50、魔皇との謁見(強制)
ヒナタを救出したヤエはすぐさまテレジアと合流した。
隠蔽が解けたタイミングで、ヒナタを見失ったことに気づいていたテレジア。
帰ってきたヒナタの、その無事な姿を見て安心し、同時に元凶たる魔族の皇子に怒り狂って言った。
「カチコミましょう、ヤエさん」
要は魔族の王城に行って、親である魔皇に責任を取らせましょう、と言うのだ。
そんなテレジアの一言に。
誰も反対する者はいなかった。
ヤエは瞬時にリチャードから聞いた魔王城までの道のりを最低限の部分だけ森に変えた。
魔王城と森は道で繋がれた。
そしていま。
ヤエとテレジアとヒナタは。
魔族の王と相対している。
ここは魔王城の謁見の間。
訪れたらたまたま魔貴族の報告会だったらしく。
丁度いいのでヤエは割り込ませてもらうことにした。
手土産として。
ツタで丁寧に梱包した第二魔皇子ディスクを床へ置いたら、不躾な割り込みに対しても、みんな納得してくれたようだった。
その対応に、テレジアは満足そうに、良いでしょうと言うと、大きく頷いた。
そんな三人を睨みつけるのは魔皇。
「貴様ら、何者だ」
問いかけるその声にはとんでもない魔力がのっている。
無関係なはずの魔貴族たちの脚がガタガタと震えている。
さすがは魔皇。
だけど、森にも神にも勇者にも。
そんなものは通用しない。
「私は森です」
「私は狸です」
「ヒナタは勇者だよ」
いつも通りの態度で、自己紹介をする。
その言葉に、魔皇よりも早く魔貴族たちがざわめいた。
「もり、もしかして森か? あの災厄の森のことか?」
「待て、それよりも、勇者、勇者と言ったぞ」
「森も勇者も、我ら魔族に仇なす存在だろう」
「たぬ、たぬきってなんだ?」
「なにしに来たんだ?」
「決まってるだろう。我らを滅ぼしに来たんだ」
「領地を取るだけでは飽き足らなくなったか」
喧々諤々。
魔族の怨敵たる勇者の名と。
魔族の領地を奪いたる災厄の森の名は。
場の魔族を混乱させるには十分だった。
狸は置いておく。
「静まれ!」
そんな魔族たちを一喝したのはやはり魔皇。
場は水を打ったようにシンと静まった。
「災厄の森の化身と勇者が、我が息子を人質にして何用だ?」
威厳に満ちた見た目から放たれる。
深く波打つような声。
何用だと問われて、ヤエとヒナタは顔を見合わせた。
魔皇は息子のやったことを知らないのだろうか、と。
「何用だとは随分ですねえ」
そこへテレジアが代表して答える。
「無礼なケダモノは黙っておれ、わしは森の化身に尋ねている」
「無礼はそちらですよう。
私は狸の身体に受肉した女神テレジアです。
たかが魔族の王の分際で。
そちらが分をわきまえなさい」
最後にひと吠え。
森の王であり、元女神であり、狸であるテレジアの咆哮は神気をまとっている。
「……女神」
神気をまとったテレジアの言葉に魔皇は言葉に詰まった。
それだけの説得力がそこにある。
女神の名に、魔皇はとても渋い顔をした。
「ね、ヤエママ、またテレママが神になってる。あれ便利だよねー」
「ふふ、あれがテレジアさんの良いところなのよ。
普段は丸まってる可愛いだけの毛玉だけど。
ビシッと決めるところは決めてくれる有能女神だからね」
「えー良いところなのー?
おかずの取り合いでもあれやるんだけど、ヒナタはあれ卑怯だと思うよー」
「まあ、たしかに卑怯だとは思うけど。
でもあれだって結局二人して結託して、私におかずを追加させるだけの作戦じゃないの?」
「……へへ、バレた」
「もう」
ヤエとヒナタはコソコソと囁き合う。
なんの緊張感もない。
「たしかにその気配は、神、か……
だが……何の用だ。
我らは神に均衡を与えられる状態にはないはずだ」
均衡。
その言葉に、テレジアは一瞬苦い顔をしたがすぐに元に戻った。
「均衡、の話ではありません。私はその役目を負っていませんから」
「そうか……違うか」
魔皇は安堵の息を漏らしてから言葉を続ける。
「では、なおさら何用なのだ」
「単純な話ですよう。
そこに転がしてある貴方の息子が、勇者を誘拐して洗脳しようとしたんです。
さらに勇者の保護者である、あなたたちが災厄の森と呼ぶ、ヤエさんと。
美狸女神である私、テレジアに喧嘩を売りました。
今日はその落とし前をつけに来たんですよう」
「な」
魔皇は言葉を失った。
災厄の森と、女神と、勇者に喧嘩を売った。
事実なら国が滅びかねない。実際簡単に謁見の間に侵入されている。
「そ、それは、本当か、ディスク!」
「むご、むごご、むがあ」
口を塞がれているディスクには答えられない。
「あ、しゃべれないですね。ごめんなさい。いま口だけツタをとりますね」
ヤエがスッと手をかざすとディスクの口周りのツタが消えた。
「ガ、ガア!
クソが!
女!
さっさとこれをほどけ!
父上、チャンスです!
勇者を捕まえてきました。
洗脳して魔族の武器にして人間を滅ぼしましょう!」
がなるディスク。
それは自白であった。
「本当であったか……」
「ええ、女神は嘘をつきませんよう」
「ねえ、ヤエママ。テレママって嘘つくよね? そもそもあれが嘘だよね?」
「しっ、ヒナタ、空気を読みなさい。今は真面目な話をしているわ」
「はーい」
そんなやりとりをジトっと横目でひと睨みしてからテレジアは続ける。
「さて、どうしますか?」
「そこの息子の命に加え、我の命で贖うことは可能か?」
「はい。良いでしょう」
「では、この場でやってくれ。我ら魔族にとっての戒めとなる」
「遺言はありますか?」
「ない。伝えるべきことは全て第一魔皇子に伝えてある。あとは任せたぞ、サーガ」
「は、かしこまりました」
横で控えていたがっしりとした体格の、魔皇に似て威厳に満ちた男が応えた。
「では死になさい。それで罪と罰の均衡は保たれるでしょう」
魔皇は黙って目を閉じた。
ディスクは喚き立てた。
第一魔皇子サーガはまばたきもせずに見つめる。
女神の罰が下されようとしたその瞬間。
「ちょ、ちょっと待って! 私は殺して欲しいなんて言ってないから!」
ヤエの声がそれを止めたのだった。




