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大森ヤエの異世界転生スローライフ~森に勇者が生えました~  作者: 山門紳士


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42/55

42、家よ在れ

「災厄の森さま。

 それに森の王さま、勇者さま。

 先ほどは大変失礼すました。

 俺ら西端の村一同はヤエさまの眷属となり、命を賭すことを誓います」


 少しの訛りがあるがそれでも精一杯の丁寧な言葉。

 リチャードの父を先頭に村人は全員、ヤエの前に跪いていた。


 救う、と言った。


 テレジアの言葉で。

 魔族はヤエのことを救い主だと理解したようだった。

 救い主とは何か、とリチャードに聞けば魔族の古い伝承にそういうのがあるらしい。


 総勢、十数名ほど。

 全員体格がよく、ずらっと並ぶ姿は圧巻の一言だった。


 ちょっと予想していない展開にヤエは慌てた。


「ま、待って!

 私、そういう重いのいらないの!

 今回はたまたま縁のあったリチャードさんを救いたいと思っただけだから」


「ムコスだけですか? 俺らは不要で? なら死にますか?」


「だから違うって! 生きて! 普通に! この森で! 生きて! 楽しんで!」


 話の通じなさにヤエの語気が荒ぶる。


「普通に、生きて、楽しむ?」


 西端の村の魔族は全員意味がわからないと思った。


 なぜなら。

 彼らにとって生きるとは苦しむことだから。 


 相互理解に届かない。


 そんな森と魔族の間にリチャードが入ってきた。


「ヤエさま、みんなはまだこの森を知らないんだ。

 だから楽しんで生きるがわからない。

 俺もこの森に来たばっかの頃は理解ができなかったから。

 みんなの気持ちはよくわかる。

 俺からみんなに説明させてもらっていいか?」


「もちろん! お願いするわ!」


 ヤエにとっては渡りに船。

 前世でもプレゼンなんかはヤエの苦手分野だった。


「ありがとうございます。みんな聞いてけ!」


 故郷の人間からうつった少しの訛り。

 リチャードは前に立って説明を始めた。


 この森の恩恵。どれだけ実りが豊かか。

 この森の唯一のルール。食う以上に取ったら森の王に滅されること。

 ルールさえ守ればこの森に村全員で定住が可能なこと。

 そして嫌であれば拒否も出来ること。


 自分の経験を交えながら語るそれらはとても理解しやすかった。


 魔族一同はおおむね理解した。


「災厄の森さま、ムコスの説明で、全部とは言いませんが、理解できました。

 我らの命はすでに災厄の森さまに捧げた命です。

 そしてその命を森さまがここで生かせとおっしゃるのであれば。

 全員この森の中で生かしていただきたいと、そう思ってます」


 説明を聞き終わったリチャード父はヤエに向かって言った。

 ヤエとしてはまだまだ重いことを言われている気がする。


「ねえ、リチャードさん、みんなほんとにわかってる?」


 隣に戻ってきたリチャードに小声で聞いてみる。


「それは追々ですね。

 それに正直なとこ、自分もヤエさんのためなら命を捨てられるんで。

 みんなの気持ちはすごくわかりますし」


「お、重いわ」


「まあまあ、ヤエさんいいじゃないですか。ヤエさんガチ勢ができたってだけですよう」


「ヒナタもヤエママ大好きだから、一緒だよー」


「違うと思うけどね……まあいいわ。

 これ以上考えても無駄よね。

 とりあえず、みんなが今日から住む場所を作りましょう。

 みんなこっちへ来て」


 これ以上は精神衛生上良くないとヤエは考えて手を動かすことに決めた。


◇ ◇ ◇


 狸のしっぽ亭から少し離れた場所。

 歩いたら半日程度のところに、ヤエは一同をともなって転移した。


「森さま、ここは?」


 リチャードの父がヤエに問いかける。

 どうやらこの雰囲気だとリチャードの父がこの村の村長的な役目を負っているようだ。


「ここは貴方たちが住む場所よ」


 そんな何気ないヤエの言葉に魔族はざわめいた。

 そのざわめきは何もないところへ住めと言われた反発だとヤエは思った。

 が、よく聞いてみるとその真反対の反応だった。


「おお! すごい! 地面がふかふかしているぞ」


「寝返りうっても石のトゲに体を刺されないなんて!」


「見ろ、地面の中に柔らかい虫がいるぞ。蟻と違って全部が食える!」


 怒っているのかと思いきや。

 とても喜んでいた。


 すごいカルチャーギャップだった。

 このままではいけないとヤエは説明を再開した。


「いや、このままとかじゃないのよ。貴方たちにはちゃんと家を用意するから」


「家? 家ってえと」


「石の穴ですかな? あそこは体にトゲが刺さるでな」


「……俺らはこのふかふかの地面がええです」


 ヤエは無言で頭を横に振った。


「うん、ちょっと見せちゃった方が早い気がしてきたわ。

 ちょっと、その辺りの人たち、こっちに寄ってくれる?

 そうそう、そこらを大きくあけて……

 いくわよ……」


 魔族を少し移動させてからヤエは一息吸って吐いて。


「家よ在れ」


 そこに家よ在れと願った。

 その瞬間。

 願ったままの家がそこに建った。


「へ?」


「はあ?」


「んだこれ」


 森の中には。


 家と。


 魔族たちの間抜けな声があった。


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