表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大森ヤエの異世界転生スローライフ~森に勇者が生えました~  作者: 山門紳士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/15

3、森、転生

 転生したら森でした。


 ヤエの頭に浮かんだのはこんな言葉だった。

 その言葉どおり、生まれ変わったヤエは森になっていた。


 森。


 それは木の集合体。

 林の上位。

 どこまでが林でどこからが森なのかは正確にわからないけれど。


 そんなことなどどうでもいいほどに。

 ヤエの自己認識が自分を森だと言っている。

 ヤエの視界には一面の木々が広がっている。

 かといって自分が森に立っているというわけではない。

 みえている木々そのものが自分だと見えている。


 どうにも不思議な視界だった。

 あまりのわけのわからなさに。


(ステータスオープン!)


 異世界転生によくあるコマンドを頭の中で唱えてみると。

 どこかで見覚えのあるような画面が目の前に浮かんだ。


 それはやっぱりステータス画面で。


 その種族の項目には当たり前みたいに、森と記載されていた。


(森が種族かどうかは大いに抗議したいところだけれど、ここはひとまず!)


 テレジアに事情を聞こうと口を開いた。

 森に口はないけれど、不思議なことになんとか意思が声になった。


「テレジアさん! 聞こえる!? 私、森なんだけどー!」


 視界にテレジアはいないが、なぜか存在は感じている。

 いるのはわかっているんだ。


 その感覚にしたがってどこにいるかわからないテレジアに意思を伝える。


「はい、森ですよー。よかったー。転生成功ですねー」


 通じた。


 やはりヤエの感覚は間違っておらず、テレジアは一緒に転生できていて、伝えようとした言葉もどうやら無事伝わったらしく、のんきな言葉が森の中から返ってきた。


 その声色は異世界転生ジャンクションで聞いていた時よりも安らいでいる。


 その声を聞いてやっぱりこっちに誘って良かったと、ヤエは安堵に胸をなでおろした。

 森には胸もないけれど、不思議なことに気分は落ち着いた。


 だがしかし!


 よかったのはそこまでだ。


 テレジアに言葉が伝わったのはいいが、ヤエの抗議は全く伝わっていない。

 あまつさえテレジアは転生が成功だと言っている。


「ちょ、ちょっと待って!? 成功してないわよ! 私は森になってスローライフがしたかったんじゃなくて! 森に住んでスローライフがしたかったんだけどー!?」


「あ、そうだったんですか? てへ、しっぱいしっぱい」


 ヤエの言葉にテレジアはどこまでものんびりと答える。


「テレジアさん!? それで済まないでしょ! もーどこにいるんですかー!」


 この声を聞いていると、あやうく、まあいいかと思いそうになる。


「私ですか? ここここ、ここでーす。見えますかー?」


「ここって言われてもわかんないし、私、森だから動けないわよ。どこなのよー」


「えー私は森の中にいますよう。森になったヤエさんなら森の中は一発でわかるはずですよ。ほらほらちゃんと全体を見てみてくださいよう」


「ええ? そんなこともできるの?」


「もちろんですよう。だってヤエさんは森そのもの。私なんてヤエさんの腹の中にいるようなもんですよう」


「いやな言い方するわね。いくら食べるのが大好きな私でも神は食べないわよ」


 ヤエはテレジアに言われた通り、自分の全体を把握するようにして、そしてその森の全てからテレジアの気配を探ろうと意識した。


 途端。


 感覚がブワッと広がった。

 視点は天高く上がって、森全体が見える。

 今までは木をみていただけだった感覚が、一気に森を見ている感覚に広がった。


「すっごい! 全部見える!」


 拡張された自己の感覚に感動して、ヤエから思わず感激の言葉がもれた。


 しかも全体が見えるだけじゃない。


「森の木々の一本一本、下草、苔、落ち葉ですら見えるわ! 全ての状態が認識できる」


「そうでしょうそうでしょう」


「驚いたわ。人間の頃だってここまで自分の全部がわかることはなかったわよ」


「ほらほら、ヤエさーん。私はここですよー。わかりますかー?」


 声を頼りにヤエはテレジアを探す。

 本来は砂漠の中から一本の針を探す行為に近しいけれど、今のヤエにならそれが簡単にできる。


「えっと……テレジアさんは……っと」


 自分の中のテレジアの気配。

 いわば異物を探す。

 それはすぐに見つかった。

 意識をそこへ向ける。


「あ、いたいたあぁ……って狸? なんで? テレジアさん狸に転生したの?」


 ヤエの中で見つかったテレジアは、愛らしいもふもふとした狸になっていた。

 どうみても狸だけれど、それがどうしようもなくテレジアだと感じる。


「ええ、そうなんですよう。私、実は大の狸好きでして、神をやってた頃はよくヤエさんの世界の動物園をのぞき見して癒されてたんですよう」


「だから狸になったの? って、いや、見るのとなるのは違うでしょう? 私も森は好きだけど、森になりたいとは思ってなかったわよ」


「そうですかあ? 違いますかねえ? 神から見たら狸も森も人も変わりませんからねえ。ま、どっちにしろ、もう元には戻れないし。私、狸になりたかったんで大丈夫ですけどねー」


 テレジアが戻れないということは、ヤエも戻れないということ。


「……なんか、なんとなく私が森に転生させられた理由がわかったわ」


 人に見えて神は神。

 視点も思考も全く違うのだ。


 なってしまったものは仕方ない。

 森に転生したヤエは、森の姿でスローライフを目指すしかない。


「森かー」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ