38、先祖はデーモン
自分の顔をマジマジと三人娘に見つめられた褐色魔族は、思わず戸惑いの声をあげた。
「いや、俺だ、俺だよ。さっきまで一緒にメシ食ってただろ?」
自分の姿が見られない褐色魔族改め。
リチャードは周りの反応についていけない。
「貴方がさっきの魔族で、リチャードさん? ってこと?」
「ああ、そうだ。さっきヤエさんから名をもらった」
「えー! ぜんっぜん! 見た目違うよー」
「これは悪い魔族がこっそり入れ替わったんじゃないんですか?
ね、ヤエさん、鑑定してみてくださいよう。
本当にさっきの魔族さんかわかりますから」
「そ、そうね。鑑定!」
テレジアにうながされ、ヤエは自称リチャードに鑑定をかけた。
リチャードの頭上に鑑定結果が浮かぶ。
「あー……本当、リチャードさんね」
名前の欄にはしっかり『リチャード』と記載されていた。
「そうですねえ、名前はそうなってますねえ」
「へー名前つけるとすっごい変わるんだねー」
それを見て、疑い気味だったテレジア、それにヒナタも納得した顔をしている。
だけれど当のリチャードの方は理解が追いつかない。
「ちょっと待ってくれ、俺はどうなってるんだ? 俺もその鑑定が見たいんだが」
リチャードの上に表示されている鑑定結果は自分には見ることができず。
さらにそれを見た女子三人の反応にますます戸惑うばかりだった。
「鑑定の結果って本人には見えないんで諦めてください。私たちが教えてあげますよう」
「そ、そうなのか? テレジアさん、ぜひ教えてくれ、俺はもう不安でたまらん」
「はいはい、焦らないで。
待ってくださいねえ。
理由として考えられるのは……まず種族あたりかな……えっと……あー、これはこれは」
「なんだなにがあった?」
「そりゃ、確かに姿が変わりますよう。聞きたいですか?」
「あーもー! 聞きたい! だから、焦らさないで教えてくれ」
「ふふ、意地悪が過ぎましたねえ。
ま、簡単に言って、リチャードさんは魔族から悪魔族に進化しました。
姿が変わったのはその影響でしょう」
「は?」
「聞こえませんでしか? 悪魔族、デーモンになったんですよう。デーモン」
「いや、聞こえてはいた。だが……なんで、なんで悪魔族なんだ?」
「え? おじさん、悪魔族って、悪なの?」
ヒナタの勇者としての本能から目がきらりと光る。
「いや待て! ヒナタ嬢ちゃん!
さっきも言ったが俺は悪じゃない。
だから悪魔族と言われてなおさら意味がわからないんだ」
慌てるリチャード。
「これ、ヒナタ。横から話の腰を折らないで、テレジアさんの説明を聞きなさい」
迫力を出しているヒナタの肩にヤエの手がかかる。
「はーい」
途端にヒナタから圧が抜けた。
「で、テレジアさん、なんでリチャードさんが悪魔族になったかわかる?」
女性二人に翻弄されるリチャードが可哀想になったのか、横からヤエが助け舟を出した。
「はい、わかりますよう。私は全知全能の女神ですからねえ。説明しましょうか」
それを受けてテレジアは鼻を鳴らして、カウンターの上にピョンっと飛び乗った。
「またテレママが神になったー。さっきは狸だったのにー」
横から茶々を入れてくるヒナタの口に、テレジアはもふもふとした尻尾を当てる。
「もぐぐ」
顔いっぱいに尻尾を押し付けられてヒナタが黙ったのを確認してから。
テレジアは説明を始めた。
「ま、おそらくですが、先祖返りでしょう」
「先祖返り?
俺の先祖が悪魔族だったってことか?
たしかに言い伝えではそうだったけど。
魔族が箔をつけるためのふかしじゃなかったのか?」
リチャードが驚いた顔をしている。
「ええ、先祖っての本当ですよう。
遠い遠い昔の、薄い薄いつながりですがね。
今は細身になっていますが。
元のがっしりした体格からみて、アークデーモン。
もしかすればデーモンロードくらいまであるかもしれませんねえ」
「マジか……」
あまりにビッグネームな祖先に、リチャードの顔が今度は引いた顔に変化する。
「てことは、つまり私の名付けで魔力みなぎって先祖返りしたって感じ?」
「正解です! さすがヤエさん、ご明察! さすヤエ!」
ピンポーンという効果音が鳴っていそうな顔のテレジア。
「ちょっと変におだてないでよ!」
急におだてられて照れくさそうなヤエ。
そんな二人のやりとりをよそにリチャードは深刻な顔をしている。
「っ……そうか、先祖返りか……だが悪ってのは、どうにも落ち着かないな」
自分の本質が悪魔だと聞いたリチャード。
どうにも自分の性格とその属性がリンクしないことにまだ戸惑っている。
「気にすることはないと思いますよう。
善だの悪だのというのは誰から見るかで変わるものですから。
結局はリチャードさんがどう振る舞うかだけですよう」
「そう、なのか?」
リチャードから見たテレジアの姿がやけに神々しく見える。
「そうですよう。
ヤエさんなんて世界から災厄認定されてますし。
ヒナタは勇者だし。
私は女神で狸ですから。
種族なんてこの世界でどう捉えられているかってだけです。
本質はリチャードさんの中にあるものです」
災厄呼ばわりされたヤエは苦い顔をして。
勇者と言われたヒナタは自慢げに胸を張っている。
そんな二人をみてから。
リチャードは自分の手を見る。
それは見慣れた手とは違っていた。
「そうか……俺の中にある……もの、か」
小さく呟き。
自分の中の力強い感覚を握りしめるように拳を握った。




