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大森ヤエの異世界転生スローライフ~森に勇者が生えました~  作者: 山門紳士


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30/38

30、魔族さんに出会った

「もりもりもーりーも、もーむーりー」


 森の中をヒナタが行く。


 ヤエから習った変な歌を歌いながら。

 ご機嫌に手に持った剣を軽く振って悠々と進む。


 ヤエやテレジアから直接言われたわけではないが。

 二人の会話を聞いていて。

 ヒナタはなんとなく自分が勇者という存在であることを理解している。


 それもあってか、歩むその姿は幼児ながらもまさしく勇者の風格をまとっていた。


 時にするとヤエとテレジアが二人で森の様子を見ている頃。


 そうなると、狸のしっぽ亭と森の中、二つの場所にヒナタが存在していることになる。

 だけれど実際は違う。

 現在、森の中を鼻歌まじりに歩いているのが本物のヒナタで。

 庭で剣を振っているヒナタは分体だ。


 勇者として日々成長しているヒナタは分体を作り出すスキルを習得していた。


 三歳にしてすでにヒナタが獲得したスキルは十を超えている。


 これはこの世界の基準でも異常なペースで、森の中、衣食住の心配なく、異世界の食材を使った料理を口にし、勇者の本能に従って、自由に鍛錬を積み重ねた結果だった。


 そんなヒナタ、最近はこうやって一人で森を歩くことがある。


 もちろん、テレジアと一緒に森の王としてクマゴンの背中から見る景色も好きだけれど、一人で森を歩く時のこの新鮮さにはかなわなかった。


 地面が近い。

 木が高い。

 草が苔が落葉が。

 全てがヒナタの五感で感じられる。

 木漏れ日も頬を撫でる風もみんな優しい。


 これが全部ヤエだということもテレジアから教わってヒナタは知っている。


 自分を優しく抱きしめてくれるヤエママがヒナタは大好きだった。

 森を歩くと全身でそれを感じることができる。

 それが森を一人で歩く理由だった。


 ヒナタは足をふと止めて。

 それから森の雰囲気すべてをとりこむかのように鼻から大きく息を吸い込み思い切り吐き出す。


 森の中独特の、しめりけを含んだ柔らかい匂いがした。


 瞬時にヤエの顔がヒナタの頭に浮かぶ。

 これもヤエそのものだから。

 少し遅れてテレジアの少しとぼけた顔が追いかけてくる。


 大好きなママたちの顔。


「ヒナタが絶対にヤエママとテレママを守れるようになるんだー!」


 森の中で、一人決意を言葉にする。


 勇者の本能なのか。


 いつの頃からかヒナタの強くなる目的はママ二人を守ることになっていた。

 まだテレジアにすら勝てないヒナタの身からすると。

 それはとても高い目標のように感じるが。

 言葉に出せばそれは実現可能だというのが、勇者の本能で理解できる。


 ヒナタの本能が一歩一歩積み上げろと命じてくる。


 そこで急に鍛錬モードのスイッチが入ったヒナタはその場で剣の鍛錬を始めた。


 仮想のテレジアを相手にして剣を振る。

 狸テレジアはトリッキーな動きでヒナタを翻弄してくる。

 のらりくらりとヒナタの剣を避けてはしっぽを当ててくる。


 まだ勝率は一割もない。


 そしてきっとヤエはもっと強い。

 ヒナタが何度か稽古をつけてほしいとお願いしたけれど。

 私は剣なんて使えないわよー。

 と断られていた。


 その時の優しいふわふわした笑顔と森のような深い緑色の瞳を思い出していると。


 ヒナタの気配感知になにかが引っかかった。


 どうやら少し離れた場所からなんらかの存在がこちらに近づいてくるようだ。

 相手もヒナタが気づいたのに気づいたのか、動きが止まった。


 ヒナタはそちらに向かい。


 手に持った剣を横一閃に薙ぐ。


 剣が空気を裂き。


 その先に、確かにたじろぐような足音がした。


 獣の足音じゃない。

 人間の足音だった。


 ヒナタは剣を片手で構えて、その切先をゆらりと音のした方へ向ける。


「だれー? ヒナタにごようじー?」


 幼児らしい口調で不審者に問いかける。


 念の為、分体を解除して自分の体に戻しておく。

 分体を作っていると身体能力が下がってしまうからだ。

 ヒナタを知っている人間だったらちゃんと声をかけてくる。

 あの時、命を助けた狩人などは、テレジアと一緒にいる時にたまに会って少し話したりもする。


 不審者の気配はヒナタの問いには答えず、聞き取れないくらいの声で問答をしている気配がある。

 その声を聞くためにヒナタは身体強化のスキルを発動して聴力を強化する。


 会話が聞こえてくる。


(おい! あれがもしかして例の勇者ってやつじゃねえのかよ!)


(は? マジかよ、どうすんだよ!?)


(いや、いやいやさっき勇者なんて関係ねえ、関わらねえって言ったばっかだろうが)


(でもよ、相手はガキ一人っぽいぜ)


(待てよ! それはよくねえ、よくねえと俺は感じる。森の中までは魔皇子の目は届かねえ、無理に勇者をさらう必要はねえんだ。さっきお前もそう言ってただろ)


(ああ、そう、そうだよな)


(わかったら、引くぞ)


(……おう)


 ここで会話は終わって、二人の男の気配はジリジリと後ずさりを始めた。


「行っちゃうのかー、つまんないなー」


 ヒナタは剣の切先を下ろして。

 二人の男のゆっくりと下がっていく気配に視線を向ける。

 言葉からはヒナタをどこかへ連れて行こうとしているようだった。


 ヤエママやテレママがいたら即座にヒナタを狸のしっぽ亭に連れて帰るだろう。


 幸い、今は二人の男はヒナタに接触をする気はないようだし。

 本当はヒナタもおとなしく家に帰るのが正しい行動だろう。


 わかってる。


「でもつまんないなー。追っかけてみよっと」


 ヒナタは不審者二人の気配がする場所へ一足飛びで飛んだ。

 すでに発動済みの身体強化の効果もあって。

 あっという間にヒナタは二人の男の目の前に到着したのだった。


 ヒナタの目の前には。

 二人の魔族が間抜け顔で立っていた。

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