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大森ヤエの異世界転生スローライフ~森に勇者が生えました~  作者: 山門紳士


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45/55

45、だから重いのよ

 後日。

 ヤエは再びリチャード達に与えた村にやってきていた。


「えっと……あーん、っと……貴方の名前はピーター!」


 様子見を兼ねて、村の魔族に名前を授けるためだ。

 理由はリチャードに頼まれたからだった。

 最初は渋っていたが、リチャードたっての希望で、ヤエは西端の村の者へ名を授けることにした。


 授けて授けて授けて授けて。


 いまやっとリチャードの父に名前を授けて全員分が終わった。

 たかが十六名、されど十六名。


 西端の村にいた住人全てに名前を与えるのは思ったよりも大変だった。

 ヤエの中に名前のレパートリーがないのだ。

 それでもなんとかしぼりだして統一感のある命名ができたと思っている。


 そして。


 名を与えられた魔族たちは。

 全員悪魔族に進化した。


 姿も進化した。

 ほぼ半裸だったはずが何故かしっかりと服を着ている。

 前世のスーツ姿に似ているのはヤエの趣味じゃないと思いたい。


 引き締まった筋肉の上に、黒色のスーツがよく似合っている。

 とはヤエも思う。


 進化を終えた悪魔族一同はずらっと一列に並んでヤエの言葉を待っている。

 ただヤエ側には言いたいこともないし、何を言っていいのかもわからない。


「ね、テレジアさん、それっぽいことで締めてくれない?」


 計画を立てて計画を実行することは得意だが。

 人前でのプレゼンや演説なんかは苦手なヤエだ。


「彼らはヤエさんの言葉を待ってるんですがねえ」


「でもさ、苦手なのよ。お願い!」


 そう言われてしまってはテレジアに断る選択肢はない。


「仕方ありませんねえ——」


 そう言って、テコテコと悪魔族の前に進み出た。


 ため息のような吐息。


 スウと大きく息を吸って。


 言葉を吐き出す。


「聞きなさい! 私、森の王テレジアが、ヤエさんの言葉を代わりに告げる!」


 とても強い言葉だった。


 悪魔族全員、背筋に杭でも打たれたかのようになった。


「あなた達、西端の村一同は、

 ヤエさんの慈悲で!

 住む場所を与えられました!

 食べる物を与えられました!

 存在進化を与えられました!」


 テレジアの強い言葉に、悪魔族は「オウ」とこれまた強い言葉を返す。


「この森で存在を許された唯一の他者です! あなた達は特別な存在なのです!」


 特別な存在。


 この言葉に、悪魔族達は感動した。

 身体を震わせ、涙をこぼす者もあった。


「そんなヤエさんにあなた達は何を返しますか!」


「忠誠を!」


 悪魔族達は一糸乱れぬ発声で答える。


「それだけですか!」


「安寧を!」


「それだけですか!」


「生命を!」


「まだ足りない!」


「我らが全てを!」


「いいでしょう。その気持ちで励みなさい」


 テレジアは悪魔族の言葉に、満足げに鼻を鳴らしてヤエの元へ戻る。

 そのまま背中をスルッとのぼって、ヤエの首筋に巻き付いた。


(どうですか?)


 耳元で。

 ヤエにだけ届く声で。


 演説の出来栄えを問う。

 テレジア的にはよくできたと思っている。


(どう、って……)


 ヤエは言葉に詰まる。


(割と良く出来たでしょう。これで彼らは完全にヤエさんの眷属になりました)


(眷属……)


 ヤエの心情とすれば。

 重い。

 この一言に尽きる。

 正直、ドン引きだ。


 リチャードの村の魔族を救おうと思ったのもすごく軽い気持ちだった。


 なんというか。

 袖振り合うも他生の縁。

 情けは人の為ならず。

 ヤエはそれくらいの気持ちでやっていた。


(ふふん、この出来栄え、存分に褒めてくれていいですよう?)


 そう言ってテレジアはヤエの頬に鼻を押し付けてくる。

 暖かく柔らかい感触だ。


 ヤエとしては感動どころではないのだけれど、自分が苦手だからといって丸投げした手前、何も言うことができない。

 無言でテレジアの頭と顎下を掻いてあげる。


 そのままスッと前に進み出る。


 ヤエの動きに。

 悪魔族の背筋が伸びて固まる。


「あ、そんなに緊張しないで。楽にして」


 と言った所で悪魔族の姿勢は変わらない。

 昨日は普通に接していたリチャードもこの場では同じ態度だ。


 ヤエはふう、と息を吐いた。


「あのね、テレジアさんはああ言っているけれど、私はあなた達に幸せになって欲しくてここに連れて来たのよ。それはわかる?」


「はい! 救い主たるヤエ様の言う通りです!」


「……う、救い主。

 まだ生きてたのねその設定。

 まあいいわ。

 それも一緒に否定しておきます。

 私は救い主じゃありません!

 リチャードさんに縁が有って出会って、苦労していたから救いたいと思っただけなの。

 あなた達はそのついでみたいな感じなの。

 だからそこまで感謝されることはしていないわ」


「はい! 救い主たるヤエ様の言う通りです!」


「うん、わかってないわね。まあいいわ。おいおい慣れていってもらいましょう」


 ヤエはまったく届かない言葉にため息をついて。


 今日のところは諦めた。


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