52、世界の話
自分の言葉を待つ全員を、さっと見た後に。
テレジアは静かに語り始めた。
「神は均衡を愛します」
「それテレママの口ぐせー」
ヒナタがのんきに口を挟んだ。
「ええ、ヒナタの言う通りです。
それほどに神は均衡を愛し、均衡は全てにおいて適応されます。
生活でも仕事でも。
そして今回の話は神の仕事に起因します」
「仕事……異世界転生作業の話?」
「いいえ、違います。
それは神の仕事の中でも下っ端のやる仕事。
上位神はそんな小さなことしません。
もっと大きな話です」
「それはなに? それが今の話と関係するの?」
「ええ、関係します。世界のことですから」
「せかいー?」
「そう、世界です。上位神の仕事は、世界の管理をすることなのです」
「世界の管理?」
世界の管理という聞きなれない言葉に。
ヤエだけではなく。
魔族たちがザワザワと騒ぎ出した。
それもそうだ。
自分たちの世界が、誰か知らない存在の管理の元で成り立っていると聞かされたら。
驚きもするだろう。
そんな中、魔皇と魔皇子サーガだけは顔色も変えず、テレジアを見ている。
「そこの魔皇と後継は知っているのでしょう?」
テレジアの問いかけに二人は無言で頷いた。
「やはりそうですか。なら魔族は絶対に救えませんね」
「だからそれをちゃんと説明してよ、テレジアさん」
「ええ、説明しますよう。第一に、魔族はこの世界でいうところの神の手先です」
「は?」
ヤエの間の抜けた声を皮切りに、謁見の間の魔族が騒ぎ出す。
「我らは我らだ!」
「神の手先になったことなどない!」
「神なんて見たこともない」
「手先だというのならなぜ我らはこんなにも苦しむ」
「魔皇さま! 我らは説明を求める!」
矛先は君主たる魔皇へと向く。
しかし魔皇は口を開くことはない。
それをいいことに。
「親父ぃ! なんか言えよ! 俺ら神の手先なんかじゃねえよな!」
「そうです! 我らは誇り高き魔族ですぞ!」
「神などに操られていないと言ってください、魔皇さま!」
今回の元凶たる魔皇子ディスクまで転がった状態で口を挟んできて。
魔貴族たちもそれに同調を始めた。
魔皇はそこに愚物を見た。
「黙れ」
その一言には、怒りと魔力のこもっていた。
真正面から受けたディスクは一瞬で意識を失った。
そしてそれを見た魔族たちも一様に口を噤んだ。
「続き、いいですか?」
テレジアが魔皇に向かって問えば、また無言の首肯が返った。
「では続けます。
今回の問題を整理すると、なぜ魔族は救われないのか?
それに加えて、なぜ魔族は神の手先なのか?
神の手先とは何なのか?
ですね」
「そうね」
「まず、神の手先とは神に変わって世界を均衡に保つ存在です」
「テレママー、せかいのきんこーってなにー?」
「そう、ヒナタ!
私もそれがわからないのよ!
さすがヒナタね!
ねえ、テレジアさん。世界の均衡ってなんなの?
まずはそこから説明してもらえる?」
「世界の均衡とはですね……」
そうテレジアが言ってから始めた、世界の均衡とはこうだった。
どこの世界でも絶妙なバランスで世界というのは成り立っている。
どこかの勢力とどこかの勢力が睨み合って。
それを横から狙っている勢力がいて。
遠くからどちらかを助ける勢力がいて。
それら全てが糸を引き合って。
世界は成り立っている。
そしてそのバランスは脆い。
少しでもバランスを崩す存在が現れると、世界は簡単に滅びる。
だから世界を管理する神は均衡を好む。
突出した存在が現れないように。
現れたら叩き潰すようにして。
世界を平らげて。
世界を均す。
「これが世界の均衡です」
テレジアはそう言って苦い顔をした。




