第39話『物語ラスボスVSイレギュラーボス』
ゲート内突入。
上空に固定されていたゲートから入ったからか、内の世界も上空から降下。
地面に着地すると、待ち受けているのは沢山のモンスター。
しかし気が進まない。
なぜなら、場所としては学園の敷地内だから。
「考える前に――!」
魔力を剣に込め、横一線に放つ。
「これでよし」
視界に入るモンスターを葬り、視界が晴れる。
気が引けるとはいえ、ゲート内には俺しか居ないし、ここで魔力をぶっ放して校舎を倒壊させても現実には影響しない。
じゃあ今すぐに実行すればゲートを破壊できるのでは、と言われると、そう簡単に解決できる話でもなく。
ゲートの範囲がわからないうえにゲートボスがどこに居るかが問題。
「はぁっ」
再び囲まれ、今度は回りながら魔力の斬撃を飛ばし駆逐。
計2回のゲート破壊を参考に考えると、陰の広範囲デバフを索敵として利用できたからボスの居場所を把握することができた。
だが今は、それができない。
「……おっと」
冷静に状況を判断しようとしていたのに。
地面が抉れるほどの轟音と共に、ボスと容易に想像できるモンスターが姿を現した――しかも2体。
灰色の狼に赤毛の熊。
どちらも見上げるほどの……たぶん全長3~5メートルぐらいだろう。
転生する前の俺だったら、間違いなく逃げることすらできない。
鋭い眼光は刈り取る命を見定め、むき出される獰猛な牙は獲物を餌としか認識していないと容易に想像できる。
本体だけでも目線の高さを超えているというのに、あの太い腕と先に生えている鋭利な爪は恐怖そのものだ。
「様子を窺っているのか?」
堂々と登場した割に動きがない。
襲撃してくるモンスターの波も収まったし、戦場で訪れる静寂は不思議なものだ。
体がソワソワするし、思考し何かしらの手段で情報共有しているとはいえ……獰猛な獣が取る行動など物理的な攻撃以外はありえ――。
「ほう……」
人は見た目によらず、という言葉を獣、いやモンスターへ向けて思うことがあるなんて。
狼が風、熊が炎の渦を体の回りへ発生させている。
魔力を操り、魔法を扱うというのか。
観察を続けていると、それら魔法は次第に速度と規模を増していく。
「なるほど……」
好奇心半分、警戒心半分。
先頭の局面を考慮するのであれば、最大火力となる前に攻撃を仕掛けた方がチャージの中断を狙えるはず。
「いやいや、それじゃあ――もったいない」
俺は改めて事実を噛み締める。
この世界に転生し、自分の死を回避するために奔走する日々を送ってきた。
誰に本当の能力を悟られないよう警戒し、物語の流れを変えないよう立ち振る舞い、3人の関係性がいい方向へ向かうよう気を遣い。
自由を謳歌できるのは、せいぜい自室と夜とゲート内だけ。
じゃあ今ぐらいはやりたいようにやってもいいじゃないか。
「ああそうだ。ゲート内全てを破壊し尽くしてもいいじゃないか」
俺は2体が万全の状態になるタイミングを、剣を前に出して待つ。
この剣の恐ろしい能力は、圧倒的な硬さを誇る魔力障壁。
エンドコンテンツのラスボスが魔力をほぼ無効化してくるなんて、本当に厄介の何者でもない。
だってこのゲーム、魔法を扱って戦闘していくゲームだぜ?
完全にネタバレだが、序盤から終盤、そして表面から裏面まで――ずっっっっと主人公が魔法攻撃を扱えないことに疑問が残り続けていた。
事実、物語が進行するにつれてヒロインが魔法の能力が開花していくから、その均衡で無理やり納得していた。
が、まさかのまさか。
エンドコンテンツのラスボスを攻略する、ただその一点だけで設定が寝られていたと知ったときには……鳥肌からの感情爆発有頂天だったが。
「さて、そろそろか」
それぞれが発生させていた風と炎は渦となり、規模が大きくなるにつれて合わさり、竜巻となって見上げるほどの高さまで伸びている。
あの一撃が、もしも地上で放たれていたのなら――間違いなく学園は崩壊し瓦礫の山となっていただろう。
まあ、ここまで大きな魔法を準備させる前に先生たちが妨害しているだろうけど。
『ガオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
『ワオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
――くる。
俺は構えを崩さない。
赤い炎と緑の風が混合し、地面を抉り、辺りを切り刻み燃え焦がしながら前進し続け。
それでも俺は動かない。
熱を感じる、地面が抉れる、一言では言い表せない音の集合体がカザキリ音と共に距離を詰めてくる。
さすがイレギュラーゲートにイレギュラーボス。
衝突のタイミングに合わせるため、この攻撃に加え口元でそれぞれ魔力を蓄え追加魔法を放とうとしている。
油断せず、確実に命を刈り取ろうという算段か。
『バァッ!』
『ガァッ!』
「――ふっ」
目論見通り、竜巻が俺に直撃するタイミングで攻撃を放ってきた。
だが俺は動かず、剣先を差し出し続けた。
結果。
「なるほど、こんな感じになるのか」
この剣の恐ろしいところは、魔力障壁だけにあらず。
魔法を魔力として剣に蓄積することができ、倍増して放つことができる。
そして今、魔力を吸収した剣は白く輝き。
「一撃で終わりだ」
俺は地面を抉って上空へ跳ぶ。
目標高度に辿り着く間、懐かしさにクスッと笑ってしまう。
「あったよな、あまりにも残酷な初見殺し」
エンドコンテンツのラスボスを討伐するために辿り着いた、特殊ゲート内。
表面と裏面と同様に育成して強くしたキャラクターたちで挑む戦い。
いつものようにバフとデバフを発動させ、前衛の守りを固めつつ強化された魔法攻撃を仕掛ける。
だがすぐに思い知る。
この剣によって吸収された魔力に加え、ラスボスの魔力も上乗せされた序盤の一撃にして壊滅の一撃。
「最初から育成し直しだもんなぁ」
そう、せっかくストーリーを進め時間をかけて経験値を稼ぎ育成したのにもかかわらず、全てが無駄だったことを思い知らされる。
根本的な育成法を変えなければ攻略することができないなんて、本当に鬼畜だし絶望した。
本当に絶望した。
最終局面だからキャラクターの基礎攻撃力も高いし、バフで威力が上乗せされているから魔力障壁でどうにかなるものではない。
デバフでラスボスの基礎能力が下がっていても、そもそもラスボスのステータスは文字通り化け物だし、吸収された魔力にデバフは反映されなかった。
「でも今は」
上空、雲の高さに到達。
「その一撃を、俺が使えるんだもんな」
そして今は人目を気にしなくていい。
この機会を活かし、憂さ晴らしも兼ねてゲートを完全に破壊する。
さあ繰り出そう。
この剣の名前でもあり、最強の技を――。
「――【聖裁の破壊】」
剣を頭上から振り下ろし、地面へ広大な光を放つ。
『――』
『――』
2体は反応することなく消え去り、校舎も、校庭も、全てが巨大な穴が形成される手前の景色でしかなく。
見渡す限りの全てが残骸と塵となった。




