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大森ヤエの異世界転生スローライフ~森に勇者が生えました~  作者: 山門紳士


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51/55

51、神の話

「ちょ、ちょっと待って!

 私は殺して欲しいなんて言ってないから!」


 魔王城、謁見の間に、ヤエの声が響いた。

 その声にテレジアは振り返って言う。


「殺さないんですか?」


 テレジアには珍しい苦しそうな表情だった。


「殺さないわよ、よその国の王様を殺して、これからどうやってスローライフするの?」


 ヤエはここで魔皇を殺せば、きっと次の魔皇はシンセカイの森に敵対するだろうと考えた。

 敵対勢力。

 それはすなわちスローライフの終焉をも告げている。

 ヤエはそういう異世界転生を望んでいない。


「殺さない。

 そうですか……じゃあヤエさん、聞きますけどね。

 落とし前ってどうするつもりだったんですか?」


 落とし前。

 落とし所。

 なにもなしならここまで来る必要はなかった。

 魔皇子ディスクを森の外に放り出せばよかった。


 でもヤエはそうしなかった。

 理由はもちろん魔族たちに責任を取らせるため。

 でもそれは血や命じゃない。


 ヤエは最近の魔族の騒動に怒っていた。

 それら全部の原因が魔皇の政治力不足から来るものだと考えていた。

 だから面と向かって文句を一言言ってやるつもりだったのだ。

 そしてそれで困っていることを聞いて、問題があれば助けるつもりだったのに。


 気づけば命のやり取りになっていて。

 とても焦っていた。


 だから。


 どうするつもりだったのか。


 そう問われて、すぐに考えていたことをまとめて口から出すことができなかった。

 出てきたのはしどろもどろな言葉。


「どうするつもりって、えっと、あ、あれじゃないの?

 賠償とか、リチャードさんみたいな人たちの待遇改善とか。

 そういう感じの……」


「ぬるいですよう!」


 ヤエの言葉をぶった斬るようにテレジアの檄が飛んだ。


「な」


 珍しいテレジアの強い口調に、ヤエの口があんぐり開く。

 たしかにヤエの言葉はしどろもどろでまとまっておらず。

 聞くに耐えない提案だったかもしれないけれど。

 いつものテレジアなら優しく聞いてくれるはずだった。


 でも今は違った。

 なにかイラついている。


「ヤエさん、賠償って言いますけどね。

 この世界の魔族にまともな金なんてありませんよう。

 金があったらリチャードさんみたいな民は出てきません。

 ここに来てわかりましたけどね。

 この世界の魔族は救われることのない民ですよう。

 どうしようもない奴らです。

 だから賠償なんて出来やしません」


 語尾にはフーと唸り声を添えられて、毛並みは大きく膨らんでいた。

 明らかに興奮している。


「なんで、テレジアさんがそんなに怒ってるのよ。

 でも、じゃあ、賠償ができないなら、せめて政治の改善とかを落とし所にしたって良いじゃない」


 テレジアが興奮していると逆にヤエが少し落ち着く。


「彼らに政治の改善なんて出来やしません」


 にべもない。


「んな! なんでテレジアさんにそんなことがわかるのよ」


 その態度に今度はヤエがイラっとして、言葉が感情的になる。

 まるで揺れる天秤だ。


「わかりますよう。私は神ですからねえ」


 ふう、とテレジアがため息をついた。


「なによ! いっつもいっつも! 神になったり狸になったり! ちゃんと説明して!」


 怒るヤエはきつい口調で説明を求める。

 それに対してテレジアは、さっきより長く大きく息を吐き出してから口を開いた。


「……ヤエさん、真面目な話、これは本当に神の領域なんですよう。

 本当は聞かない方がいいんです。

 それでも聞きますか?」


 真っ直ぐにヤエを見るテレジアの瞳は悲しそうに潤んでいる。


「きゅ、急になんなのよ、真面目になって。

 神の話って、聞かなくていいって、そんなわけないじゃない。

 聞くわよ。

 神ってテレジアさんにも関係があるんでしょう?

 テレジアさんの話は、私の話よ」


 ヤエの温かい言葉に、テレジアは頭を軽く振ってから、決意したように答える。


「さっき、そこの魔皇が言ってた、均衡を与えられるって言葉、聞きました?」


「均衡? そんなこと言ってた?」


 正直、途中までヒナタとふざけていて、まともに話を聞いていなかった。

 均衡。

 よくテレジアが神は均衡を愛すると言っていたのは覚えている。


「ええ、言ってました。そしてその均衡が大事な話なんです」


「全然、話が繋がらないわ。均衡と、政治の不全と、なにが……」


「良いから聞いてください。これは神の話。神が世界を見る話なのです」


 ヤエ、ヒナタはもちろん。

 魔皇も、魔皇子も、魔族も。


 この場にいる全員がテレジアの次の言葉を待った。


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