐々に焦点を失っていく。


俺は女の喉に歯を立て、肉を裂いた。

生温かい血を啜り、咀嚼した。

鉄の味と、命が消えていく感触が俺を満たす。


女の体が最後の痙攣を終え、完全に動かなくなった。



俺は二人の死体を並べて座り、しばらく眺めていた。



手は血でべっとり濡れ、服にも染み込んでいる。森は静かで、鳥の声すら聞こえない。



俺は深く息を吐いた。

満たされる。確かに満たされる。



でも、まだ足りない。


この充足感はいつも一時的で、すぐに虚無がやってくる。



俺は短刀を布で拭い、立ち上がった。

二人の死体は深い茂みに隠した。発見されるまで時間がかかるだろう。





俺は血の臭いを纏ったまま、


森の奥へと歩き出した───







第5話 終






━━━━━━━━━━━


第6話 暴行、連行 - 都市



─── 2075年


新・東京・第7セクター。

雨はいつも、酸性とナノ粒子を孕んで降っていた。



空は薄い青みがかった黒。


巨大な広告ホログラムが雨粒を突き破り、街全体を絶え間なく照らしている。



ビルは生き物のように呼吸し、外壁に埋め込まれた有機太陽電池が弱い光を蓄え、夜になると淡い脈動を放つ。


空を覆う巨大なドーム状のエネルギー・シールドが、低く唸る音を立てながら宇宙放射線と酸性雨を遮断していた。



Pは濡れたテラスに立っていた。



コートの襟を立て、煙草をくわえる。火を点けると、フィルターに仕込まれたナノセンサーが有害物質を中和し、甘いメントールの香りを返す。


2075年のこの街は、すでに「人間のための街」ではなかった。


某社第4世代が普及し、ほとんどの市民の視界には常時ARレイヤーが重なっている。


スーパーコンピュータ「オラクル・ガイア」は、

全市民の脳波データを収集・解析し、犯罪発生率を極限まで抑えていた。


Pは煙を吐きながら、去年の記憶を反芻していた。




2075年の夏、彼には恋人がいた。


名前はミズキといった。

長く艶やかな黒髪を後ろで緩く結ぶのが癖の女だった。

彼女の左目には某社の最新インプラントが埋め込まれ、右目はまだ生身のままだった。二人は、人工の夜空の下でよく手を繋いだ。



そして、二人には子供がいた。


まだ四歳の男の子。

名前は「ヒビキ」といった。


だが、2074年の記憶が、いつもそこに割り込んでくる。


2074年、ネオ・トーキョー第12セクター、地下49階。



当時のPは、すでに壊れかけていた。


オラクル・ガイアは「この男は今後18ヶ月以内に重大犯罪を犯す可能性が92.4%」と警告を発していた。


Pはその警告を知らなかった。

知っていたとしても、変わらなかっただろう。



彼は地下の闇市場で違法ツールを売る女を半死にさせ、さらに高級マンションに侵入して強盗を働いた。

抵抗した男の腕を折り、女の口に銃口を突っ込み、泣き叫ぶ子供の前で父親を撃った。


すべてが記録されていた。


逮捕はわずか47時間後だった。


裁判は形式的なものだった。

判決の日、法廷は冷たい光に満ちていた。Pは被告席に座り、表情を変えずに判事の言葉を聞いていた。


「被告・零。オラクル・ガイアの予測通り、複数の重罪が認められる。懲役47年。社会実験プログラムへの参加を命ずる。」


その瞬間、傍聴席から嗚咽が漏れた。



ミズキがいた。


彼女は両手で口を押さえ、肩を震わせて泣いていた。


隣に小さなヒビキが母親の腕にしがみつき、大きな目から涙をぼろぼろと零している。


子供はまだ状況を理解できていない様子で、ただ泣いて、何かを呟いていた。




ミズキの目が、Pの目と合った。そこには悲しみと、怒りと、諦めが混じっていた。



ヒビキは母親の服を掴んだまま、泣きじゃくっていた。




Pは何も言わなかった。ただ、見つめていた。




判決が下された瞬間、Pは自分がもう「普通の男」ではいられないことを、はっきりと理解した。



それが、2074年の終わりだった。



テラスで煙草を揉み消す。雨が強くなってきた。

遠くで巨大な広告ホログラムが切り替わる。CEOの最新発言が浮かび上がっていた。


Pは小さく笑った。

予言は現実になっていた。

街は静かに、しかし確実に人間を蝕み続けている。


彼はコートのポケットから、古いアナログの写真を取り出した。


2075年の夏、ミズキとヒビキの三人で撮った、たった一枚の写真。

背景にはネオンと雨と、跳ねるイルカのホログラムが映っていた。


Pは写真を握りしめ、雨に濡らしながら呟いた。


「……まだ、俺はここにいるのか…」


雨が写真の上に落ち、インクがゆっくりと滲んでいく。



───

第6話 終

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