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大森ヤエの異世界転生スローライフ~森に勇者が生えました~  作者: 山門紳士


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41/55

41、ほんとにこれでいいのよね?

 救う、と。


 そう言われて。

 魔族たちには動揺が走った。

 生まれてからここまで。


 何度救われたいと思っただろうか。


 辺境魔族の生活は苦痛に満ちている。

 食い物にも飲み物にも満足などしたことがない。

 種族固有の頑健な体がなければ生きてこれなかっただろう。

 子供の生存率も低く、子を失ったことのない親は存在しない。


 それを救うと。

 目の前にいる森の王は言っている。


 狸の姿だというのに。

 その言葉には不思議と説得力がある。


 魔族たちは顔を見合ってうなずきあう。


 救われるのなら救われたい。

 救い主の伝承。

 その中にあるように。

 全ての苦しみから救ってもらいたい。


 無言ながらもそんな意思で魔族たちが統一されかけたその時。


「待ってくれ、みんな!

 騙されるな!

 救い主は全部を救ってくれんだ。

 だども!

 この森で仕事を請け負った俺のムコスが行方不明なのを忘れたか!?

 ムコスはこの森に殺されたんだ!

 ムコスは救われていない!」


 一人の屈強な魔族が大きな声をあげた。

 どことなくリチャードの元の姿に似ている。


「いや、おめとこのムコスは可哀想だけども」


「それは怪しい仕事に乗っかったんだ、仕方ねえよ」


「そもそもこの森にいたかもわかんねだろ?」


 テレジアを信じ始めている他の魔族たちは、災厄の森の機嫌を損ねるのを恐れてか、一人抗議の声をあげている魔族を諌める。


「あれ、リチャードさんの?」


 小声でヤエが問う。


「ああ、俺のオアジ……えっと、父親だ。横にいるのが母親。すまないな」


 申し訳なさそうにリチャードが答える。


「大丈夫。ちょっと私が話してみるね」


 ヤエはテレジアを頭に乗せたまま、リチャードの父親の所へと歩み寄った。

 さっきまで黙っていた女性が急に近づいてきて。

 リチャードの父親は自然と一歩下がった。

 恐怖を感じたわけでもない。

 威圧されたわけでもない。


 それでも下がってしまうナニカをヤエに感じていた。


「こんにちは」


 ヤエはニコリと笑う。


「あ、あんたは?」


 リチャードの父親はひざまずきたくなる感情を抑えて問うた。


「私はこの森で、ヤエと言います」


「森?」


「なに言ってんだ、おめ?」


 リチャードの父と母は、急な話すぎて理解できない。


「控えなさい!

 この女性こそがこの森そのもの!

 ヤエさんです!

 今は人の身の化身でありますが、実態はこの森そのものなのです!

 無礼は万死に値しますよ!」


 ヤエの頭の上でテレジアが吠える。


「災厄の、森さま……」


「だ、だからどうしたってんだ? ムコスを失った俺らだ。殺すなら殺せ!」


 頑ななリチャード父にヤエはなおも微笑む。


「貴方の息子さんは死んでません」


「じゃ、じゃあムコスをだせ!」


「さっきから出してますよ。ここにいるリチャードさんが貴方の息子さんです」


「私らのムコスはそんな姿じゃなかっただ。

 災厄の森さま、誤魔化さねえでくれ。

 殺したなら殺したでええで、そしたら私らも死ぬだけだ」


 そう言ったのは、さっきまでオロオロとしていたリチャード母だった。

 覚悟を持った瞳をしている。

 それはとてもリチャードに似ていた。


「本当に殺してません。貴方のその瞳の輝き、息子さんにそっくりですよ。見てください彼の目を……」


「目、瞳……」


 母の視線がリチャードへと向かう。


「そうだ、オーカ、よっく見てこ、俺だ、あんたのムコスだ」


「ムコス……ああ……その目は、確かに、私らの……」


 一歩。

 母の足がリチャードへと向いた。


「オーカ」


 一歩。

 リチャードの足が母へと向いた。


 両の手と手が合わせられ。

 五本の指と指がそれぞれ交互に組まれた。


 感動の再会。

 親子の抱擁へ。


 至ると思っていたヤエの予想は裏切られた。


「行くぞ!」


「おう!」


 勇ましい掛け声に合わせて、リチャードとその母は、そのまま力くらべを始めたからだ。


「は?」


「え?」


「ははは、リチャードさんたち、すっごいね!」


 ヤエとテレジアは理解の外。

 ヒナタはそのパフォーマンスに喜んだ。


 全身の力をこめて、母と息子は何度も押し合った。

 お互いを確認するように。


 犬が尻の匂いで個を認識するように。

 力こそ正義である西端の村の魔族では、力の使い方で個人を見ている。


「おお、おお! この力の癖! 確かに私らのムコスだ!」


「やっとわかってくれたか、オーカ!」


「随分と見た目が変わっちまってえ! わかねかったわ!」


「おれ、そこのヤエさんに名前をもらって悪魔族に進化しただよ!」


「そっか。名前をもろたんか! だから随分と強くなってるだなあ!」


「あんたー! この子は私らのムコスだ! 間違いねえ!」


「おう、たしかにそうだな! その背中の力の使い方は俺らのムコスだ!」


「オアジも! わかってくれたか!」


「わかっただ! だども、次は俺とやらんと認めん!」


「おうよ!」


 母から手を離したリチャードは、今度は父と力くらべを始めた。


 西端の村の魔族独特の個人識別式はしばらく続き。


 ヤエとテレジアはそれを呆然と眺め。


 ヒナタはその勇猛さを楽しむのだった。


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