27、森の変化
三人での食事中、ヤエはテレジアに問いかける。
「ねえ、テレジアさん。最近の森の様子はどう?」
ナイフとフォークでサワラの身を切りながら、ヤエはテレジアに問いかけた。
「んも!? ふご、んん゛ごっく…………んっと?
どう、とはなんですか? 何か森の中で気になることありました?」
お口の中でまったりとしたマッシュポテトの食感を堪能しているところへ。
急に問いかけられたテレジアは急いで飲み込んでからヤエに答えた。
それに横からヒナタが口を挟む。
「あーテレママ、それーお行儀悪いんだからねー」
「わかってますよう。まったくもう最近のヒナタは口がへらなくて困ります」
「テレママに似たんだよー」
「まったく! ああいえばこういう! お行儀はわかったからもういいですよう! 今はヤエさんと話をしていたのです! 人の話に割り込むのもお行儀が良くないですよう」
「む、はーい」
釘を刺されたヒナタはおとなしくそこで引いて。
サワラのバター醤油ソテーをモキュモキュと食べはじめた。
さっきまで憎まれ口を叩いていたはずなのに。
ぷくりと膨らんだ頬がとても可愛く見えて。
テレジアは自分がヒナタを愛していることを再認識した。
そこで満足して、ヤエとの会話に話を戻す。
「それで、ヤエさん、森で何か気になりますか?」
テレジアの心の動きが見えないヤエからすると、自分のさっきまでの行動を全部棚上げにしてヒナタを叱る形になっている狸女神に少し呆れる。
しかし、森に関して今ヤエが感じていることに話を戻すため。
守護者であるテレジアにふたたび問いかけた。
「気になるっていうのかな? なんだか最近の森の中にいる人が増えてる気がするのよね。しかも今までの人間とは異質というか、私の知ってる人間とは違うというか」
「ああ、それは確かにそうですねえ。最近は人間種よりも魔族種が多く森の中に入ってきていますね」
「魔族種? この世界にはそんな人がいるの? あのツノが生えてたりする人たちが魔族種なの?」
「ですです」
「魔族の人たちはあんまりメッされないよー。悪い人じゃないと思うよー」
テレジアに帯同しているヒナタも魔族に対する感想をいう。
「確かに彼らは森の恵を取りすぎることはありませんね。というより狩りに来ている感じではないのですよう」
「そうなのよね。私も手が空いた時に森の中を見てるんだけど、狩りをするっていうか何かを探しているように見えるのよ」
「あー確かにそれはありますねえ。気になるなら捕まえてきて尋問しますか?」
「尋問って!? テレジアさん急に物騒になるのやめて。そこまで気にしてないわよ」
「でも言われると私も気になってきますねえ。言われてみれば確かに彼らの行動は森の中を歩き回って何かに遭遇するのを待つような感じですもん」
「でしょう? 少し不気味よねえ」
魔族種の不審な行動にヤエとテレジアは見つめ合って眉を顰める。
そこへおとなしくマッシュポテトをモキュモキュしていたヒナタが、ねえねえと急に口を挟んできた。
その声に二人の視線が自分に向いたのを確認してからふたたびヒナタが口を開く。
「ヤエママ、テレママ! 大丈夫だよ!」
それは満面の笑顔だった。
大丈夫という言葉はヒナタにとって大好きな言葉。
ヤエからもらった嬉しい言葉だった。
「どうしたの? ヒナタ」
「なにが大丈夫なのですか?」
とはいえ、大人ふたりは急に大丈夫と言われても意味がわからない。
妙に自信満々なヒナタの笑顔をじっと見つめる。
なんだか生意気な顔をしているけれどそれすらも可愛いと思ってしまう。
「どんなのが来てもね! ヒナタがママたちを守ってあげるから! だから大丈夫!」
大人ふたりの怪訝な質問にもまっすぐに答えるヒナタ。
ナイフとフォークを両手にかかげて、ふんすと鼻から息を漏らしている。
それはあまりに愛らしい姿で、ヤエもテレジアもさっきまでの会話などすでにどうでも良くなってしまった。
今すぐにでもこの可愛い娘に愛を伝えたい。
ヤエは抱擁を。
テレジアは鼻チュウを。
ヒナタが嫌がり身を捩って逃げ出すまでしつこく続けるのだった。




