37、君の名は
「これからの話をしましょうか?」
全員がそれぞれカレーをふた皿食べ終えた後に。
ヤエは褐色の目を見て言った。
「これから?」
「ええ、貴方のこれからの話です」
大きくヤエはうなずいた。
「これだけうまいもん食わしてもらえたら人生に悔いはない。
ヤエさんの言うことに俺はなんでも従う。
出てけと言われれば出てくし、死ねと言われれば死ぬ」
実に覚悟がキマッた目をしている。
「違いますよ!
そんな物騒な話はしてません!
貴方……えっと、ずっと貴方だとおかしいですね。
名前はなんというのですか?
ちなみに私はヤエです。職業は森です」
ヤエは慌てて否定しながらついでに自己紹介をした。
「あ、ああ、丁寧にすまない。
えっと……名前か……俺らみたいな底辺魔族に名前はない。
魔族で名前を持ってるのは貴族や王族だけだ。
魔族にとって名は特別なんだ」
「へーそうなんですねえ。
なんで、名前が特別なのですか?
あ、私はテレジアです。
職業は、狸で、女神で、森の王です」
横からテレジアが情報過多な自己紹介をする。
褐色はよくわからない顔をしながらうなずき、そこから話を元に戻す。
「よろしくテレジアさん。
名前が特別な理由か……えっとそうだな。
魔族は名前によって力が変化する性質を持ってるんだ。
簡単に言えば、強者に名前をつけられると強化される。
逆に弱者に名前をつけられたりすると、生きていくのが難しいほど弱体化したりする。
だからそれを恐れて底辺の魔族は基本的に名付けをしない。
そもそもの身体能力が高いから下手に強化する必要もないしな」
確かに褐色の強そうな肉体を見ると、普通に生きる分には何も困らなさそうだ。
「へー! 名前でパワーアップできるんだ!
すごいね!
ヒナタはヒナタだよ!
でもおじさんに名前がないと不便だよねー?」
「ヒナタの言う通り不便ですねえ。ヤエさんが名前をつければ良いんじゃないですか?」
「え? なんで私?」
テレジアの提案に急に振られたヤエは驚く。
「話を聞くに、名付け親の魔力が低いと弱体化するんでしょう?
ヤエさんの魔力量なら超強化されることはあっても。
弱体化はありえないんじゃないですか?」
「そうなの?」
テレジアさん適当なこと言ってない? と褐色に問いかける。
「ああ、テレジアさんの言う通りだ。
ヤエさんのあの殺気にこもった魔力なら、名前をもらえれば間違いなく俺は強化されるはずだ」
「あれは本当にごめんなさい! ついキレちゃって」
カウンター越しに手を合わせて謝るヤエ。
「いや良いんだ。
あれはヤエさんがヒナタちゃんを愛している証拠だから。
で、魔力量の話なんだが、あれなら魔族の王族よりも強いんじゃないか?
少なくともこの仕事を斡旋してきた魔力の貴族なんて足元におよばないと思う」
ヤエの謝罪に手を振って応えた褐色は、ヤエの凄さを補足した。
「ほらほらあ、ヤエさんが名付けすれば解決ですよう」
褐色の言葉を聞き、ほら見たことか顔の狸テレジアが可愛くてヤエは微笑む。
「ねえ、ヤエママ、名前つけてあげなよ」
ヒナタも後押ししてくる。
「えー、本当に私で良いですか?」
そんなテレジアとヒナタの言葉にまんまとのせられるヤエ。
「ああ、俺としては光栄だ。ヤエさんが良ければ名をくれないか?」
褐色は嬉しそうにうなずいた。
「そうですかー。じゃあちょっと考えますね」
褐色の了承を受け。
ヤエはあごに手をあてて、目を閉じた。
そのまま少し考えてから、ヤエはゆっくりと目を開き。
宣言する。
「決めた。貴方の名前はリチャードよ」
ヤエの宣言を受けた途端に。
褐色魔族が強く発光した。
すぐにその光は消え、褐色がさっきまでいた場所には、黒服に身を包んだ、長身で細マッチョの姿の紳士がいた。田舎臭い純朴そうで大柄な褐色魔族はいなくなっていた。
「待って、だれ?」
「え? 魔族さん?」
「いやあ、すっごい変わりましたねえ」
そのあまりの変わりように、女子三人はあんぐりと口を開けた。




