16、森の王と可愛い勇者
ヒナタと出会ってから。
もう少しで一年が経とうとしていた。
つまりヒナタはもう少しで一歳をむかえることになる。
その成長具合はさすが勇者といった所か。
一歳を待たずしてすでに食事は大人とほぼ同じものを食べているし。
ひとりでスタスタと歩けるようになって、言語による意思疎通もある程度形になっている。
ヤエはテラスに立ってヒナタの後ろ姿を見ながら思う。
きっとヒナタは世界に愛された天才なのだろう、と。
最近ではテレジアの日課である森の巡回に、ヒナタも同行するようになっていて。
今もちょうどクマゴンの背中に乗ってテレジアと一緒に森へと向かう所だった。
その背中を。
ヤエは見送っている。
ヒナタのその後ろ姿には、すでに勇者の風格がただよっているように見える。
でももしかしたらそれは親の欲目で。
他人から見たら幼い金太郎にしか見えないかもしれないけれど、ヤエにはそんなの関係ない。
自慢の娘だ。
テレジアと森の巡回に行くのがヒナタのルーティンになってから。
ヒナタはヤエのそばからも離れるようになっていた。
それは世界の脅威としてのヤエの危険度が下がったからなのか、単純な母子分離なのかはわからない。
「ま、どっちにしろヒナタの成長としては良い傾向よね。あ、でも、テレジアさんもヒナタのママだから、母子分離とは違うのかな?」
成長をうれしく思うと同時にさみしさを感じながら。
それを誤魔化すように誰もいなくなったテラスでそんなふうにひとりごちた。
◇ ◇ ◇
「ヒナタ、今日もちゃんと森の王の仕事をするんですよう?」
「もいのおー? テーママ、もいのー?」
「そうです。私は女神であり、狸であり、森の王なのです」
「テーママ、しゅごーい」
「ふふ、そうでしょうそうでしょう」
「そでそうそでそー」
ヤエがそばにいたら、何をやってるんですかテレジアさんと呆れるだろう。
だが、呆れられようとなんだろうと。
テレジアはヒナタに褒められるのがとても嬉しい。
むしろ積極的に褒められたい。
延々と女神仕事をしていた時には誰にも褒められなかった。
それはとても空虚で女神テレジアの心に穴を開けた。
ヒナタに褒められるとそれが埋まる気がする。
「ヒナタが望むならば、全てをあなたに与えられますよう」
母を通り越して祖母みたいなことを言い出す始末。
「あたー?」
さすがにヒナタも言葉が難しくて理解できない。
こてんと首を傾げる。
「ヒナタにはまだ難しい話でしたねえ。大丈夫です。ゆっくりでいいのですよう」
「あーい、ゆくーりー」
森の王と勇者は熊の背で揺られながらゆっくりとした未来の話をするのだった。




