40、感動?の再会
リチャードの目の前には奇跡があった。
「オアジ、オーカ」
狸のしっぽ亭のテラスに立って、そう言ったきり、リチャードは絶句した。
それもそうだろう。
遠く離れた故郷にいたはずの父と母が庭に立っているのだから。
両親だけじゃない。
幼い頃から見知った人たちが、そこには全員立っていた。
「リチャードさん、遠慮せず、みんなの所へ行ってください」
そんな言葉と。
背中にポンッと置かれた温かい手がリチャードの背中を押した。
「ありがとう」
振り返ることなく、リチャードは庭へと駆けて行った。
◇ ◇ ◇
「いやあ、感動の再会ですねえ」
「ええ、良いことすると気分が良いわね」
二人は微笑みながら駆けるリチャードの背中を見つめる。
気持ちが急いているのか。
途中転びそうになりながらも、故郷の人々の所へたどり着いた。
どれくらいぶりの再会だろうか。
涙ながらに抱き合うのだろうか。
固く握手をするのだろうか。
魔族の感動の再会とは人間と違うのだろうか。
そんなことを考えながら様子を眺めていると。
どうにも様子がおかしい。
「ねえ、ヤエママ、テレママ、なんだか揉めてない?」
「そうですねえ。いきなり転移してきて驚いているからでしょうか?」
「そうね……なんだろう……」
「ね、ヒナタは思うんだけどさ。魔族の人たちってリチャードさんがリチャードさんってわからないんじゃない?」
天才ヒナタは核心をついた。
「「あ」」
森と女神は間の抜けた声をあげる。
ついさっき自分たちがリチャードに抱いた疑念と同じものを、彼らも抱いているのだと理解した。
「ヤエママとテレママで説明した方がいいんじゃない?」
「そ、そうねー」
「ふふふん、私はずっとそう思ってましたよう」
幼い娘に正論を叩きつけられた森と女神。
当然でしょう。
知ってましたよ。
とばかりに、当たり前の顔して揉めている魔族の所へと向かった。
「ママたちって凄いんだけど、ちょっとアレなのよねー」
ヒナタは小走りになっている二人の背中を見ながら。
生意気な顔で生意気を言った後、母たちの背中を追いかけた。
◇ ◇ ◇
「また増えた!」
「誰だあんたらは!」
「ここさどこ!? 家に帰してよ!」
「オーカ! もーかえりたいよー」
非難と悲嘆と哀願と。
様々のネガティブな声がヤエとテレジアにあびせられた。
「や、ヤエさん、テレジアさん、助けてくれ、いくら俺が村のものだと言っても全く信じてもらえないんだ」
「そ、そうよね。姿が変わったの忘れてたわ。ごめんね、リチャードさん」
「いや、俺もオアジとオーカの姿を見て懐かしくなっちまったんだ」
ごめん、すまない、とお互いで頭を下げあっている。
その間も魔族の皆さんからの非難が止まらない。
そこへテレジアが声を駆ける。
「まあ、まあ、ここは美狸女神にお任せなさい」
「確かにテレジアさんなら解決できそうね! 有能女神だもの」
「おお、そうか! さすがだな! テレジアさん、お願いしてもいいか?」
「ふふん、もちろんですよう!」
褒められて気を良くしたテレジアは立ち上がってポンッと腹を叩いた。
そのままポン、ポン、ポポン、と続けて腹鼓を打つ。
それは妙なる音だった。
自然と魔族たちの注目がテレジアに集まる。
それを確認してからテレジアはスルスルっとヤエの頭の上に登った。
開口!
「聞きなさい! 魔族の民たちよ! この森の王の声を!」
よく通るいい声だった。
魔族たちは森の王を名乗る喋る狸に驚きすぎて言葉にならない。
何人かがカクカクと首肯している。
「まず! この場所は貴方たち魔族が災厄の森と呼んでいる森! 正しくはシンセカイの森である!」
「さ、さいやくの森ってアレか?」
「最近噂の魔族を滅ぼすためにできたっていう?」
「て、ことは俺らは殺されるのか!?」
「ええ!? いやだよう、オアジ、助けて」
遠く辺境の魔族の村までヤエの噂は届いていたらしい。
ただし、とんでもなく歪んだ形だったが。
「黙りなさい!」
ピシャリとしたテレジアの声。
魔族たちの声がシンと静まった。
「貴方たちの聞いた噂はすべて嘘です!
この森はすべてを救う救済の森です!
貴方たちは苦労していると聞きました。
それを救うためにここに連れてこられたのです。
ヤエさんが貴方たちを救うのです!」
救う、と言った。
テレジアの言葉に。
「俺らを救う?」
「そんなこと言われたことねえ」
「もしかして救い主さまか?」
魔族たちのあいだに。
ざわざわと動揺が走った。
そのどれにも、救い主という言葉が混ざっていた。




