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大森ヤエの異世界転生スローライフ~森に勇者が生えました~  作者: 山門紳士


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46/55

46、たったひとつの簡単な

 勇者を、災厄の森を、すべて破壊すると宣言した。

 第二魔皇子ディスク。


 彼はあの後すぐに行動を起こし。

 魔族領とシンセカイの森が繋がった部分に百の軍勢を配置した。


 森と軍勢の間に立ち、鬱蒼と草木が茂った森を見ながらディスクは言った。


「領地を奪われたのはクソだと思ってたがよ。こっちから攻め込むには有利だよな」


 すでに勝ちを確信したディスクは笑う。


 この状況だと下品な笑いになりそうだが、そこは魔王族らしくとても爽やかな笑いだった。

 まるで夜会で淑女に向けるように。


 しかしそれに追随して笑う部下たちはそうはいかない。


 ゲハハ、だとか。

 ガハハ、だとか。

 グヘヘ、だとか。


 一様に下卑た笑いだった。


 それも無理はない。


 武闘派のディスクに従っている彼らは戦闘に長けた、というよりも戦闘狂であるため、現行の穏健派の魔族のなかで浮いたものたちばかりだった。


 優遇はされず、自然と立場は低くなる。


 そんな彼らに上品な笑いなど求めることが間違っているのだ。


「おう! おまえら!

 これから災厄の森との戦争を開始する!

 だがこれは侵略じゃない!

 俺らが、おまえらが、奪われたモノをとり返す戦争だ!

 正義は俺らにある!」


 鼓舞する。


「おおおおお!!!!」


 見え透いた演説でも魔族たちは高揚するのだった。


「よし! 行くぞ!」


「おおおおおおお」


 雄叫びをあげて軍勢はシンセカイの森へと雪崩こむ。


 その最後尾へと色白魔族はついていくのだった。


 ◇ ◇ ◇


 一週目。


 魔族の軍隊は意気揚々と森を進んだ。


 色白魔族の報告や、他の逃げ帰ってきた魔族からの報告。

 これらから、勇者や森の王が住んでいる大体の位置は把握できていて。

 魔族領から入った場合は、大体一ヶ月の行軍となる算段だった。


 一ヶ月の行軍ともなれば、食料やら水やらも相当な量になり。

 当然、百人の軍勢の足は遅くなる。

 だけれど、この森は違っていた。


 食料も水も。

 なにもかもが満ち足りていた。


 数日は警戒して森の食べ物に手をつけなかった魔族兵たち。

 だが、あまりにみずみずしい果実や、新鮮な獣の肉の誘惑には抗えず、そちらを食べるようになった。


 豊かな森では兵站を気にする必要がないことに気づいた魔族軍は。

 持っていた糧食や水をその場に捨て置いた。


 これは行軍を早く進めたいディスクの指示でもあった。


「これで身軽になったな! 進むぞ! おまえら!」


「おおおおおお」


 百人の魔族の行軍は実に順調だった。


 その後ろ姿を見てディスクは快活に笑った。


 ◇ ◇ ◇


 二週目。


 兵達の士気はいまだ高かった。


 良質な食事に、澄んだ水。

 故郷にいた頃とは比べ物にならないほど快適な生活だった。


 この森が自分たちの手の中におさまる。


 そう考えるだけで誰しもが興奮した。


 測量担当に聞けば、敵の本拠地まではまだ二週間ほどかかると言われた。


 みなぎった戦闘欲。

 その反面、見当たらない敵。


 仕方ないので彼らは獣を狩って発散させた。

 森の獣たちは警戒心が存在しないため狩りたい放題だった。

 それらは全て百人の兵の食事になる。


「それにしてもなんだここは楽勝すぎるだろ」


 クハハと、帝王のように笑うディスク。


「敵に食事を与えるとはこの森は狂ってますな。我らには実に好都合ですが」


 副官の魔族は真面目な顔でディスクに言った。


 普段は自分の言葉を肯定するだけの副官が、珍しくディスクへと向けた感想の言葉を、少し意外に思いながらもちょっとだけ嬉しく感じた。


 ディスクはまた上品に笑った。


 ◇ ◇ ◇


 三週目。


 異変はこのあたりで始まった。


「なにが起こっている!」


 気づけば兵の数が減っていた。


 残った兵も、士気が下がっている気がする。


「しっかりしろ!」


「は、はい!」


 ディスクが魔力で威圧してなんとか士気を保っている状況だった。


「おい! 副官! どうなっている!」


 どれだけ威圧的に怒鳴りつけても。


 副官は、


「わかりません、不測の事態です」


 としか答えない。


「わかりませんじゃねえだろう……」


 そういう自分も状況はわかっていない。


 ディスクは自嘲気味に笑った。


 ◇ ◇ ◇


 四週目。


 ついには副官すらも消えた。


 残っているのは勇者の報告をしてきた雑魚魔族だけになった。


「おい! どういうことだあ!」


 誰もいなくなった森に怒鳴り散らす。

 誰に言ったわけでもない。


「おそらくですが、森の攻撃だと思います」


 だが、一人残った色白雑魚が言葉を返した。


 それが癪に触って。


 無言で色白魔族の頬を横に張った。


 甲高い肉の音と。


 地面が揺れる低い音がした。


「んなのわかってる。おまえに聞いてねえよ」


「はい」


 倒れ込んだままの色白雑魚はディスクを見ることなく答えた。

 そこに視線を落としたディスクは気を取り直したように、色白魔族に言葉を投げかける。


「おい、雑魚。お前、森にしばらくいたんだろ? 勇者の巣はどの辺だ?」


「……森はどこも同じような見た目なんで、正直どの辺りかはわかりません」


「ちっ、役に立たねえな」


「ただ……森の王を呼び出すだけであれば簡単な方法があります。ただこの方法を取ると決定的に森に敵とみなされるので、勇者をこっそりと拐うことはできなくなります」


「んだよ! 知ってんじゃねえか! さっさと言えや!」


「はい……森の獣や実りを、食べる以上に狩れば良いです。そうすれば森の王が現れます」


「は? 冗談言ってんじゃねえよ。んな簡単な方法で出てくるわけねえだろ」


「出てきます。食べる以上に獲るな。これはこの森の唯一のルールです。これを犯した者を罰するために森の王が出て来ます。その時には大体勇者が同行しているはずです」


「は、ははは。そんな簡単なことなのか?」


「はい」


「なら!」


 手に持った剣を投げる。

 少し離れた位置の鹿の首に突き刺さった。


「さっさと!」


 何もない空間からファイヤーボールが放たれる。

 水辺でゆったりと水を飲んでいた小動物がまとめて焼き払われた。


「言えよ!」


 体から周囲に瘴気の波を噴出させる。

 木々で羽を休めていた鳥たちがまとめて地に落ちた。


「ほら! 殺したぞ! 食わない分を殺したぞ! 出てこい! ケダモノの王!」


 ディスクは狂気的に笑った。

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